コカ・コーラの空き缶は浄土行きの切符を手に入れた
「愛している」とか「憎んでいる」とか。ヌードルの広告にさえ載らないようなコピーを探している。仮面を被った少年は蔑んだ目を見せては大人たちへ銃口を向けた。蹴り飛ばしたコカ・コーラの空き缶はただの廃棄物には見えなかった。それはきっと浄土行きの切符を少年が手にしているからだろう。身勝手な聴衆は多分少年の目論見を知らない。少年の胸で孵化しつつある卵は極彩色の羽根を見せるだろうことも。僕らに出来ることと言えば、少年が躓いた時に彼へ石を投げる大衆を睨み付けることだけだ。少年はサバイバルナイフを研いで、海岸線へ沈む母と父の面影を封印した。準備は整っている。リュックを背負って、暗い音楽からたちまちの内に離れ、部屋の扉を開ければそこは黄金を巡って、カラスたちがせめぎ合う修羅の地だ。
ガラス張りのビルに映えるツバメの行方を見据えて、少年はゴミ箱の転がった路上から飛び出した。置き忘れたのは過去を知る時計。未来を危ぶむ羅針盤。今を怯えるはずの裸眼。少年の掌にあるのはこの瞬間を楽しむための透視図だけだ。気になったのは好きだったあの娘との想い出だけだったけれど、悔いはないし、後悔もしてない。何より彼女はソーシャルゲームに夢中だからね。少年は黒いマスクをして風を一息に飲み干した。
罪深き日々とマテリアルワールドに行列は続いている。最後尾に並ぶあの娘の後ろ姿は花火と一緒に消えてゆく。少年は跨いだ自転車の速度を上げて、バックミラーに映るあの娘に「さよなら」と叫んだ。強欲なままで、欲深いほどのトラベラーたちは蠢いている。飛び交うキャッシュと価値のない紙幣を少年は手放した。少年に残るのは生か死かの二つに一つ、手をつけられることは限られているから、彼は一先ず景気よくリボルバーの引き金を引いた。
西洋かぶれの仏陀がうそぶく極楽を待っているのは誰だ? 少年は頷く「僕は最初から手ぶらだ。失えるものさえない。ここでは僕は役立たずの用なしだ。だから行く」。自分の名前が冠された看板さえマネーゲームの末路だ。少年のペダルはひたすら漕がれ、琥珀の海さえ渡っていく。友の想い出、やり遂げたこと、ちょっとした手柄。全てを抹消し、少年は虚空と虚無の最中目を見開く。もし自分が仏の掌の上で踊っているのなら、少年は迷いなく仏陀の眉間に弾丸を撃ち込むつもりだ。その曲がり角、見えてくるのは浄土行きの列車。少年は自転車を横倒しにして、列車に飛び乗ると、駆け出した。車両を繋ぐ扉を次から次へと開けて、最後尾、車掌室の扉、次のステージへの扉を躊躇いなく。
アケタ。
何の躊躇いもなく。
アケタ。