10、クリスマスパーティー
「所長に確認したから24日の夜から明朝までと31日の朝から3日の午後までは不在でいいからね。クリスマスイブはデートもあるだろうし」
各研究室は特殊案件の対処のために24時間、誰かが詰めている。
流石にそれでは大変なのでクリスマスと大晦日から元旦は多くの研究室を休みにする。
つい先日から活動を始めたうちの研究室も休みにしてよいと許可が出ている。
「えー、休みになるんですか。手当がいいのに」
「しかし、イブはパーティーとか忙しいんじゃないか?当番を決めるのも大変だよね。アカリさんもそうでしょ?」
「何ですか、そのリア充。タカシさんは喧嘩を売っているんですか」
「へ、そんなことないよ」
「そうだ。研究室の有志でクリスマスパーティーを開きましょう。タカシさんはデートですか?」
「いや、私が記憶喪失で身寄りもないのは知っているよね」
「それじゃあ、タカシさんもクリスマスパーティーに参加でいいですね」
「えええ、いいけど」
「サユさんとユミさんはデートですか?」
「私はクリスマスパーティーに参加したいわ。ユミは?」
「私も参加します」
今ここにいない秘書のメンバーにもアカリさんが電話で確認を取っている。
全員が参加することになったようだ。
「クリスマスパーティーといったらプレゼント交換よね」
「場所はどうするんだ?」
「20階のレストランやラウンジで個室を借りるのもいいけど、誰かの部屋でやるのもいいですよね。ねえー、銀座の英雄さん」
「なんだい、銀座の英雄というのは?」
「え、タカシさんの事を世間ではそう呼んでいるんですよ。トラックを止めたり、ネズミの大群を処理したりということで」
「はあ、頭が痛くなってきた」
「で、場所の使用許可は?」
「ああ、いいよ」
「やったー」
ということでクリスマスパーティーは私に部屋のリビングで行うことになった。
参加者は私を含めて9名、男性は私だけ。
すごく苦手な状況だな。
自宅では「お先に!」と言って逃げられないよ。
* *
銀座に行った。
クリスマスプレゼントを買いに。
ぬいぐるみとアクセサリーのセットだ。
私以外は女性だからそれでいいよね。
プレゼントを買い、歩道を歩いているときにそれは起こった。
車の暴走。
人々が逃げまどう。
またかよ。
今度は軽乗用車だ。
歩道上を走ってくる。
運転席には誰もいない。
黒い影のようなものが見える?
悪霊?
浄化魔法を放射する。
そして運動エネルギの中和。
結界を使ってゆっくりと停止させた。
今回は私まで20cmもある。
「またタカシさんですか。銀座の英雄は銀座に災いを呼ぶ男ですね」
駆け付けたお巡りさんは今回も同じ二人だった。
実は二人は異能者だということを昨日になって知った。
二人とも風操作ができるという。
かなり弱い風操作のようだが。
「私が呪われているのかな?」
「可能性はありますね。事件を呼ぶ男になっていたりして」
「嫌ですよ。それよりこの車は無人ですね」
「どういう事でしょうねえ」
そのあとまたまた騒ぎになった。
無人だけでなく鍵はなく、ドアもすべてロックされていた。
止めるときに気が付いたが、エンジンが動いていなかった。
今回も事情聴取があった。
自宅に帰ってレストランから夕食を取り寄せた。
疲れて動きたくない。
銀座って私にとって鬼門?
* *
クリスマスパーティーの料理やケーキは20階のレストランに頼んだ。
いや頼んでもらった。
女性陣が分担してクリスマスパーティーの準備をしてくれている。
飾りつけも掃除も何もかも・・・・。
私は部屋を貸してプレゼントを用意するだけだった。
12月24日、準備は任せてくれと言われ、研究室で本を読む。
収納に入っている本は魔導書というらしい。
今は事務室にアカリさんがいるだけだ。
アカリさんは20歳前半だという。
黒髪のポニーテール、身長は私より少し低いが165cmぐらい。
痩せているのにメリハリのある体系だ。
異能は弱い治癒魔法。
明るく、てきぱきと仕事をこなしてくれる美人さんだ。
よく考えると秘書も助手も美人ばかりだよね。
そんな彼女が今まで恋人がいなかったなんて信じられない。
すごくもてそうだが。
そして本人曰く、自分の長所は図々しい所だと。
「準備ができましたよ」
準備をしてくれていたカオリさんとサオリさんが迎えに来てくれた。
カオリさんは少し童顔のホンワカした感じの癒し系だが、攻撃魔法を得意としている。
年齢は不詳。
10代にも見えるけど。
私よりは若いという話だが、私の年齢はわからないぞ。
身長は155cmだと言っていたね。
胸にはボリュームがある。
太っているわけではないが。
サオリさんはスレンダーだ。
できる女性を体現している感じだよ。
防御魔法を得意としているという。
あまり余計な事は話さないね。
身長は私と同じかな。
年齢不詳。
20代後半か?
研究室の戸締りを終え、アカリさんとともに迎えに来てくれた二人について自宅へと戻る。
今日は秘書の5人と助手の2人には私の自宅の開錠許可を与えてある。
こういうのは簡単にできるので腕輪は便利だ。
あ、主寝室は入れないようにしてあるよ。
後の秘書はクミさんとミカさんだ。
二人ともアカリさんと同じ年らしい。
3人は友人で付き合いも長いという。
クミさんもミカさんも身長が160cmぐらい。
普通体型だ。
クミさんは分析という異能を持っているらしい。
彼女のスイッチが入った時には気を付けるようにアカリさんとミカさんから注意された。
なにそれ、怖いね。
ミカさんは浄化の異能を持っているという。
弱くてあまり使えないと言っていた。
異能の強さにはランク分けがある。
強い方からA、B、C、D、Eと国際的取り決めで分けているらしい。
この強さを測定する機器があるらしいが日本にはないという。
機器をおいてあるのはイギリスとアメリカだという。
だから正確な強さのランク分けは日本では不可能だという。
鑑定で少しはわかるらしいけど。
自宅に戻った。
迎えてくれたのはクミさん、ミカさん、サユさんとユミさんと・・・・・
「えええええー」
さらに4人いた。
「今日は参加させてもらうよ」
ミユキさんだ。
「すいません、私たちまで。あ、この前はありがとうございました」
ネズミの妖を討伐できなかったチームの3人娘。
治癒魔法が使えるカナさん、防御障壁が使えるハナさん、浄化が使えるユウさんだったね。
この3人娘のチームはリーダーたちが組織の命令を無視したために解散になったのだそうだ。
実力があったのに残念だよね。
特にユウさんの浄化はかなりランクが高いんじゃないかな。
「はい、今日は楽しんでください」
乾杯の後、歓談をしながら食事を楽しんだ。
お酒もかなりあるよね。
美味しい。
会費はそれなりの金額だったけど支払いは足りたのかな?
「タカシ、飲んでるか?」
「ミユキさん酔っていますね」
「私は酔っていないぞ」
「いやいやいや、でもミユキさんはご家庭の方はいいのですか?」
「あーん、ご家庭?私は独身だ。ずーーーーとクリスマスイブは一人だったんだ。うええええーーーーん」
泣き出してしまった。
そしてワインボトルを抱いて寝てしまったよ。
なんなんだ?
「タカシさんって結構ひどい人ですね」
「空気が読めないというか」
「鈍感」
「あ、ミユキさんはまだ30代前半ですよ」
「あとで謝ってあげて」
「・・・・すみません」
「ミユキさんにはこういう話は厳禁です」
「・・・・・気を付けます」
「では気を取り直してプレゼント交換にいきますか」
「そ、そうだね」
私のプレゼントはアカリさんがゲットした。
え、泣いて喜んでいるの?
そんなにそのぬいぐるみが欲しかったの?
私が得たのは、
「温泉旅館招待券?」
「はい、私の実家が伊豆で隠れ家的な高級温泉旅館を経営しているのですが、今年の正月は貴賓室に予約が入らかったのでそれをプレゼントします。12人までなら泊まれますからここにいるメンバー全員でも大丈夫です」
「でも皆さん、正月の予定はもう決まっているんじゃありませんか?」
「私は大丈夫だぞ」
「わっー!」
ミユキさんが復活した!
「私の予定は身寄りのないタカシのところに入り浸って食事を用意させて、アニメを見て寝正月で過ごす予定だったからな。タカシがここにいなかったら困る。タカシについて伊豆の温泉にいくぞ」
「え、でも・・・・」
「はいはいはい、私も同行します」
「ミユキさんだけを付けるのは危険」
「私は実家だから」
「秘書は付いて行くものよ」
「助手だって」
「いかない人は手を挙げて、はい、全員参加ー」
私の手は秘書3人によって抑え込まれた。
何か柔らかいものが当たっているんですけど。
正月は伊豆の隠れ家的温泉旅館で過ごすことが決定した。
12月31日から1月3日の3泊4日だ。
クリスマスパーティーのほうは深夜まで続き、何故か全員がうちの客室に泊っていったよ。
「あ、言うの忘れていたよ。カナさんとハナさんとユウさんは明日26日からタカシ君の助手ね。昨日決まった人事だから」
「ミユキさんーーーーー」
翌日の朝のことだった。
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