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序列学園Ⅱ~とある学園と三つの国~  作者: あくがりたる
カンナ奪還の章《退却戦編》
70/132

第70話~怒りの豪天棒《つかさvs賀樂神樂》~

 ****


 海崎(かいざき)はキセルを吹かせながら気だるそうにこちらを見ている耶律柯威(やりつかい)の隙を窺っていた。

 程突(ていとつ)は中位幹部。その仲間ならそれ位の力があってもおかしくはない。現に海崎から見ても決して雑魚には見えない。


「どうした? 来ないのか? ならばこちらから行くぞ」


 耶律柯威はそう言うと、またキセルから仕込針を数本飛ばしてきた。海崎は確実に見切って全ての針を短刀で打ち落とした。

 だが、いつの間にか目の前は煙に覆われていた。


「煙幕か」


 海崎が鼻と口を袖で覆い隠し、一旦背後に跳んだ。しかし、そこには既に耶律柯威が回り込んでおりキセルを棍棒のように振り下ろした。それを海崎は短刀で受けた。鉄の棒で叩かれたような衝撃が短刀から伝わって来た。


「随分便利だな。そのキセル」


「チタン製でちと重いのが難点だがな」


 海崎の短刀と耶律柯威のキセルが鍔競り合った。

 ギシギシとお互いの武器同士が音を立て、僅かに震えていた。

 耶律柯威のチタン製のキセルが海崎のただの鉄の短刀で切れるわけがない。このまま鍔競り合いを続けるとこちらの短刀が砕ける。

 海崎は耶律柯威の腹を蹴り間合いを取った。

 辺りはまだ煙が立ち込めており視界が利かない。

 耶律柯威の姿はまた煙の中に消えた。

 煙の中は危険だ。

 すぐに海崎は煙の薄い方へ走り煙から脱した……が、その瞬間に目の前に膝が迫り、それは頬に炸裂。海崎は地面に倒れた。


「我々は暗殺のスペシャリスト。1対1なら負けはしない。立て。俺の見込みだと貴様はまだやれる筈だ」


 耶律柯威はキセルを吹かしながら見下すような目で海崎に言った。


「ああ、そうだな。すまん。少し油断した。まさか程突の仲間が小細工を使わないと戦えないとは思わなかったのでな」


「何?」


 海崎の挑発に耶律柯威の目付きが変わった。


「さて、仕切り直しだ。来いよ。耶律柯威殿」


 耶律柯威がキセルを吸うのをやめた。

 辺りの煙はほとんど消えかけていた。



 ****



 つかさと綾星(あやせ)の棒と槍がまるで演舞のように美しく舞った。

 完璧な連携攻撃が出来るのはお互いがお互いの事を知り尽くしているからに他ならない。この連携攻撃ばかりはカンナとよりも綾星との方が抜群に相性が良いのだ。


「どうしたの? あんた。逃げてばかりじゃない? 私達を遊び殺すんじゃないの?」


 つかさと綾星は道の端の低い崖になった所まで賀樂神樂(ががくかぐら)を追いやった。このまま突き落とす事も出来るが恐らくこの高さではこの女は死なないし下手すれば逃げられるかもしれない。


「ふん! 餓鬼が! 戦いには相性ってもんがあるんだ! 俺はそれを見極めてるところさ」


 武器を持っていない神樂がリーチの長い武器を持つつかさと綾星に勝つ事は不可能だと思った。


「何だか私の出番なさそうですね」


 つかさと綾星の背後からゆっくりと長刀を持った詩歩(しほ)が歩いて来た。


「当たり前ですー。(ほうり)さんの出番はありませんので海崎さんの加勢にでも行ってくださいー」


 綾星が言うと詩歩はムスッとした顔をしたがどうやら無視する事にしたようで何も反論しなかった。


「よし、決めたぜ。お前達と何して遊ぶか」


「は? こっちは遊びじゃないんだけど?」


 つかさが言い終わるより早く、神樂は何かを素早くこちらに投げた。身体が咄嗟に反応したのでつかさも綾星も詩歩もそれを武器で防いだ。


(ひょう)?」


 落ちた何かに気付き、綾星が下を向いた瞬間、神樂はつかさと綾星の(もと)へ突っ込んで来て腕を振った。


「オラァァア!!」


 つかさはそれを間一髪防いだが、綾星の手の甲を刃物のようなものが少し掠めた。

 つかさと綾星が神樂から離れたところを、狙い済ましたかのように詩歩が刀を横に振った。


「その首頂き!」


「あぶね!」


 神樂はすんでのところで詩歩の横薙ぎを屈んで躱すと脇に転がりながらまた何かを投げた。


「ちっ」


 詩歩は確かに神樂の投げた武器を防いだが、タイミングをずらして投げていた2つ目に対応出来ず僅かに頬を掠めた。


「詩歩ちゃん! 大丈夫!?」


 つかさが駆け寄り詩歩の前で豪天棒を構えた。


「掠っただけです」


 詩歩は毅然として答えまた刀を構えた。


「さっきから投げてたのは鏢ね? 本当に暗器使いだったってわけね」


 つかさは先程拾った小さなナイフのような武器、鏢を神樂に見せた。


「そうだぜ? お前らを殺すにはそれで十分だからな。わざわざ重い武器なんて持って歩いてられねーよ」


 神樂は余裕そうな態度で答えた。


「綾星、行くよ」


 つかさがまた綾星を呼んだ。しかし、綾星の返事はなく、不思議に思ったつかさは綾星の方を見た。すると綾星は膝を突き、地面に前のめりに倒れた。


「え!? どうしたの?? 綾星??」


 つかさが綾星に駆け寄ろうとすると今度はつかさの隣で倒れる音がした。


「詩歩ちゃん!?」


 つかさが振り返った時には既に詩歩は神樂に捕まり縹を首に突き付けられていた。


「どういう事!? 何で、急に2人共……」


「急にじゃねーよ! ばーか! 俺の鏢を食らっただろ?」


「……まさか、毒??」


「そうだよ。だが安心しろ。死なないやつだ。身体が痺れて動けなくなるだけ」


 神樂は詩歩を人質に取ったままゆっくりとつかさの横を通り、倒れている綾星の下へ近付いた。


「綾星に触るな! 詩歩ちゃんを放せ!」


 つかさの怒声に全く動じない神樂はむしろ不敵な笑みを浮かべた。


「分かりましたー、って、放す馬鹿がどこにいんだよ、メスガキ」


 神樂は詩歩を綾星の隣に寝かせると腰のサイドバックから液体の入った小瓶を取り出しつかさに見せ付けた。


「何よ……それ」


「これはな、拷問用の劇薬だ」


「なっ!?」


「だが、安心しろ。全部飲ませても死にやしない。この薬は強力な催淫作用のある媚薬。適量飲ませるだけで身体が蕩けるようなが興奮状態になる」


「ふざけた物を……」


「メスガキと遊ぶには丁度いい薬だろ? だが今のコイツらは身体が痺れて思うように動かせない。つまり、必然的に興奮状態の身体にただ黙って耐え抜かなくちゃならねー。地獄の苦しみを味わう事になるんだ」


 神樂はおぞましい事を言いながら大笑いした。


「やめなさい!!」


 つかさが豪天棒を握り締め神樂に突っ込もうとすると神樂は詩歩の首に縹を突き付けた。


「おっと、邪魔すんなよ。邪魔するならまずコイツの首を掻っ切って殺す。邪魔しなければとりあえず殺さない。遊ぶだけだ」


「卑怯な……」


 つかさは歯を食いしばった。豪天棒を握る手にも力が入ったがそれ以上は何もする事が出来なかった。


「……すみません……つかささん」


 詩歩の声が微かに聴こえた。


「へー……もう喋れるのか。普通なら30分は喋れない筈なのに」


 神樂は詩歩の首をツンツンと鏢の先でつついた。詩歩はその度に苦悶の表情を浮かべた。


「お願い! やめて!」


 つかさの懇願など勿論聞き入れない神樂は小瓶のコルクの蓋を片手で開けた。


「……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」


 呪文のような言葉を発していたのはうつ伏せに倒れている綾星だった。目だけが神樂を睨み付けていた。


「この薬、全部飲んだらどうなるか、この既に頭のイカれてる赤髪のメスガキで試してやろう」


「綾星に触るな!!」


 つかさの怒声を無視して神樂は綾星の前髪を引っ張り上げ、その口に小瓶の中の液体を全部流し込んだ。


「さあ、見てろ。これだけ飲めばただ性を貪るだけの獣になる! ほら、もうこの赤髪のメスガキは要らねーから返すぜ」


 神樂は乱暴に綾星を地面に叩き付けると詩歩を引きずり起こし首元に鏢を突き付けたまま綾星の様子を観察し始めた。

 つかさは綾星の元に駆け寄り抱き起こした。


「綾星! 綾星大丈夫!?」


「つかささん……身体が……暑い」


 綾星の目は虚ろで荒い呼吸をしていた。顔も紅潮している。


「あぁ……駄目……凄い……これ、凄いのきちゃ……はぁ……ダメ、つかささん……抱き締めて……」


「綾星!? 綾星!? 私はここにいるよ! 大丈夫だよ!」


 綾星はつかさの胸に顔を当てそのまま悩ましい声を上げたかと思うと、身体をビクビクっと震わせて意識を失ってしまった。


「綾星……? 綾星しっかり!!」


 つかさの呼び掛けに綾星の反応はない。


「何だよ、もうイっちまったのかよ、つまんねーな! 小瓶全部はメスガキにはキツかったか。それなら小瓶3分の1位が適量かな?」


 つかさが神樂の方を見た時には、既にもう1つの小瓶は蓋が空いており、中の液体が少し減っていた。


「まさか……!?」


「そうだ、もうこの帽子のメスガキにも飲ませたぜ。まあ、一緒に仲良く観察しようぜ? この帽子のメスガキが悶え苦しむところをさ。なーに、さっきのとは違って今度は強制絶頂はねーから安心しな! ちゃんと楽しめるさ」


 つかさは綾星をゆっくりと地面に寝かせた。


「嫌いなのよ。そういうの」


「あん?」


 つかさは立ち上がり神樂の方へゆっくりと歩いた。


「その子達の身体は玩具(おもちゃ)じゃないのよ。お前みたいなクズに遊ばれた人間がどれ程心と身体が傷付くと思ってんの?」


「おいおい、待てよ。それ以上近付くとコイツを殺しちゃうぜ?」


 神樂は詩歩の首に突き付けた鏢を動かして見せた。

 すると、神樂の縹を持つ手首に小さな傷が付いた。


「血が……!?どうして!?」


「どうして? さっき見せたでしょ? あんたの鏢を私が持ってたの」


「まさか……あれを簡単に操れる筈」


 神樂は動揺していた。そして傷付いた手が震えだし掴んでいた詩歩の身体を支え切れなくなり手放した。


「操れるわよ。私が育ったのは武術を教える学園よ? 暗器の1つや2つ、授業で習うもの。あんた、私達を舐め過ぎ」


 このまま放っておけば神樂も痺れて動けなくなる。そう思ったが神樂は立ち上がった。


「残念だったな! 俺が自分の痺れ薬位で動けなくなるとでも思ったか? 先にお前から死んでもらう」


 神樂は鏢を握った拳をつかさの顔目掛けて打ち込んで来た。

 ドスっという鈍い音がした。


「ぐっ……!?」


 つかさは神樂の拳を少し頭をズラしただけで躱し、神樂の腹に豪天棒の先を打ち込んだ。


「あんたが痺れてなくたって、私は負けないわ」


 つかさは続け様に豪天棒を振り神樂の脚を打ち、背中を打ち、顔面を打った。


「ちょっと、待て、お前、一体何者だ、こんなメスガキが強い筈……」


 神樂は血塗れの顔を抑えフラフラとしながら言った。


「私は学園序列5位。斉宮(いつき)つかさ」


「……なっ!? ご、5位!?」


 神樂は目を見開いて絶句した。


「あんたのようなクズは消えるべき」


 つかさは豪天棒を頭上で振り回した。


破軍棒術(はぐんぼうじゅつ)赤柱山崩(せきちゅうやまくずし)!!』


 つかさの豪天棒は神樂の腹にめり込み、野球のボールをバットで打ち返すが如く、神樂を数メートル先の崖の下まで吹き飛ばした。

 崖下からはバキッと嫌な音が聴こえた。


「天誅……」


 つかさは呟くと綾星と詩歩の下へ戻った。


「つかさ……さん」


 詩歩はまだ意識があるようだ。


「大丈夫? 詩歩ちゃん」


「何とか……徐々に身体も動かせるようになって来てるみたいです……でも、凄く、変な気分」


「変な気分って!? 痛いの? 苦しいの? 気持ち悪いの??」


 詩歩はつかさから目を逸らすと黙ってしまった。顔が赤いのは薬のせいだろうか。


「あの女……まだ息があれば解毒の方法を聞き出せるかも」


 つかさは詩歩を楽な姿勢にしてやると、崖下に落ちた神樂を探しに行った。

 大の字に倒れていた神樂に近付いたつかさは顔を覗き込んだ。


「呆れた。私の攻撃をモロに食らってまだ生きてるなんて。でも、好都合ね。さ、あの子達の解毒の方法を教えなさい」


「へへ……相変わらず馬鹿だな……素直に教えるわけねーだろ」


 神樂は口から血を流し、不気味に笑った。


「何ですって?」


「だが……俺を見逃してくれるなら……教えてやってもいいぜ。お前のせいで身体が……動かねーんだよ」


 つかさは少し考えてから首を縦に振った。


「……分かったわ。先に教えなさい」


「あいつらに盛った毒に解毒薬はない。だが、あいつらの痺れ毒は1時間もすれば自然に治る。小瓶の薬に関しては、1日もすりゃ……綺麗さっぱり……」


 神樂は最後まで言い終わる事なく、目を開けたまま絶命した。


「見逃すまでもなかったわね」


 つかさはそのまま神樂に背を向け元来た道を引き返し綾星と詩歩の下へ向かった。


 ****


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