プロローグ:この部分はカウントには含まれません
気がついた時には、俺は見知らぬ場所に倒れていた。
「ああ、目を覚ました?」
「う、ううん?」
声がした方に目を向けると、そこにはなにやら杖を持ち仰々しい格好に身を包んだ、三十代位と思しき女性が立っていた。
「失礼ね。私は女神さまよ。」
なぜか俺の思考を読み取ったそのおば…女神さまがこう答えた。未だに自分が置かれた状況を理解できていない俺の頭はひどく混乱し、その女神に対し何を話せば良いのか、というか何をすれば良いかすら分からなかった。
「まだ混乱してるわね。無理もないか。」
俺の様子を察した女神は、
「とりあえず、こうなる前の記憶を思い出してみて。」
そう俺を促した。
ぼんやりとしてはっきりしない頭をなんとか振り絞って、俺は直前まで自分が何をしていたのか思いだそうとした。
俺は普通の高校二年生で、それ以上の説明が要らないような人間だった。得意なことも苦手なこともなく、平凡な毎日を過ごしていた。
ある日、いつものように登校していると、ぼんやりしていたのか赤信号の横断歩道を渡ろうとして、それで…。
「あなたは横から来たトラックに轢かれて死んだ。以上。」
「…えっ?」
女神が継いだ言葉に、俺は絶句した。
「そんな反応になるわよね。」
女神も妙にこなれた感じで俺の様子を冷静に見ていた。そして女神はこう切り出した。
「とりあえず手短に説明するけど、今からあなたをとある異世界に転生させようと思うのね私。」
完全に動きが固まった俺を尻目に、女神は続ける。
「そこであなたには、その世界にのさばっている魔王を退治してほしいの。簡単でしょ?」
「はあ…。」
俺は気のない返事をした。
「そんで、あなたが魔王を退治できた暁には、あなたを元の世界に戻してあげる。」
こう言われて初めて俺は、
「えっ、復活出来るんですか?」
と、彼女の話に目を輝かせた。
「そうそう、ただし一個だけ条件があるのよね。」
ここで女神は妙に渋い顔になって、俺に打ち明け出した。
「前々からあなたみたいにさ、こうやっていきなり死んではここにやってきて、私に別の異世界に飛ばされるみたいな人たちが増えてきたのね。まあ最初のうちは私も良かれと思ってそういう人たちを快く送り出してはいたのよ。ただここ最近、なんていうか、飽きちゃったのよね。」
「飽きちゃった?」
「そう。みんなその世界にほとんど住みついちゃうような感じになっちゃって、やれ一国の王になりますだとか、やれ宿屋を経営しますだとか、やれハーレムを目指しますだとかそんな感じばっかなのよ。その間にお風呂イベントとか、友との熱き友情がどうとか、そんなのが挟み込まれるわけ。いや別にいいのよ、深いストーリーが繰り広げられて、その中で様々が人間ドラマが生まれるとか。別に気にしてないわけ。ただね、ちょっと食傷っていうか、あっさりしたやつも欲しくなっちゃったの私。」
一気にまくしたてる女神の圧に若干気圧されつつ、俺は口を挟まずに最後まで話を聞いた。
「そんな中であなた、とりたてて個性らしい個性もなさそうじゃん。特にイベントとかも発生しなさそうな地味な性格だし。」
些かむっとしたが、まあその通りだ。
「そこであなたには、小説でいったら三万字以内に魔王を倒してきてほしいの。余計な描写とか、細かい設定考証とか、くだらないお色気イベントとかそんなの一切無視してさっさと魔王を倒してきて。」
「…はあ。」
俺は再び気のない返事を返した。
「まあ、やるだけやってみますけど。」
「そう!あー良かった良かった、なんかあなただったら三万字もいかずに一万字とか二万字とかで済ませてくれそうな気はするけど、それならそれでも構いはしないわ。とりあえず三万字を目安にしといてちょうだい。」
「わかりました。」
「あと、私も別に鬼じゃないからそんなにめんどくさい設定だの云々かんぬんがある世界にあなたを飛ばさないから安心して。まあ、細かい指示とかアドバイスとかは私があなたの頭の中に直接語りかけてするから、途中で詰まることもないと思うわ。攻略本を見ながら最短でクリアするイメージね。」
「…はは。」
俺は苦笑した。
「…それじゃ、準備はいい?」
「えっ、もう行くんですか?」
「うん。」
やけにあっさり女神が返答する。
「もう、とっとと転生して、とっととその世界を救ってきて。行くわよ。」
「えっ、ちょっ、待っ…」
言うが早いか俺の体はいきなり謎の光に包まれた。
「うわ―っ!」
そして直後に、俺の意識は失われた。