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第41話~衣料品展にて~

****


 昼下がりの学園。

 斉宮(いつき)つかさは休日の楽しみに取っておいた趣味のプラモデル作成も作り終えてしまい暇を持て余していたので、得物の真っ赤な豪天棒(ごうてんぼう)を担ぎ体特寮の2階のカンナの部屋を訪れた。

 扉をノックすると篁光希(たかむらみつき)がトレードマークのツインテールではなく、髪を下ろした姿で現れた。どうやら今まで寝ていたようでキャミソールの片方の肩紐がだらしなく肩から外れており、眠そうに目を擦りながらつかさの顔を見た。


「ごめん、起こしちゃった?」


「いえ、私も起きようと思っていたところですので」


 光希は言いながらもウトウトしながらつかさの胸の辺りをぼーっと眺めていた。


「カンナは?」


 つかさはまた眠ってしまいそうな光希を目覚めさせるようなハッキリとした声で尋ねた。


「あ、カンナは村に出掛けましたよ、遊びに。えーっと、弓特の青い髪の……水無瀬(みなせ)さんと」


 つかさは光希の言葉に耳を疑った。カンナと蒼衣(あおい)が仲がいいと言う話は聞いた事がなかったのだ。


「へー、珍しいね。水無瀬さんね……」


 つかさは腕を組んで考えた。つかさもあまり関わった事がない女だ。どういう生徒なのかさえ知らない。カンナとどういう繋がりがあるのか見当もつかなかった。


「カンナに何か用だったんですか? 帰って来たら伝えときますよ」


 考え込んでいたつかさに今度は光希から尋ねた。


「ああ、いや、お昼でもどうかなーと思って。留守なら仕方ないね。光希ちゃん、お昼まだなら一緒にどう? せっかくだから付き合ってよ」


「え!? 私ですか? ……まぁ、お昼まで寝ちゃったからまだ何も食べてないので……ご一緒します。あ、天津風(あまつかぜ)さんは?」


綾星(あやせ)はバイト。あの子真面目だから休日は学園の食堂で調理を手伝ってるのよ。元々料理得意だしね。だから綾星のところに食べに行こ」


 光希は綾星がいないと聞いてホットした様子だった。それも無理はない。綾星のメンヘラにはつかさでさえ正直手を焼くことがある。もちろん、悪い子ではないのでつかさは綾星が嫌いなわけではない。むしろずっと一途につかさを大切に思ってくれるので好きではある。


「分かりました。着替えて来るので少し待っててもらえますか?」


「もちろん!」


 光希が部屋の中に戻るとつかさは腕を組んで壁に寄り掛かり、2階の通路から見える学園の景色に目をやった。

 すると、寮の階段をバタバタと勢い良く駆け上がって来る音が聴こえた。


「カンナー!! 光希ー!! 暇だろーー?」


 大きな声を出して階段を駆け上がって来たのは真っ赤なコートを靡かせた火箸燈(ひばしあかり)だった。


「げっ!? つかさ!?」


 燈はつかさに気付くと失礼な程の嫌悪の表情をした。

 つかさは表情を変えずに燈を見た。


「もお、燈うるさい。迷惑だから静かにして」


 燈の後から階段を上ってきたのは、カンカン帽を被って左肩に三つ編みを垂らし、長い刀を抱えている祝詩歩(ほうりしほ)だった。


「あ、つかささん。こんにちは」


 詩歩はつかさを見付けると丁寧に挨拶をした。それに比べて燈は不服そうな顔でつかさを見て挨拶すらしない。


「こんにちは、祝さん。カンナに用? 残念ながらいないみたいよ」


 つかさは挨拶をした詩歩にだけ話し掛けた。


「つかさ、お前カンナいないならそこで何してんだよ? まさか、あたしらを帰らせてカンナを独り占めしようって魂胆じゃないだろうな?」


 燈お得意のイチャモンが始まった。つかさはいよいよ堪忍袋の緒が切れそうになってきた。


「は? そんな事するわけないでしょ? 私は光希ちゃん待ってるの。これから一緒に食堂にご飯食べに行くのよ」


 つかさの説明に燈はふんと不貞腐れそっぽを向いた。


「そうなんですね。私達も暇だったんでカンナと光希ちゃんをお昼誘おうと思ったんです。良かったら私達も一緒に行っていいですか? つかささん」


 詩歩は燈を押し退けて前に出て頼んできた。詩歩はツンツンしてるところがあるが礼儀正しいところもあるのに、燈ときたらただ横暴で無礼でまったく可愛げがない。それがつかさの燈に対する評価だ。


「私は構わないよ。多分光希ちゃんもいいって言うと思うし。ま、出来ればそのちっちゃい剣士さんとは一緒にいたくないけどね」


 つかさは詩歩の後ろの燈を睨んで言った。


「何だと? この怪力女! あたしだってお前とは一緒にメシなんて食いたくねーよ! ばーか!! そうだ! 今度序列仕合しよーぜ! この戒紅灼(かいこうしゃく)でその棒叩き切ってやるからよ!」


「望むとろよ、いつでも掛かって来なさいよ。負ける気がしないわ」


「逃げんじゃねーぞ!!」


 燈は散々喚き散らすと1人で階段を駆け下りて行ってしまった。


「あーあ、行っちゃった」


 詩歩は刀を抱えたまま興味無さそうに燈の後ろ姿を眺めていた。


「追わないの? あの人」


「え? いいですよ。面倒臭い。それよりお腹減ったから3人でお昼にしましょ」


 詩歩は燈の行動に慣れた様子で特に心配もせず口を尖らせて不機嫌な顔をしているだけだった。

 すると、カンナと光希の部屋の扉が開いた。


「何騒いでるの? 人の部屋の前で……」


 光希は顔だけ扉から覗かせるとつかさを睨み付けてきた。すでにいつも通りのツインテールになっている。


「あぁ、ごめんね。ちょっと」


 つかさが言い掛けると光希は詩歩に気付き急に嬉しそうにニコリと笑い部屋から出て来た。


「祝さん? もしかして一緒にご飯食べるんですか?」


 光希は部屋に鍵を掛けながら尋ねた。


「え? あぁ、まぁ、そうね。どうせ暇だし、ご飯食べるなら誰かと食べた方が美味しいし? 別に、光希ちゃんと食べようと思って来たわけじゃないからね? たまたまよ。たまたま」


 詩歩はカンカン帽のツバを右手で下げ目を隠しながらモジモジと言った。


「絵に描いたようなツンデレよね。詩歩ちゃんて」


 つかさがクスリと笑いながら言うと詩歩はそっぽを向いた。


「誰がツンデレよ! いいから! 早く行こ! お腹減った!」


 詩歩は先に階段を降り始めた。

 つかさが光希の方を振り返るとやはり光希もクスクスと笑っていた。






****



 蒼衣との楽しい食事が済むと、いよいよ蒼衣が最も楽しみにしていたメインイベントの衣料品展に向かった。近くに乗ってきた響華(きょうか)達を繋ぎ、いよいよ設営されたパイプテントの中に入って行った。

 中はすでに大勢の人々がごった返していた。隔月に1度の楽庸府(らくようふ)からの衣料品。確かにそう考えるとこの人集りも納得がいく。


「や〜! 澄川(すみかわ)さん! 見て見て! か〜わい〜!!」


 蒼衣はたくさんのブランド物の洋服に興奮してカンナにもその興奮を体感させようと人の波の中に誘った。

 蒼衣はまず自分の目当ての物を物色していたので、カンナはとりあえずどんな物があるのか見てみる事にした。正直そこまで服に興味があるわけではないのであまり服を買う事には乗り気ではなかった。だが、蒼衣が信じられない程楽しそうなので興味がないとは口が裂けても言えない。

 カンナが服を選んでいると周りの人々が上下左右至る所から手を伸ばし服を取っていくので流石のカンナも次第に苛立ち始めた。


「澄川さん! 行きますよ!」


 蒼衣にそう言われたかと思うと手を引かれ人の波から引っ張り出された。

 カンナは全く服を選ぶ余裕もなくただイライラしてたところを蒼衣に引っ張り出されたので少しムスッとしていた。

 そんなカンナに蒼衣が笑顔でカゴいっぱいに入っている服を見せてきた。


「ふふーん! 澄川さんこういうの慣れてないと思って澄川さんの分も確保してきました! この中からゆっくりと選びましょ!」


「え!? 私の分も持って来てくれてたの? ありがとう!」


「だって、私だけ楽しくても仕方ないじゃないですか? 今日は澄川さんと楽しむ為に来たんですから!」


 ここまで来ると悪魔のようだった蒼衣が天使にしか見えなくなっていた。

 蒼衣は自分の分の服を取り分けるとカンナに持って来てくれた分の服を何着か手に取った。


「澄川さんて、多分水色好きでしょ? それっぽくて可愛いのをとりあえず持って来たので好きなの選んでください!」


「え? 何で水色が好きって分かったの?」


「んー、澄川さんのいつも付けてるリボンが水色だし、そのデニムのジャケットも水色だし……勝手にそんなイメージがあったので」


「なるほど、確かに無意識にいつも水色を身に付けていたわ」


 カンナは自分の後頭部のリボンを触りながら感心して言った。


「水着と下着もありますから、気に入ったら試着してみてくださいね! 試着室は向こうです」


 蒼衣が指を指した先には仮設の試着室が5部屋分並んでいた。


「ありがとね! でも、水着は……着るかな?」


 カンナは苦笑しながら首を傾げた。


「着ますよ! 夏に私と海で泳ぐんです!」


「え? そうなの? それはいいけど、水着なら学園の授業で使ってるスク水あるし」


「いや! スク水って! 本気ですか澄川さん!? あれで私との楽しい海水浴を過ごそうと!? 駄目です駄目駄目! 絶対駄目! 澄川さんはビキニが似合います! 絶対! スタイルいいんだからもったいないですよ!!」


 蒼衣の猛烈な反論に遭い、分かった分かったと落ち着かせるとカゴの中の服や下着や水着を自分の身体に充てがってみた。


「あ! やっぱり澄川さんだ!」


 ふと、カンナの名前を呼ぶ声が聴こえたのでカンナと蒼衣は同時にその声の主に目をやった。

 そこには槍を持った和流馮景(せせらぎふうけい)が満面の笑みでカンナに手を振っていた。隣には茶髪のショートカットの小柄な女の子、櫛橋叶羽(くしはしとわ)も短弓を持って微笑んでいた。


「和流君に櫛橋さん! あ、そっか、2人は村当番だったね、お疲れ様」


 カンナは近づいて来た2人に挨拶をした。

 すると、和流の隣の叶羽が蒼衣に気付いたが、とても不快なモノを見たかのように顔を引き攣らせてあからさまに蒼衣から目を逸らした。


「お疲れ様です、和流さん!」


 蒼衣は笑顔で和流にウインクすると、一瞬でゴミでも見るかのような目に変わり叶羽を一瞥した。


「お疲れ」


「……はい」


 カンナは蒼衣と叶羽の信じられないくらい淡白なやり取りに鳥肌が立った。

 カンナは蒼衣の耳元で尋ねた。


「ちょ、ちょっと、櫛橋さんと仲悪いの?」


「別に、普通ですよ。いつも通りです」


 カンナが小声で言ったにも関わらず、真顔の蒼衣は普段通りの声量で答えた。その答え方も実に不愉快そうだった。


「和流さん、私向こうを見て来ますね」


 叶羽はそう言うとそそくさと走り去ってしまった。

 和流も蒼衣と叶羽の確執に気が付いたようでドン引きしているようだった。

 叶羽がいなくなると蒼衣はまた笑顔に戻った。


「和流君は衣料品展の警備?」


 カンナは会話を繋げようと蒼衣に引きまくっている和流に質問を投げ掛けた。


「そ、そうなんだよ! 万引きとかが起きないかとかも見張ってなきゃならないんだ」


「そんな事より和流さん! 澄川さんのビキニ見たくないですか?」


 蒼衣が和流に話題を振った。その話題に和流は頬を緩め簡単に食い付いた。


「え? 何それ? めっちゃ見たい? 見れんの? 今?」


 和流は今までの空気をなかった事にする程の食い付きでカンナと蒼衣を交互に見た。


「え……いや、試着は」


「ちょうど澄川さんが水着の試着するので一緒に見てあげましょう!」


 カンナの言葉を遮る蒼衣の言葉でカンナの水着ショーが決定されてしまった。

 こんな下心丸出しの男の前でこんな露出の多い水着を着て見せなきゃならないとは……

 蒼衣に選んでもらった水着や下着、洋服一式をカゴに入れて歩きながらそんな事を考えていたが、和流のエロくない部分を思い出すと少し考えが変わった。


「……ま、まぁ、いっか。和流君の事嫌いなわけじゃないし? 男の人の意見も聞けるし?」


 何故か頬を赤らめカンナは1人ボソリと呟き試着室に入った。


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