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第11話~聲~

 オレンジのツインテールは風を切り、派手な出で立ちのカステルに突っ込んだ。

 カンナは加勢する為光希(みつき)の元へ駆け付けようとした。


「待ってカンナ! この男は私が倒す! カンナは桜崎(さくらざき)さんを診てあげて!」


 光希はカステルと蹴り合いをしながらカンナに言った。


「……けど……」


「これは私の過去とのケジメでもあるの! 大丈夫! カステル王子だけなら私でなんとかする! 絶対死なないから!」


 光希が急に力強く言ったのでカンナはそれに従う事にした。


「分かった。でも、危なくなったら手を出すからね、光希」


 カンナの返事に反応する余裕もないのか、光希はカステルの蹴りを捌きつつ蹴りを入れ続けていた。

 カンナは地面に倒れているアリアに目をやった。その視界の端にザジとエドルドとは別の倒れている男が2人いる事に気が付いた。


和流(せせらぎ)君!?」


 カンナは瞬時にアリアと和流の氣を探り、より重篤そうな和流の方に駆け寄った。近くにはこれまた大男のマルコムが倒れていた。

 和流はうつ伏せに倒れて死んでいるように見えるがまだ氣は微かに感じられた。


「和流君!? ねえ! ちょっと! 大丈夫なの!?」


 カンナは和流を仰向けにしてやり頭を膝枕に寝かせてやった。


「あぁ……澄川(すみかわ)さん、大丈夫ですよ、このくらい……それより」


 和流は喋るだけの力は残っているようだった。おもむろに腰の小さな袋から黄色い木の実を取り出してカンナに渡した。


「あそこに、アリアちゃんが倒れてるでしょ? 俺の事よりアリアちゃんに……この実を」


「これは?」


「食べれば元気100倍『生長刻(せいちょうこく)の実』。死にかけも復活するぜ。ただし、くそ不味いから気を付けて」


「それなら和流君も食べて」


「俺はもう食べた。1日1個が限界だ。ここに来る前に貰ったあの隊長のパンチ……即死技だったらしい……それをモロに食らったんだ。生長刻の実の効力も大して効き目がない……だけど、大丈夫。俺は簡単にくたばったりしない。さあ、早くアリアちゃんに……」


「分かった。ここで少し寝てて」


 カンナは和流から生長刻の実を受け取ると膝枕から和流の頭をゆっくりと下ろしアリアの元へ駆け寄った。

 アリアの顔を近くで見ると酷く殴られた痕があり、鼻や口からは血が流れていた。

 すぐにカンナはアリアを抱き起こし、和流に貰った生長刻の実をアリアの口に入れようとした。


「ぐっ……」


 カンナがアリアの身体を起こした事で、アリアは苦痛に顔を歪めながら意識を取り戻し、薄らと目を開けた。


「桜崎さん!? 大丈夫!? これ、食べられる? 薬」


 アリアは何も答えなかったがカンナは半ば強引にアリアの口に生長刻の実を押し込んだ。

 すると、アリアは弱々しくではあるがその実を噛み砕き飲み込んだ。アリアの顔の血をショートパンツのポケットから取り出した自分のハンカチで拭いてやった。


「……あれ? 何これ……不味い……不味い! 不味い! 死ぬ死ぬ! 逆に死ぬ!! うぇぇ!!」


アリアは生長刻の実のあまりの不味さに目玉を見開いて目の前のカンナに不快感を訴えたが、カンナはアリアの口を抑えて無理矢理飲み込ませた。


「……す、澄川さん……? この借りは必ず返させてもらうわよ。私にこんな不味いもの食べさせて……。ところで、何であなたがここにいるの?」


 アリアはようやく落ち着きを取り戻し、目の前のカンナを認識して口を開いた。


「良かった。意識が戻って。私は光希を助けに来たの。大丈夫? 動ける?」


「ああ、そうだったわ。私、大きな男と闘って、顔を何度も殴られて……それで意識を……悔しい!! 屈辱だわ!! あの男に復讐してやらないと!! 澄川さん! 私をこんな目に遭わせた男はどこに行ったの?」


 アリアは突然怒りを顕にし頬を膨らませて言った。


「多分、もう私が倒しちゃった」


 カンナはザジとエドルドを指差して言った。


「え……あら……そう」


 アリアは急に大人しくなってカステルと闘っている光希を見た。


「カンナ。桜崎さん。こっちは片付いたよ」


 カンナの背後から騎士達を倒し終えた詩歩(しほ)海崎(かいざき)が馬で近付いて来た。


「あ、(ほうり)さん。海崎さん。流石ですね」


「何言ってるのよ。カンナの方が流石じゃない。あの側近の男2人相手に無傷で勝っちゃうなんて。流石は序列4位ね」


 詩歩は自慢の三つ編みを弄りながらカンナに賞賛の言葉を掛けてくれた。カンナは詩歩から目を逸らして人差し指で頬を掻いた。


「あとは、カステル王子だけか」


 海崎が光希とカステルを見て言った。詩歩も海崎も返り血こそ浴びているが無傷だった。






 カステルの蹴り技は予想よりキレがあった。光希も騎士殺人術(ロイヤルキリング)の脚技には自信があったがカステルのものと比べると明らかに見劣りした。そもそも脚の長さが全然違う。リーチの差は致命的だった。

 次第に光希は圧されていった。

 光希の脚がカステルの脚とぶつかった時、カステルは器用に光希の蹴りの威力を殺し払い除けた。その瞬間に光希に隙が出来てしまった。「しまった!」と思った時には遅かった。カステルは光希の腹に蹴りを入れた。防げなかった。光希は腹を抱え、膝から崩れ落ちた。


「安心しろ。殺すはずがない。手加減してるよ。ちゃんとね」


 光希は蹲ったまま動く事が出来なかった。

 カステルは周りを見回した。


「これはこれは、まさか私の側近も親衛隊長もやられてしまうとは。正直貴様らを見くびっていた。だが」


 カステルは蹲った光希の首の革製のチョーカーに指を掛けて持ち上げカンナ達に見せ付けるように晒した。


「光希はもう私の手の中。私が捕まえたのだから私のものだ」


 光希は動けなかった。身体に力が入らない。カステルに1発も食らわせてやる事が出来なかった。悔しい。情けない。自然と光希の目からは涙が零れ落ちた。1人じゃ勝てないなんて……ほんとに……


「本当に情けないわね。光希。私がいないと駄目ね」


 突然、何処からともなく声が聴こえた。その声の主は光希の視界にはいない。カステルは何も聴こえていないようで、カンナ達に何か言っている。カンナ達もどうしたものかと光希を見ているだけだ。


水音(みお)……水音なの!?」


 光希も声の主に問い掛けたがいつの間にか視界は真っ白な世界を映し出していた。



~~~~



「……え? ここは?」


 光希は1人、何もない真っ白な世界にいた。辺りを見回しても何も見えない。カンナ達もカステルも誰もいない。


慈縛殿(じばくてん)……じゃ、ないわよ。光希」


 背後からの声に光希は振り返った。

 そこにいたのは紛れもない光希にとっての掛け替えのない存在。苦悩の時代を共にした唯一無二の血の繋がっていない姉。2年前に死んでしまった最愛の人。


────周防水音(すおうみお)────


「水音!? 水音なの!? 逢いたかった!!」


 光希が誰にも見せないような眩しい笑顔で水音に抱き着いた。

 しかし、その抱き締めようとした腕は愛しい水音を抱き締める事は出来なかった。

 空振りした自分の腕を凝視し、恐る恐るまた水音を見た。

 水音は優しく微笑んでいた。


「慈縛殿は滅び私は死んだ。久しぶりね。光希」


「どういう事!? ここは慈縛殿じゃないの? じゃあここは?」


「あなたの心の中よ」


「……え?」


 水音の言葉を光希は理解出来なかった。


「私の心の中……? 水音が私の心の中に?」


「ずっといたんだけどね。こうやって私の声が届いたのは初めてだわ」


 光希が困惑した顔をすると水音はまた微笑み話し始めた。


「きっとあなたの身に危機が迫ったのね。そして、あなたが私に助けを求めた。その想いが届いたのかも」


「そっか……水音、ずっと私の中にいてくれたんだ」


 光希は笑顔で涙を流した。愛しい人が、ずっとそばにいてくれた。もうそれだけで光希は満足だった。


「それで、光希。あなた、あんなロリコンに負けそうになってるの?」


 水音の声と表情が真剣なものになった。


「うん……」


「確かに、騎士殺人術(ロイヤルキリング)同士では体格差で勝てないかもしれないわね。でも、光希。あなたにはもう1つ、体術があるでしょ?」


 水音の言葉に光希は涙を拭って頷いた。


慈縛殿体術(じばくてんたいじゅつ)


「そう。慈縛殿体術なら体格差なんて関係ないわ。さっさと片付けちゃいなさいよ」


「でも……私、水音と修行してた時しか使ってないから……今はもう……」


 光希が俯くと水音は光希に近付き顔を覗き込んできた。


「私が、力を貸してあげるわ。あなたにはちゃんと私と一緒に修行してきたという経験がある。それは身体が覚えてる。だから大丈夫。光希。手を」


 水音に言われるまま光希は水音に手を差し出した。水音は光希の手のひらに自分の手のひらを重ねた。

すると、水音は微笑みながら光の粒子となりその場から姿を消してしまった。


~~~~



 身体が温かい。

 力が湧いてくる。

 光希の目の前ではカステルがまだ何かカンナ達に向かって喋っていた。


「水音」


 光希はポツリと呟いた。


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