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第18話~緊急任務~

 重黒木(じゅうくろき)の執務室には見知ったメンバーがいた。

 序列6位、後醍院茉里(ごだいいんまつり)。序列7位、火箸燈(ひばしあかり)。序列13位、四百苅奈南(しおかりななみ)

 カンナがその部屋に入ると、茉里、燈、奈南の3人は皆カンナを見た。海崎(かいざき)も音もなくカンナの後ろから部屋に入った。


「お待ちしておりました、澄川(すみかわ)さん。またあなたと一緒に島のお外で任務が出来るなんて感激ですわ!」


 真っ先に茉里が声を上げて反応した。紫の腰まで長い髪を揺らし、満面の笑みを浮かべている。


「まーたカンナかー。あ、でも、今回はつかさはいないみたいだな」


  燈が意地悪そうな笑みを浮かべて言った。


「お疲れ様です。カンナさん」


 奈南が会釈をした。腰には鉄鞭(てつべん)が2本装備されていた。

 カンナも3人に軽く挨拶をした。


「あの、まだ何の説明も受けてないのですがこれは一体何の任務なのでしょうか?」


「あたしらも任務の内容は聞いてない。早く教えてくださいよ、総帥」


 カンナと燈が目の前の机のところにどっしりと着席している重黒木に説明を求めた。

 ふと、重黒木の隣りの男に目がいった。重黒木の横には1人の白い仮面を着けた細身の男が直立していた。仮面は男の顔全体を覆い目の所だけが細くくり抜かれており鋭い視線を感じた。額部分には3本の線のような模様が刻まれていた。カンナが気になったのはこの男が気配も氣も全く発していない事だ。

 カンナが仮面の男に目を奪われていると重黒木は一呼吸置いてゆっくりと話し始めた。


「皆、緊急の任務、本当に申し訳ない。それでは、全員揃ったところで今回の任務を説明する」


 重黒木の話している間にカンナの背後にいた海崎は仮面の男の隣りに移動した。

 茉里が自分の左隣りを手で示してくれたのでカンナはそこに並んだ。


「実は昨日、龍武帝国帝都軍りょうぶていこくていとぐん宝生(ほうしょう)司令官から依頼を頂いた」


 『帝都軍』という言葉を聞いて燈が即座に反応した。


「おいおい、軍が学園に介入してくんのかよ!? 軍からの任務を受けるって、それじゃあここは軍事施設じゃねーか!」


 燈の言い分は最もで本来なら一学園が軍の命令など聞く筋合いはない。

 重黒木の任務内容の説明と燈の反論を聴いてカンナは動揺したが、茉里と奈南は全く動じた様子がない。平然と重黒木の次の言葉を待っている。


「確かに、我々が軍の命令を聞かなければならない義務はない。だが、良く思い出してみろ。我々には帝都軍に恩があるという事を」


「はぁ? 恩?」


 燈はその話を聴いても何の事だかピンと来ていないようだが、カンナは何の事だか理解した。茉里は目を瞑り全く意見する様子はなく、奈南は目を開けてはいるが、一点を見つめたまま同じく意見する様子はない。


「2年前、篁光希(たかむらみつき)が青幻に連れ去られた時、救出の為の島外外出許可を割天風(かつてんぷう)前総帥に出させるべく、わざわざ斑鳩(いかるが)久壽居(くすい)が一計を案じて宝生司令官に書状を一筆書かせた。それにより、学園から島外への外出許可が下り、篁光希を救出する事が出来た」


 確かにその通りだ。斑鳩と久壽居がいなければ、そもそも青幻に連れ去られた光希を救出にさえ行けなかった筈だ。


「だけど、あたしらが出動したお陰で帝都軍は解寧(かいねい)とかいう妖怪ジジイをぶっ倒して青幻(せいげん)の野望をぶっ潰したんだろ? それでお互い貸し借りなしだ!」


「それは篁光希を救出する過程で結果的に倒したのだ。それに、解寧を倒した後、蔡王の軍勢に包囲され死にかけていたところを帝都軍に救出されたのだろう? 火箸燈」


 燈はもうそれ以上言葉を返せず下を向いてしまった。


「澄川カンナ。異論はあるか?」


 重黒木は茉里と奈南よりも先にカンナに意見を求めてきた。


「ありません。帝都軍に恩を返させてください」


 カンナは身体の前で両手を合わせて頭を下げた。


「後醍院茉里。四百苅奈南。お前達は異論はあるか?」


「ありません」


 茉里も奈南も素直に従った。

 その返事に重黒木は頷いた。


「宜しい。では、具体的な内容を説明する。今帝都軍は青幻との交戦が長引き、お互いに兵や将校の損耗が激しい。戦の指揮官が足りない」


「あー、分かった! もしかして、あたしらに戦の指揮を取れとかそう言うんじゃないですかね?」


 燈が重黒木の話に面倒くさそうな顔で口を挟んだ。


「話を最後まで聞け。せっかちは戦で真っ先に死ぬぞ」


 重黒木は溜息をつき燈を睨み付けた。燈は不満そうだが腕を組んで大人しくなった。


「指揮官は久壽居を含めて貴重な戦力だ。お前達にはその指揮官達の護衛をして貰いたい」


「指揮官の護衛?」


 カンナ達4人は首を傾げた。


「実は元学園序列5位の多綺響音(たきことね)が青幻配下の幹部達の暗殺を繰り返している」


「え!? 響音さんが!?」


 響音という名前にカンナはつい声を出した。響音とはこの学園に来た時に色々あり、序列仕合にまで発展した過去がある。その後和解したが、響音は自ら学園を去る決断をして今は大陸側で青幻が奪った『黄龍心機(こうりゅうしんき)』という名刀を取り戻しに奔走しているのだ。カンナは青幻を憎んでいた響音に「復讐の為の殺しはしない」と約束してもらったのだが、その約束がどうやら守られていない事にカンナは心を痛めた。

 重黒木は続けた。


「その響音の暗殺に報復するかのように、帝都軍の指揮官が青幻の手の者に数名暗殺されたらしいのだ。これ以上指揮官を減らすわけにはいかぬのだ。各自1名の指揮官を護衛して貰う」


「そう言う事ですか」


 茉里が納得して頷いた。

 カンナは俯いた。やられたからやり返す。やはり復讐すれば復讐が返ってくる。カンナは顔を上げた。


「復讐の連鎖は断ち切らなければなりません! 暗殺を繰り返しその過程でたくさんの人々が哀しみに打ちひしがれます。こんなイタチごっこはどこかで止めさせるべきです!」


 カンナが真剣に意見を述べたが重黒木の表情は変わらず、黒目だけがカンナを見た。すると、重黒木が何か言おうとするのを今まで黙っていた奈南が口を開いた。


「これは個人の怨恨云々の話ではないわ。国家同士の戦争の一端。響音さんは青幻への個人的な恨みだけで幹部達の暗殺を繰り返しているのではない。龍武帝国の勝利の為に、いえ、世界の平和の為に彼女なりのやり方で戦っているのよ」


 普段めったに自分の考えを話さない奈南は珍しく意見を述べた。確かに奈南の意見は一理ある。カンナはそう思った。燈が何か言うかと思ったが、真剣に奈南の話を聴いて黙っていた。

 部屋に一瞬静寂が訪れた。続けて奈南がまた口を開いた。


「響音さんはこの学園を去る時、カンナさんが来る前の優しい響音さんに戻っていたわ。もうあの人は自分を見失わない。そうしてくれたのはあなただった筈よ、カンナさん」


 奈南はカンナにニコリと微笑んだ。


「そうですね。すみません。続けてください」


 そう返事はしたが納得は出来なかった。どちらにせよ暗殺というのは積極的な殺しだ。襲って来た者を殺すのではない。襲われる前に殺すのだ。自分達がこれから受ける任務は防衛の為の殺し。しかし、響音がやっている事は予防の為の殺し。父が作りたかった争いのない平和な世界とは真逆の世界だ。奈南の言う事も分からなくはない。だが、分かりたくなかった。結局、平和の為には殺戮も止む無しという事なのではないか。

 カンナが思案していると燈がカンナの肩に手を置いた。


「納得いかないなら、直接多綺と話せばいいんじゃねーか? あいつがどういう気持ちで青幻の幹部達の暗殺をしているのか」


 燈はカンナの顔を見て頷いた。

 カンナも頷いて返した。


「任務の説明を続けるぞ」


「すみません。お願いします」


 重黒木が言ったのでカンナは軽く頭を下げた。


「お前達にはまず、祇堂(ぎどう)の宝生司令官の所へ行ってもらい直接指示を仰いでもらう。恐らく今は屋敷ではなく本営にいらっしゃる筈だ。大陸側に着いたらとりあえず祇堂へ迎え。そこに案内の者がいる」


「はい! 質問! 護衛はあたしら4人だけっすか? そんなんでカバー出来る感じなんすかね?」


「ほかには海崎の手の者が既に数名先行して大陸側に渡っている。しかし、それでも足りない状況故にお前達に頼む事にした。それと、この海崎の手の者の1人『(しん)』がお前達に同行する。細かい指示は全て震に伝えてある。お前達は震の指示に従えば良い」


 重黒木が隣りに直立したままの仮面の男の方を見て言うと、僅かにその『震』という男は頷いたように見えたが、一切言葉は話さず、また元通りの姿勢に戻った。


「待ってくれよ! その仮面の男に従えってのか? 顔も見せない奴を信用しろって、そりゃあ無理な話だぜ! 途中で青幻の部下と入れ替わってても気付けないんだぜ?」


 燈が最もな反論をしたので、仮面の男の隣りの海崎が口を開いた。


「顔は訳あって明かせないのだ。悪いな。だがこの者には身体に隠された目印がある。仮面に刻まれている目印が震の右手の甲に刺青として彫ってある。本人かどうか見分ける時は『八卦を示せ』と言え。手袋を外しその刺青を見せるようになっている」


 海崎が説明すると、震は右手を身体の前に上げると黒い革の手袋を外してカンナ達に見せた。確かに仮面の額部分に彫ってある3本の線のような模様が右手の甲にも彫ってあった。


「ふーん。そもそもこの仮面は何者なんだよ、海崎さん」


「俺の部下の忍びの者だ。安心しろ、火箸。お前よりは強い」


 海崎はにやりと笑いながら答えた。


「はっ! 上等じゃねーか!」


「相変わらず、口が悪いですわね。火箸さん。忍びの方だなんて素敵じゃないですか。宜しくお願いしますね、震さん」


 茉里は震という謎の男に愛想良く挨拶をした。


「澄川カンナです。よろしくお願いします。あの、良ければ今度手合わせを……」


 カンナが震に挨拶をすると燈が大笑いし出した。


「カンナお前強い奴見るとすぐ闘おうとするのな! ちょーウケんだけど!」


 燈は今までの不機嫌な様子から一変、上機嫌になりカンナの肩を何度も叩いた。

 すると、重黒木が咳払いをしたので流石の燈もぴたりと大人しくなった。


「それぞれが護衛する指揮官の元に暗殺者が来なければそれで良し。暗殺者が来た場合は指揮官を護り、且つ確実に暗殺者を始末する事。可能ならば生け捕りにせよ。出立は明日早朝。浪臥村(ろうがそん)より伝書鷹(でんしょだか)を1羽連れていく事。俺との連絡はそれで行え。任務の期間は半年。以上。各自寮に戻り出立の準備をせよ」


「はい!」


 重黒木の任務説明が終わると茉里、燈、奈南はそれぞれ真っ直ぐ部屋に戻ったが、カンナだけは急いでつかさのいる槍特寮へ向かった。

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