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初対面と役割は唐突に

すごい久しぶりの投稿になります。

お話、題名その他もろもろ変更を行いお話も修正を入れました。

少しずつ更新出来ていけたら良いなと思っています。

「ここがロベリア邸だ。どうだ? 大きいだろ?」


アース様の声が、やけに遠く聞こえた。


「……っ」


馬車から降りると、そこに広がる光景に俺は思わず息を呑んだ。目の前には、ただ大きいという言葉だけでは片付けられない、荘厳な屋敷が建っていた。建物全体は深い紫色で統一され、夕焼けに染まる空の下、その色彩は一層深く、重厚に見える。


庭は色とりどりの花々が咲き誇り、その真ん中には屋敷へと続く、真っ直ぐな石畳の道が伸びていた。


アース様は、呆然と立ち尽くす俺を見下ろし、軽く笑みを浮かべると、先に屋敷に向かって歩き出した。


その背中を追いかけるように、俺もまた、辺りに目を配りながら真っ直ぐ伸びた花園の道を歩いて行く。


こんなに手入れの行き届いた、色とりどりの花畑を一体誰が手入れしているのだろう? 見たこともないような珍しい花々が、惜しげもなく広がっていて、まるでここだけおとぎ話に出てくる花園みたいだ。


そんな事を思いながら、アース様の後ろを着いて行っていた時、屋敷の重厚な扉の前に人影が見えた。


「あっ! 父さん! お帰り〜!」


一つの人影が、駆け出すようにアース様に向かって大きく手を振った。少年だろうか。その声は明るく、軽やかだった。


「お、何だお前たちか。こんなところでどうしたんだ? まさか俺の出迎えか?」


アース様が、少し驚いたような顔で尋ねる。


「え? そんなつもりなかったよ。たまたま父さんがタイミングよく帰って来ただけだよ」


そう言った少年は、おそらく悪気はないのだろうが、ヴァイオレットモルガナイト色の瞳を瞬かせると、不思議そうに首を傾げた。


髪は短髪で、アース様と同じ緋色の髪。なるほど、親子か。


「お、おお……そうか。じゃあ何でお前たちはここに居るんだ? ウラノス、イクシオン」


アース様に名前を呼ばれた二人は、少し困ったように表情を歪める。


「実は……ちょっと今みんなで人探ししててさ」


ウラノスと呼ばれた少年が、照れくさそうに頭を掻いた。


「ん? 人探しか? 何でまたみんなで人探しなんかしてるんだよ?」


「父上。お帰りになられたばかりで申し訳ないのですが、あの子を捕まえるのを手伝ってください」


イクシオンは真面目な顔つきでアース様に言う。


ウラノスとはまた違った雰囲気を持った彼は、緋色と青色のグラデーション掛かった髪を持ち、顔には眼鏡を掛けている。


髪質は猫っ毛なのか、紫色のリボンで丁寧に束ねられている。彼の表情からして、探している人というのはとても大切な人なのだろうことが、俺にも分かった。


帰って来るなり早々に人探し。


ま、俺には関係のないことだ。この人達が誰を探しているかなんて、面識のない俺にとってはどうでも良いことだ。


「あ〜……またか」


アース様は困ったように額に手を当てる。その仕草は、日頃から慣れているとでも言うようだった。


そんなアース様の顔を見上げた時、突然ひょこっとウラノスの顔がどアップで俺の瞳に映り込んできた。


「うわっ!!」


当然びっくりした俺は、慌てて後ろへと飛び退いた。心臓が跳ね上がる。


「初対面の人にいきなり『うわっ!』って失礼じゃないかな?」


ウラノスは、全く悪びれる様子もなく、無邪気な笑顔で俺を見つめる。


「い、いきなりお前が顔を近づけてくるからだろ!」


思わず言い返してしまった。


「ねぇ、父さん。この子誰なの?」


って、人の話は無視かよ! 俺の言葉は彼の耳には届いていないようだった。


ウラノスの言葉に、イクシオンも軽く目を細めると、じっと俺の事を凝視してくる。彼のヴァイオレットモルガナイト色の瞳からは、はっきりと警戒されていることが見て取れた。


このイクシオンってやつ、このマイペースなウラノスと違って、ちょっとは話が出来るやつなのかもしれない。


普通見知らぬ子が父親の側に立っていたら、誰だって警戒して当然だろ。なのにこのウラノスって奴は、警戒するどころか興味津々に俺の事を見てきてる。やっぱり兄弟と言っても性格は違うもんなんだな。


そんな事を内心で思っていた時、額から手を離したアース様は、後ろにいる俺に目を配ると口を開いた。


「そうだな、今お前たちにはここで紹介しておくな。こいつは……執事見習いでやって来た少年だ」


「はぁ……執事見習いですか? しかし父上、今のところ新しく執事を募集していると言う話は聞いていません。それにこの少年は、俺達よりも年下に見えますけど?」


イクシオンが訝しげにアース様を見る。ごもっともな意見だ。


「へ〜執事見習いか。じゃあ誰の執事になるのかな? もしかしてボクかな?」


なんて勝手に紹介され、話が先に進み始めている。


確かに執事見習いになると決めたのは俺だけど、まさかこの二人の内どちらかの執事見習いをやる事になるのか? それだったら、話の分かりそうなイクシオンが良いけど……。


「待て待て、順番に喋れっての。おい、少年。お前から見て左に居るのが三男のイクシオン・ロベリアで、右に居るのが五男のウラノス・ロベリアだ。多分ウラノスと歳は近いだろうが、一応この二人はお前の主になる。だから礼儀だけはしっかり弁えろよ」


「…………分かりました」


とは言われても、執事見習いとしての礼儀作法なんて知るかっての。俺は一体何をすればいいんだ?


三男に五男……てことは、あと長男、次男、四男が居るのか。どんだけ兄弟いるんだよ。いや、全員男なのかも疑問に思うところだが。


「この後顔を合わせると思うが、長男はヘリオス・ロベリア、次男はレイン・ロベリア。この二人は双子で今は屋敷に居ない。今年から学校の寮に入って、今度帰って来るのは来年の末だ。そして最後に四男のシヴァ・ロベリア。おそらくシヴァはこいつらと同じく、一番下のあの子を探し回っているだろうな」


と、アース様が言っていると。


「お〜い!! 一体どこに隠れたんだよ!!」


屋敷の中から甲高い声が、この場にいる全員の耳に届いた。


「う、うるさ……!」


ウラノスが耳を塞ぎ、顔をしかめる。


「全く……シヴァは相変わらずだな。おい、ウラノス。私たちも捜索の続きをするぞ」


「え〜イクス兄ちゃん。ちょっとは休もうよ!」


「うるさい、休んでる暇があったらとっとと探して見つけるぞ」


イクシオンは俺たちに一礼すると、ウラノスの手を引いて屋敷の中に入って行った。二人の姿が、あっという間に見えなくなる。


「帰って早々に騒がしいったらないな」


「あぁ、全くだな」


俺は腕を組んで軽く息をついた。そしてさっきアース様が言っていた言葉が脳裏を過ぎった。


「おそらくシヴァはこいつらと同じく、一番下のあの子を探し回っているだろうな」


一番下の子を探し回っている……。


ん? 一番下の子? てことはこの兄弟は六人兄弟!?


あ、アース様の奥様って一体どんな人なんだ……?


「まああの子の事はあいつらに任せて、少年よ着いて来い」


アース様の後ろを着いて行きながら、俺はロベリア家の邸宅に足を踏み入れた。


「お〜い、ヴィーナ。今帰ったぞ」


屋敷の中を通って中庭に出ると、アース様はそのまま俺を連れて大きな庭園へと出た。


庭園の奥を歩いて行くと、ヴィーナと呼ばれた女性が優雅に紅茶を飲みながら、ティータイムの時間を満喫しているところだった。


彼女の周りだけ、時間がゆったりと流れているように見える。


太陽の光に照らされる真っ青な髪に、こちらへと向けられるターコイズブルー色の瞳は、俺たちの姿を映すと数回瞬きする。


ヴィーナ様は持っていた本を机の上に置くと、ゆっくりと立ち上がってこちらへと歩いて来る。その立ち居振る舞いは、まさしく淑女そのものだ。


「あら、アース。お早いお帰りね。ユリウス様とカトレア様はお元気だったかしら?」


「あぁ、相変わらずだったよ。ヴィーナ、紹介するよ。こいつは今日からここで執事見習いをする事になった少年だ」


「あらあら、執事見習い? 少年?」


い、いきなりそんな直球で説明して大丈夫なのかよ? この人びっくりしているように見えるけど?


「私は全然おっけいよ。あなたの好きにしてちょうだい」


しかし、ヴィーナ様はすぐに柔らかな笑みを浮かべ、まさかの返答をした。


「おう! お前ならそう言うと思ってたぜ」


「っ!」


会話の流れに俺は思わず脱力した。


ぎ、疑問も何も抱かないのか!? 見ず知らずの、しかも記憶を失って出自も分からない子供を、こうも簡単に受け入れられるのか?!


こ、この人は……いやこの二人は……只者じゃない。


そう思いながら顔を引きつらせていた時、突然ヴィーナ様の体が小さく左右に揺れた。


「ん?」


アース様とヴィーナ様はお互いに顔を合わせると、嬉しそうに微笑した。何かを共有しているような、親密な笑顔だ。


「まったく、この子ったら。本当にかくれんぼがお上手なのね」


「一体誰に似たんだろうな?」


二人は会話を交わしながら、ヴィーナ様は自分の後ろに隠れていた子を抱き上げると、こちらへとゆっくりと振り返った。


「ほら、カンナ。ご挨拶しなさい」


「……っ」


俺は目を瞬かせた。

ヴィーナ様に抱き上げられた女の子、アース様と同じヴァイオレットモルガナイト色の瞳は、アース様の隣にいる俺に向けられていた。


紫色のうさぎのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、お互いに目が合うと、彼女は少し恥ずかしそうにそっぽを向いた。


「少年、紹介するな。この子はカンナ・ロベリア。六人兄弟の中の末の子で、たった一人の女の子だ」


「えっ! てことは、今さっき彼らが探し回っているって子が」


「そう、この子だ。そして今日からお前がこの子の執事になるんだ」


「は……はあああ?!」


いきなりの発言に、俺は思わず声を上げた。そして顔を引きつらせながら、俺はお嬢様へと視線の先を向けたのだった。

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