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執事に馬鹿と言われたので作戦練り直します②

お嬢様から俺を除く攻略対象キャラクターと呼ばれた者たちの説明を受け、俺は内心で呆れると共に。


「アザレア様のために用意された攻略対象キャラクターたちは、どうして全員がやばい人間なんだ……」


そう思った。


もう面倒くさいからお嬢様同様、俺も『攻略キャラ』と呼ばせてもらう。


ここでフィリックス様の名前が上がった事には少しびっくりしたが、攻略キャラたちは一体どういう条件をクリアして、攻略対象になれるのだろうか?


しかもそれには俺自身も含まれている。


勝手に面識もない人間の攻略対象にされ、その相手と恋に落ちる未来が待っているなんて、考えるだけでもゾッとして居ても立ってもいられない。


フィリックス様なんてこんな話を聞いたら秒で突っぱねるだろう。そもそもお嬢様の話に聞く耳を持たないだろう。


なにせフィリックス様は、お嬢様の事を心底嫌っているからな。何もお嬢様が彼の癇に障るような事をした、と言うわけではないのだが……。


いや、癇に障るような事を散々してきたのか。


確かにフィリックス様は容姿端麗で、彼とすれ違った女性たちは必ずと言っていい程に頬を赤らめて振り返る。


面食いであるお嬢様でも、彼の美貌の虜になるのは致し方がない事だ。


フィリックス様に惚れたお嬢様は、俺に彼の一日のスケジュールを探るように命令してきた。


主の命令を断る理由がなかった俺は直ぐに了承し、一週間フィリックス様の監視を行って、徹底的に行動を調べ上げ分析した結果をお嬢様に報告した。


俺の報告を受けたお嬢様は直ぐに行動を起こした。フィリックス様が一日の大半を過ごしている国の大図書館にわざわざ足を運び、偶然を装って近くの席で同じ本を読み始める。


なんて、ここから上手く行けば王道のラブストーリーでも始まったのかもしれませんが、現実はそう上手く行く物ではありません。


偶然を装ってフィリックス様の近くの席に座り、同じ本を読み始めるまでは良かったのですが――


「ええ〜何これ! この本全然面白くないじゃない。こんなの読んでてどこが面白いのよ?」


と、ラブストーリーが始まる流れを作るどころか、まさかの自分でラブストーリーをぶち壊しに行く方法を取った。


普通ならそこは面白くなくても思った事を口にするのではなく。


「この本初めて読んでみましたが、ちょっとわたくしには難しいですわね。……あら、あなたもこの本を読んでいるのですか? もしよろしければわたくしにも教えて下さい」


ぐらい言えば一発で嫌われるよりも、自分が読んでいる本に興味がある女の子? と疑問形あるいは本好きの女の子ぐらいの印象で踏みとどまれただろう。


しかしお嬢様は思った事を直ぐに口に出すタイプ。一回自分がこれから言う発言に対して、聞く人が傷つくか傷つかないか何て考えられない人だ。


俺は思った事を迷いもなく口にするお嬢様の姿はかっこいいと思っているので、特に気にした事はなかったが、気にしておくべきだったと、この時はさすがに後悔した。


お嬢様の本音を隣で聞いていたフィリックス様は、鋭い目つきでお嬢様の事を睨みつけると勢い良く立ち上がって。


「俺の隣で同じ本を読むのやめてもらっていいですか? あなたのような人と隣の席に居ては、あなたの『馬鹿』が俺にも伝染るかもしれませんから」


と言い、掛けている眼鏡をクイッと上げると本を持ってお嬢様から離れていってしまった。


「あっ……ちょっと」


フィリックス様の威圧に怯んでしまったお嬢様は、謝罪どころか彼に一声かける事すら出来なかった。


これでお嬢様の初恋は散ったかのように見えましたが、これしきの事で諦めるお嬢様ではなく、それ以降も何度も偶然を装ってフィリックス様の後をつけたり追いかけたり、まるでストーカーを間近で見ている感覚に襲われ、いい加減やめてほしいとすら思った。


しかしお嬢様の行動は裏目に出るばかりで、フィリックス様の高感度はどんどん下がっていく一方。遂には堪忍袋の緒が切れたお嬢様が、公衆の面前でフィリックス様の顔をビンタすると言う大事件が起きてしまった。


どうやらそれを機にお嬢様はフィリックス様の事を諦めたようだが……本当に諦めたのだろうか? 俺にはどうにも信じがたい。


二人目に紹介された『ニコラ・マロン・スターチス』に対しては情報不足すぎる。


お嬢様曰く彼は『サイコパス』と呼ばれるくらいやばい人間らしく、これについては後日自分で情報収集をするとしよう。


そしてお嬢様はさっきから三人目の攻略キャラの名前を凝視して表情を歪めている。


さっきお嬢様から『アザレア様を幸せにする大作戦』と書かれた紙束に一通り目を通した時に見えた三人目の名前――


『ルーカス・ネグロ・ド・アウラ・ブーゲンビリア』。


彼はこの国の第一王子で、将来この国のトップに立つことを約束された人物だ。


髪は王家の出を表すブロンドに、瞳はブルーサファイアのように輝く宝石眼を持っている。文武両道で何事も卒なくこなし、時間がある時はお忍びで街を散策し人々と交流し仲を深めている。


そんな彼は幼い頃から剣術も嗜んでおり、たまに王族直属の近衛騎士団の練習場に顔を出しては、自ら進んで練習に参加したり、近衛騎士たちと剣を交えている。


王位継承権第一位のルーカス王子が将来王位を継ぐ事は確実と言われているが、王位継承権第二位でルーカス王子の弟である、『アルファス・ネグロ・ド・アウラ・ブーゲンビリア』王子を支持する声が徐々に大きくなってきていると聞く。


そのせいでルーカス王子派とアルファス王子派の派閥の者たちが、毎日のように睨みを効かせ合っている。


最終的には王族に忠誠を誓っている公爵家三家の同意を持って新たな王が誕生する。


だからこそ攻略キャラの三人目であるルーカス王子の事を、お嬢様はアザレア様のお相手としてどう判断されるのか。


お嬢様の判断によっては最悪アザレア様が、ことの中心人物になり得てしまうかもしれないのだから。もしそうなれば、彼女は文字通り国を揺るがす存在となり、その身に危険が及ぶ可能性も出てくる。


俺は、再び重い溜息を漏らした。アザレア様を幸せにする、その一点は揺るがない。しかし、その過程に潜むリスクは、想像以上に大きかった。

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