9、早速、事件ですか?
よろしくお願いします
クリスマスも近づいたある日、所長が研究室にやって来た。
「どうしたのですか?」
「ちょっと早急に片付ける必要がある案件が発生したんでね。君は拒否できるが話だけでも聞いてもらえないかな」
「ええ、いいですよ」
「3日前の深夜、銀座にネズミの妖が出た。すでに一般人5人が襲われ、重傷者2名、軽傷者3名が出ている。こちらでも5人組のチームを派遣したのだが2名の重傷者を出して戻ってきた」
「ネズミの妖って強いのですか?数が多そうですね」
「妖の数は6体、大きさは小学生程度、素早くて噛みつきが攻撃手段になっている。そして厄介なのはその土地にいるネズミを支配して大群で攻めてくることだ」
「ネズミの大群というのは確かに厄介ですね」
「ああ、そういう事だ」
「重傷者の様子はいかがですか?」
「治癒魔法が効かなくて困っている。隣の病院で普通の治療を行っているよ」
「わかりました。ネズミの妖の討伐ですね。この案件を引き受けましょう。サユさんもユミさんもいいかな?」
「はい大丈夫です」
「所長、先に怪我人の様子を見させてくれますか。一般人の重傷者も含めてお願いできますか」
「一般人の重傷者も隣の病院にいる。怪我が治りにくくて困っている」
「そうでしょうね」
「何か知っているのか?」
「実際に患者を診てからお話しします」
「わかったよ。早速行こう」
病室には重傷の一般人がいた。
私とサユさんとユミさんは医師について検査の手伝いということで病室に入った。
鑑定結果として呪いが認められる。
医師は組織の関係者だ。
彼の前で解呪を行っても問題はない。
治療魔法ですぐに治すのは不味い。
まず患者に睡眠をかける。
その後、解呪を行い、浄化と治癒速度向上の処置を掛けた。
これで傷も治っていくと思う。
先程かけた睡眠はキャンセルした。
ほどなく目を覚ますだろう。
続いてもう一人の患者の病室に行った。
こちらも同様に解呪をして浄化と治癒速度向上の処置を掛けた。
続いて討伐チームの重傷者の解呪と治療だ。
こちらは能力を使う。
医師や看護師、重傷者やそのチームのメンバーも組織の関係者だ。
全員が異能を持っている。
異能と言ってもリーダーの男が2つ、他は1つのようだ。
解呪と治療を行った。
まあ、重傷者だったものは1日程度の休養が必要だな。
リーダーはすぐにも討伐を行いたいようだけど。
今回の件の状況を訊いてみた。
ネズミの妖が出るのは深夜だということだ。
その時間に気配探知で把握したネズミの妖とネズミの大群に対峙した時、後方や側面から攻撃されてしまったということだ。
まず、削られたのが防御障壁を張れる女性と浄化を使える女性だったようだ。
この二人が重傷を負った。
動けなくなった二人を放置して3人は逃げたらしい。
リーダーは気配察知と水操作を行えるようだ。
あとの二人のうち男性は攻撃魔法、女性は治癒魔法が使えるという。
重傷の二人にはネズミにも放置されたので助かった。
30分後に救援隊が治癒魔法が使える女性と救助したということだ。
「それでネズミの妖は6体なのですね」
「俺の気配察知は完璧だ」
「貴方の気配察知の範囲は?」
「半径200mはある」
「側面と後方には妖はいなかったのですか?ネズミはどうしてコントロールされていたのでしょう?」
「そんなのは知るか」
ネズミの妖はネズミをコントロールできる範囲が200mぐらいだ。
後方と側面のネズミを対峙していた妖が支配できないはず。
そうなると他にも妖が最低2匹か3匹はいるはずだ。
「3人が逃げたのは後方ですよね」
まあ、報告書にはそうなっていた。
「それがどうした」
「後方には妖がいなかったと?」
「そうだ」
そうすると左右の後方に1匹ずつかな?
それとも気配探知範囲外になっていたビルの上?
でもそこから支配が届くのか?
強力な妖なのか?
「兎に角、今晩、討伐を行う。君たちも臨時でメンバーにしてやる」
「いや、君たちと一緒に討伐をやるのはお断りだよ。連携もできないしね。浄化をするメンバーがそちらにはいないよね」
「いやいるぞ」
「彼女は1日は安静だよ」
「そうですね医者としても二人を出すのは許可できません」
私の鑑定でも無理だとわかる。
妖の呪いの影響だ。
「決めるのはリーダーの俺だ。新米が口を出すな」
「大体、1回やられて同じことを繰り返すのですか?作戦でもあるのですか?」
「ぐっ。やらなければわからない。地下6階に研究室を持ったからっていい気になるな」
「すでに討伐任務はあなた方のチームから離れました。今は私たちが行う案件です」
「そんなのは俺が許さない」
「文句があるなら所長にどうぞ。それでは」
後ろで騒いでいるが無視して研究室に戻った。
病院で騒ぐなよ。
「それは出陣は22時かな。それまで仮眠をとっておいてください」
その後、所長にもチームのリーダーが重傷だった二人を連れ出さないように注意を促した。
まあ、把握しているようだけど。
* * * *
22時に研究室に集合した私たちは今回の討伐の作戦を検討した。
妖は8体以上おり、強力なリーダのようなものがいる可能性があることを伝えた。
「かなり広範囲に分散していることも考えられます。広範囲の結界を張るつもりです。そしてその範囲を浄化します。妖を倒せばネズミは元の状態に戻ります」
「ネズミは駆除しなくていいのですか」
「妖討伐の邪魔の時は必要に応じてお願いします。優先は妖です。ネズミの駆除は他の人たちの仕事です。また急にネズミが大量減少するとここの生態系も崩れますよ」
「・・・わかりました」
組織の用意してくれた車で銀座に向かった。
銀座4丁目付近で待機する。
私の気配探索は5kmぐらいまで可能になっている。
25時、見つけた。
範囲内のネズミの妖は11体だ。
そのうち1体はかなり強そうだ。
この1体は広域浄化では無理そうだな。
6体のネズミの妖が近づいて来た。
魔力を放出して誘き出したのが正解だけどね。
実は治療の時に鑑定解析であることを調べた。
重傷者の魔力の放出を履歴。
魔力操作関係の本を見ていてこの履歴を調べる方法を知った。
魔力が高ければ放出量も増えるが、中には放出量を抑えているケースもある。
討伐に失敗したチームでは治癒魔法の使える女性が最も魔力を多く保有していた。
しかし、外部にはわずかしか放出していない。
重傷を負った一般人の二人は少ない魔力を垂れ流していた。
怪我を負った後は放出する魔力は減少している。
重傷を負い放置された浄化魔法の使い手も魔力の垂れ流しが多かった。
そのために初めに攻撃を受けた。
さらに妖に襲われ、魔力を吸われ呪いも受けて魔力の放出が止まった。
魔力の放出が止まった後は妖にも放置された。
もう一人の重傷者は魔力障壁を張ったためにターゲットになり、妖に襲われ、魔力を吸われ呪いも受けて魔力の放出が止まった。
二人が重傷になった事で驚いた他のメンバーの魔力の放出が増加して妖たちはそちらを追いかけてようだ。
妖の姿が見えてきた。
距離300m。
周囲にはネズミの大群がいる。
周辺はすでに警察が付近の人たちは避難させた後だ。
道路も封鎖中だ。
よくこんなことができるね。
左右後方に2体ずつ、右後方400mのビルの上に1体がいるな。
情報をサユさんとユミさんに伝える。
初めての実践で緊張しているようだ。
「それじゃあ、妖が逃げ出さないように結界を張るよ。二人は自分を保護する結界を張ってね」
「「わかりました」」
妖がすべて入るように結界を張った。
妖も異変に気が付いてネズミたちに私たちを襲わせようとする。
ネズミにサユさんの水操作によって作った氷の針とユミさんの電気操作による高圧放電で攻撃する。
妖が近づいたところで浄化の弾丸を放ったようだが避けられている。
その時、乱入者が入ってきた。
討伐に失敗したチームの男二人だ。
「俺たちの獲物を横取りするなーーー」
もうお前たちは失敗しているんだろ。
妖に攻撃を彼らが邪魔で浄化の弾丸が撃てなくなった。
浄化は妖や霊などに有効だ。
人間には影響がないのだが浄化の弾丸は勢いあるために人間にあたるとダメージを受ける。
「全く邪魔なんだから」
サユさんもユミさんも浄化の弾丸を打てなくて困っている。
しかしそれもしばらくの間だった。
討伐に失敗したチームの男二人は浄化を持っていないので決め手がない。
妖に襲われて魔力を吸い取られてしまった。
「よし、広域浄化を行うよ。周囲を警戒して」
「了解」
少し遅くなったが妖が十分に近づいて来たので広域浄化を発動する。
これはどうしても発動に時間がかかるので発動までは守ってもらわないとならない。
広域浄化を行うために新たな結界を張った。
やはり親玉らしい1体だけは範囲から外れそうだ。
「広域浄化」
「「「「「「「「「「ぎゃあああああー」」」」」」」」」」
ネズミの妖が叫びを上げるとともに光を纏って消えていく。
簡単に浄化を成功した。
さて、最後の1体だ。
ガーンンン。
ネズミの妖の親玉がユミさんの張った結界障壁にぶつかった。
後ろから近づいたんだな。
ユミさんうまいよ。
「拘束結界、浄化」
障壁結界に激突して戸惑っている妖の親玉を結界で捕らえ、浄化した。
これで任務終了。
呆気ないね。
もっと戦闘があると思った?
そんなことあるわけがないじゃない。
重傷を負った二人の解呪を行い、後はネズミの処理とともにサポートに任せる。
さあ、帰って寝よう。
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