2、事故
自己では死にません。
ああ、大型トラックが猛スピードで近づいて来る。
人々が逃げまどっているよ。
運転手は突っ伏している。
赤い文字で心肺停止と見えた感じが・・・・する。
こりゃ不味いよね。
二人の小学生ぐらいの女の子が手を繋ぎながらこちらに向かって走ってくる。
後ろにはトラックが近づいている。
一人が転んだ。
「近くの建物に入れ!」
そう叫んだが動けないようだ。
転んだ子の脚のところで骨折という黄色い文字が現れたように感じた。
体が勝手に動いた。
私は急いで二人に駆け寄った。
こんなに速く走れたかな。
火事場の馬鹿力か?
「さあ、逃げよう。肩を貸すから」
「無理、お兄さんは逃げて!」
ああ、もうトラックは目の前だ。
タイヤに轢かれず、トラックが体の上を通過すれば。
ああ、駄目だ、バンパーがスカート状の構造がになっている。
地面との隙間があまりにも少ない。
頭だけでも無事なら助かるかも。
ヘルメットのようなものがあればと考えた瞬間、二人の少女と私の頭が透明なヘルメットのようなものに守られたように感じた。
迫ってくるトラック、時間がゆっくりと動くように感じる。
覚悟を決め、トラックに背を向け、二人を守るように覆いかぶさる。
体にトラックのバンパーが触れた瞬間、トラックの音が消えた。
<相対運動エネルギ中和完了>
何かが私に告げたようだ。
トラックに撥ねられたはずなのに衝撃はない。
即死か?
でも覆いかぶさって守っている少女たちの存在は感じる。
トラックの方を見ると・・・トラックは停止していた。
我に返って少女たちを見ると脚を骨折したらしい少女は痛そうに顔を顰めている。
無意識に自分の手を骨折した脚の方にかざすと少女も体がほのかに光ったように感じた。
転んだ時の擦り傷も消えていく。
「え、痛くなくなった。まさか」
無意識にも一人の少女の方にも手をかざした。
少女も体がほのかに光ったようだ。
もう一人の少女を助けようとした時にできた擦り傷も消えている。
「大丈夫か。トラックをよく止めたな」
「そうなのか?それより運転手は」
声をかけてきた警察官たちと運転席へ向かう。
突っ伏していた運転手を運転席から降ろして横たえる。
近くの店の人がシートを敷いてくれた。
「AEDを!」
脈をとった警察官が叫んだ。
近くの店員が店に駆け込んでいった。
一方、私は無意識に運転手の胸付近に手を置いた。
そのようにするように誰かに告げられたように感じた。
その瞬間、運転手が痙攣したように見えた。
電気ショック?
運転手の体がほのかに光ったよね。
運転手は呼吸を再開した。
蘇生完了という緑の文字が見えたような感じがする。
「生き返ったか、呼吸を始めたぞ」
脈をとった警察官が叫んだ。
パトカーと救急車のサイレンが近づいて来る。
AEDは使わなかった。
私と二人の少女と運転手と逃げているときに怪我をした数人が病院に運ばれた。
死者はなし、重傷者もなし、かすり傷や捻挫程度が6名。
背中にトラックが接触した私は念のために入院ということになった。
それより問題は私の身元が不明だということだ。
頭を打ったのかと疑われたが否定した。
本人は気付いていないだけかもしれないと言われた。
事故で記憶喪失か?
それが入院になった理由のようだ。
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