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序列学園Ⅱ~とある学園と三つの国~  作者: あくがりたる
蒼幻の章《護衛任務編》
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第21話~董韓世、青龍山脈に展開~

 2年ぶりに大陸側に来た。

 最後に来たのは斑鳩(いかるが)と2人きりでデートに誘われた時だ。あの時の興奮は今でも忘れない。祇堂(ぎどう)までの道を歩いているとその甘い記憶が鮮明に甦りカンナの胸を熱くした。

 空はあの時と同じ色で灰色の重い雲が世界を覆うように果てしなく敷き詰められていた。

 カンナは辺りを見渡しながら響華(きょうか)の背に揺られていた。


「カンナー? さっきから何だか嬉しそうだな? 心弾むみたいな。何かあったのか?」


 カンナの後ろに馬を就けていた(あかり)がニヤニヤしながらカンナの顔を覗き込んできた。


「いや、別に何もないよ? そんなに嬉しそうだった? じゃあきっと、燈達とまた任務に来れて嬉しいのかも」


 カンナは上手く話を逸らしたつもりだったが燈はまだニヤついて疑っている風だった。

 カンナの隣りで馬の背に揺られている茉里(まつり)は馬の鞍に付けた伝書鷹の滝夜叉丸(たきやしゃまる)の様子を見ながら楽しそうに話し掛けたりしていた。

 カンナの前には奈南(ななみ)と仮面の男、(しん)が祇堂への道を同じく馬の背に揺られながら先導してくれている。


 祇堂の街に到着した頃、雨がパラパラと降ってきた。

 カンナ達は馬に付けていた笠を被った。こういった古い道具を使う事にも、電気やガスもない島での生活が当たり前過ぎて全く気にならなくなっていた。それに、馬での移動なら両手を自由に出来る被るだけの昔ながらの笠の方が便利だ。

 震がカンナ達を祇堂の街の少し拓けた所に集めた。


「これより祇堂の街の外れにある帝都軍の本営に行く。その前に1時間の休憩をとる。各自必要な物はここで調達しておけ。1時間後ここに集合。時間厳守。行け」


 震はそれだけ言うとどこかに歩いて行ってしまった。

 カンナ、茉里、燈そして奈南は震の姿が見えなくなると馬を寄せ合った。


「なあ、震とかいう奴やっと喋ったと思ったら命令しやがって、あいつ軍人か何かか?」


 燈が抑えていた不満を真っ先に口にした。


海崎(かいざき)さんの部下って事だから軍人ではないんじゃないかな? それより、みんなどうする? お腹減ってない?」


「そうですわね。今回の船旅は澄川(すみかわ)さんの下さったお薬のお陰でわたくしも今絶好調ですので食欲はありますわ」


 茉里はいつの間にか滝夜叉丸が入った鳥籠を雨に濡れないように抱き抱えるようにして持っていた。


「確かに腹減ったなー。腹が減っては戦ができぬ! カンナなんか美味い店知ってるのか?」


丞金亭(じょうきんてい)っていうお肉料理のお店があるんだけど、そこに行かない? すぐ近くだし」


 カンナが自信満々に提案すると、黙っていた奈南がカンナを見た。


「へぇ、まさかカンナさんが丞金亭を提案するなんて驚いたわ。でも少し高いわよ? 私は構わないけど」


「奈南さん、丞金亭をご存知なんですか?」


 カンナが聞くと奈南は微笑んだ。


「ええ、ずうっと前にね。久壽居(くすい)さんと響音(ことね)さんと3人でこっち側に来る任務があった時に、3人で食べに来たのよ」


「何だよその最強チームは……。一体どんな任務だったんだ」


「それより、行くなら早く行きましょう。時間もそんなにないことだし。カンナさん。場所は覚えていないから案内してもらえる?」


「あ、はい」


 奈南はその任務の話はそこで打ち切り、カンナにまた会話の主導権を投げた。

 年齢的にも統率力的にも奈南が仕切っても問題はないし、むしろそちらの方が良さそうではあるが、あくまでも序列が上のカンナに従うという低姿勢にカンナは少し戸惑った。


 4人はカンナの案内で丞金亭にやって来た。しかし、入り口の扉に貼ってある紙を見てカンナは目を疑った。


「え!? うそ!? 『都合によりしばらく店を閉めます』!? えー、そんなぁ……」


「んだよ! カンナ! 期待させといてこれはないぜ!」


 燈は腕を組んで文句を言った。


火箸(ひばし)さん。澄川さんが悪いわけではないですわよ?」


「はいはい、そうだなー」


「ごめん……」


 仕方なくカンナ達は少し辺りをぶらついて近くの小さな和食屋に入った。


「いらっしゃい! 4名様ですね! ささ、こちらへどうぞ!」


 店の暖簾を潜るとすぐに感じのいい男が席に案内してくれた。店の中は雨のせいかあまり客はおらず静かな雰囲気だった。


「旅の方ですか? 何にしましょう? うちは新鮮な海の幸をふんだんに使った海鮮丼がお勧めですぜ!」


 男は4人分の水の入ったコップをテーブルに置きながら笑顔で言った。


「へー、そうなんだ。完全に肉食うつもりだったけど、まあお勧めならそれもらうかな、あたしは」


「肉料理もありますけど……ああ、もしかしてお客さん達、丞金亭に行くつもりだったんですか?」


「ええ、そうです」


 カンナが答えると男は苦笑いした。


「それは残念でしたね。あそこの亭主は今帝都軍に駆り出されてるんですわ。恐らく戦が終わるまで帰って来ませんぜ」


『帝都軍』、『戦』という言葉は、カンナが知っている丞金からは想像出来なかった。


「丞金さんが戦に?」


「まあ、戦と言っても兵站担当で戦闘には直接参加はしないと思いますよ? 丞金さんの食料を的確かつ迅速に運ぶ腕が宝生(ほうしょう)将軍に認められたらしい……で、注文は何にします?」


 カンナ達は皆亭主お勧めの海鮮丼を注文した。亭主は「ありがとうございます!」と威勢よく言うと、そのまま厨房の中に消えて行った。


「澄川さん、先程の丞金亭のご主人とはお知り合いなのですか?」


 カンナの隣りに座った茉里が水を飲みながら尋ねた。


「はい、2年前に来た時に少しお話しました。そこまで仲が良いというわけではないですけど……」


「あら、そうだったのですね。何はともあれ、こうしてまた澄川さんと一緒に大陸側でお食事出来るなんて感激ですわ」


 茉里は水の入ったコップをテーブルに置くと両手を胸の前で合わせて嬉しそうに微笑んだ。


「おい、後醍院(ごだいいん)。あたしも2年前のカンナ小隊の仲間だろ? カンナばっかり贔屓すんな! カンナには悪いけど、今回はつかさがいなくてせいせいしてるんだから、お前がカンナ贔屓発言すんなよ! まったく!」


 燈は頭の後ろで手を組み、椅子をグラグラと身体で揺らしながら悪びれる様子もなく言った。


「燈はさ、つかさが嫌いなの?」


 カンナはムッとして燈を睨んだ。


「嫌いまではいかないけど、好きではないぜ? あたしはな、誰かを特別扱いしてるの見るとあんまり気分が良くないんだ。男と女の恋愛じゃないんだろ? 仲間同士なのにそいつだけ特別扱い。おかしいだろ?」


 燈の言う事も解らなくはない。しかし、カンナは何も言い返せず唇を真一文字に結んだ。

 茉里をチラリと見ると、人差し指で唇を撫でながら鋭い眼光で燈を見ていた。


「燈さん。あなたの言う事も一理あるわ。でも、女同士でも愛は成立するのよ。人を好きになる事に性別は関係ないわ。後醍院さんも斉宮(いつき)さんにもそういう気持ちがあってもいいじゃない? 燈さんだって好きな男の子には特別な気持ちを抱くでしょ? その特別な気持ちを抱く相手が女の子だって何も問題ないのよ」


 静かに3人の話を聞いていた奈南が燈にそう諭すと流石の燈も何も言い返さずに姿勢を正し腕を組んで俯いた。


「奈南さんにそう言われると、そうなのかもしれないと思えて来た。うーん。なんかまだ良く分からんけど、後醍院はカンナの事好きなのか? エロい事したいとか思うのか?」


「そ、そういう話は今はやめない? 私も後醍院さんも困っちゃうからさ! ねえ? 後醍院さん?」


 カンナが赤面して茉里の顔を見ると、茉里も顔を赤らめ口元を手で隠しながらモジモジとして満更でもない表情をしていた。

 燈はそれを見て何か言おうとしたが、丁度その時、店の亭主が4人分の海鮮丼をお盆に乗せて運んで来たので何も言わずに海鮮丼に目をやった。

 カンナも何も言わずに運ばれて来た海鮮丼を見た。とても豪華な海の幸がふんだんに盛り付けてあった。


「これは美味しそうね。さ、みんな頂きましょう!」


 奈南が話題を海鮮丼に持っていくと、燈はもう今までの空気を忘れたかのようにガツガツと夢中で食べ始めた。

 カンナと茉里はお互い目を合わせてはにみながら食事を始めた。



****


 董韓世(とうかんせい)青龍山脈(せいりゅうさんみゃく)の麓に布陣した。

 王を称する2人の男が牙を向いたので帝都軍との交戦中ではあるが、仕方なく蔡王(さいおう)瀋王(しんおう)の兄弟の討伐に董韓世は派遣されたのだ。

 天候は悪く、今にも雨が降りそうである。

 副官に斥候部隊の副隊長の単興(ぜんこう)という男が就けられた。単興は青龍山脈の地理に精通しており蔡王や審王とも親交があるらしい。

 正直董韓世は帝都軍との戦闘の指揮から外された事が気に入らなかった。帝都軍との戦闘こそが今の(そう)という国にとって一大事だ。蔡王や瀋王等は国境の反乱分子が暴れているだけに過ぎない。それを上位幹部である董韓世がわざわざ帝都軍との戦闘の指揮を解かれて反乱鎮圧に回されたのだ。おまけに今まで董韓世が指揮を執っていた軍は孟秦(もうしん)が引き継いだというではないか。孟秦は最近中位幹部から上位幹部に上がったばかりのひよっ子で、董韓世にとっては弟子のような男だ。そんな男を青幻(せいげん)は重用し、董韓世を反乱鎮圧に回した。

 とても納得がいかなかった。

 こんな事は孟秦がやればいい。あるいは単興1人で片付く話だ。

 董韓世は幕舎を張り、中で1人茶を啜って偵察に行った単興の帰りを待った。

 董韓世がイライラしながら茶を啜っていると単興が入って来た。


「報告致します。蔡王と瀋王はそれぞれ軍を西と東に5千ずつ、計1万を配置しております。こちらが動くのを待っているのか動く様子はありません」


「兵力はこちらが上。地の利は奴らにある……か」


「直に雨も降ります。進軍は延期された方が良いかと」


「うむ。青龍山脈は包囲するには大き過ぎる山々だ。1つの山であれば袋の鼠だというに、どうしたものか。俺は早くこの戦を終わらせ陛下の下で戦いたいのだ。何か策があれば言ってみろ、単興」


 董韓世は茶を啜り単興の目を見た。


「でしたら恐れながらこの単興が献策致します。董将軍がその通りに動かれれば蔡王、瀋王どちらも数日中に始末出来、速やかに陛下の下へ帰還出来るでしょう」


 単興の話を聞いた董韓世は湯呑みを置き立ち上がった。


「詳しく聞かせろ! 上手くいけばお前も幹部に推薦してやるぞ」


 董韓世は気分を良くし、単興を机の前に呼び寄せた。


****


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