11、温泉旅館
寒いですね
「しかし、よく切符をとれましたね」
「そうですね」
12月31日大晦日、私たち12人は下田行きスーパービュー踊り子号のグリーン個室を3つ占有している。
「私たちの旅行社にかかれば容易いことですよ。これからも御贔屓ください。よろしくお願いします」
東京駅で乗車した後、添乗員のサキコさんが昼食の季節限定の幕の内弁当を配りながら答えた。
サキコさんの旅行社ー旅行代理店も組織に属した会社だ。
業務は主に組織の関係の旅行の手配。
案件は日本国内が中心だが、場合によっては海外で協力することがあったり会議があったりする。
そのような旅行布手配はサキコさんが務める会社が担当する。
お盆でも正月でもゴールデンウイークでもシルバーウイークであっても切符を確保してくれるらしい。
必要ならチャーター機が用意されることもあるらしい。
サキコさんも当然、異能者だ。
能力は気配察知か。
「未来予知ですか」
「嫌だわ、私そんな能力を持っていませんよ」
「ええ、貴方の上司の話ですが、そんな感じがして。失礼、忘れてください」
「森羅万象・・・・・か」
「なんですか?ミユキさん」
「いや、上司の能力をどうしてそういうふうに思った?」
「何となくかな?おかしいですよね」
「君自身がすでにおかしいからな・・・・まあ今はそうか」
「酷いですね、今はって?」
「では私は普通車の方へ戻りますから」
「サキコさん、ありがとうございました」
サキコさんは今回は他のグループの添乗もしている。
そちらのグループは私たちの行く旅館の1kmのところにある組織の厚生研修施設に行くらしい。
なお私たちの旅費も組織から厚生費として出されている。
このお弁当も・・・・・・。
嫌な予感がするのだが。
「ところでサユさんとユミさんは本当に来てよかったんですか?巫女さんはこの時期が一番忙しいと思ったのですが」
「はい、私たちも11月に発表された当番表を見た時には驚きました。この時期が丸ごと当番から外れていて。代わりに4日から10日までびっしりと予定が入っています」
「それも大変ですね」
「頑張ります」
うーん、意図的なものを感じる。
旅館の貴賓室に何か出るんじゃないか?
あ、フラグを立ててしまったか。
「だけど個室は見晴らしが悪いのが残念だな」
「そうですね。そろそろお弁当を食べてしまおうかな」
「あ、私も食るよ」
季節限定のお弁当も美味しかった。
満足だ。
列車は小田原を通過したようだ。
食事をして、色々な話をするうちに海が見えてきた。
あれは初島かな。
途中、熱海を過ぎた辺りで女性陣の座席の交代があった。
私と色々と話したいのでそうしたという。
ありがとうございます。
記憶喪失の私に気を使ってくれたのかな?
東京から約2時間半が過ぎて下田に到着した。
サキコさんたちとはここでお別れだ。
こちらはユウさんの実家の方が2台のワゴンでお出迎えだ。
「すみませんね、マイクロバスは入れない山道なので」
「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」
駅から約1時間弱がかかった。
途中からの山道は宿の私有地だという。
そして立派な庭園を持つ旅館に到着した。
実はネットで調べてもこの宿の情報は検索できなかった。
宿があるということはわかったのだが写真とか口コミなどは見つけることができなかった。
組織の厚生研修施設はここから山道を歩いて20分のところにあるという。
先程思ったのだがそちらに向かった人たちは休暇というより仕事という感じがしたのは気のせいだろうか。
この時期に研修か?
早速、貴賓室に通された。
貴賓室は離れになっていて、半2階建てだった。
斜面に建っているのか。
寝室はツインルームが2つと12畳の和室が2つ。
16人ぐらいは宿泊できるよね。
24畳の和室は居間。
食事や宴会にも使える。
風呂は温泉で大小中の浴槽を持つ内風呂が2つと大小の露天風呂。
温泉も3種類引かれているそうだ。
周囲には庭園。
トイレも3つある。
この貴賓室に来てすぐ感じたのは結界を抜けてような違和感。
渡り廊下を通り、離れの玄関を入って少し進んだ廊下で感じた。
「何かありますね」
「流石ですね。銀座の英雄さんは。ぜひお願いしたいことがあります」
宿の主人、ユウさんのお父さんが答えてくれた。
「そのお願いのためにわざとここに呼んだわけですか」
「タカシさん、すみません。こうでもしないとこの時期に来ていただけないと思って。また今年も駄目だと思ったらタカシさんが現れて」
「いいですよ、ユウさん。ミユキさんも御存じだったと」
「何のことかな」
「はああ、どんな案件なのですか?」
「扉が開くんです!0時に」
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