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第10話~篝気功掌vs騎士殺人術~

 エドルドが馬から飛び降り剣を握り走って来た。

 ザジと共にエドルドは完璧なタイミングでカンナに剣を振ってきた。

 カンナはその攻撃をギリギリではあるが全て躱した。ザジとエドルドの氣を読んでいるからこそ躱せているのであって、それが出来なければとうにバラバラになっている。

 ザジとエドルドは信じられないという顔でカンナを見て一旦攻撃の手を止めた。


「なるほど、これはエドルド殿の言う通り只者ではないな」


「俺とザジ伯爵の騎士殺人術(ロイヤルキリング)逮捕体形アレストフォーメーションをここまで完璧に躱せる人間などそうはいない。だが……この女が人間である以上、いつまでも躱し続ける事は出来ない。そのうち体力も尽きる」


 ザジとエドルドは物凄い殺気を放ったままカンナの動きを注視していた。

 日も傾いている。ザジとエドルドの顔も徐々に闇が掛かってきた。日没前には決着をつけなければならない。

 ふと、光希(みつき)の方へ目をやった。

 いつの間にか光希の前にはカステルが立っていた。光希は戦闘態勢でエドルドを睨み付けている。


「光希!」


 カンナが光希を呼んだと同時にザジとエドルドはまたカンナへ剣を振った。





「光希。どうして私を嫌うのだ? 私は君に酷い事をしたか? んん?」


 カステルは両手を広げゆっくりと光希に近づいて来た。


「それ以上来ないで!!」


 光希は叫んだ。

 カステルは何も分かっていない。何故光希がカステルを嫌うのか。最初から期待などしてはいないが改めてカステルのニヤけた顔を見ると嫌悪感が増してきた。


「私は君にたくさんプレゼントをしたじゃないか? あれだけ上げても気に入らないのかい?」


「あなたが私にくれた物はあなたの物でじゃないでしょ!? 国民から無理矢理取り上げた物でしょ!? それを私に平然と贈る事が出来るなんて信じられない!」


 光希は思いの丈をカステルにぶつけた。

 カステルは首を傾げた。


「んん? 国民の物は国家の物。国家の物は王族である私の物。私の物を君に上げたまでだよ? 何か問題があるのか? 光希」


 カステルは悪びれる様子もなく自己中心的な論理を述べた。


「そういう考え方だからあなたの事が嫌いなの。それに、ユノティアっていう小さな子供も女性も容赦なく命を奪う人殺し国家もね!!」


「人殺し国家とは心外だな。よし、そこまでユノティアと私を侮辱するなら、君にはお仕置きが必要だな。いくら私がザジやエドルドより騎士殺人術(ロイヤルキリング)の腕が劣ると言えど、君には負けないよ」


 カステルは腰の剣は抜かずに構えた。体術で来るつもりだ。


「私は……あの頃の私じゃない」


 光希は構えたままカステルを睨み付けた。

 一陣の風が吹いた。

 同時に光希とカステルは走り出した。光希の鋭い蹴りがカステルの右腕で防がれた。カステルも蹴りを放つ。光希は屈んで躱し、カステルの脚へまた蹴りを放った。しかし、カステルは光希の下段蹴りを跳んで躱し、今度は空中で駒のように回転し蹴りを放った。光希は地面を転がりその蹴りも躱したが、光希を狙ったカステルの蹴りは地面を穿ち土塊(つちくれ)が宙を舞った。

 光希は姿勢を低くし構えたままカステルから距離を取り静止した。カステルは微笑みながら光希を見ていた。


「やるじゃないか。光希。私の攻撃を躱し続けるとは」


騎士殺人術(ロイヤルキリング)は人を殺す為の武術。技の一つ一つが必殺。下手に防いだら死にますから」


 光希は身体中から滝のような汗を流しつつ、カステルの次の出方を窺った。

 本当は勝てるとは思っていない。いくらザジやエドルドより劣るとはいえ、そこら辺の騎士よりは遥かに強い。おまけに光希より身長は20センチ以上も高い。しかし、カステルに思い知らせてやらなければ気が済まなかった。思い出したくない過去を自らの存在で思い出させてくれたのだ。しかも関係の無いアリアまで巻き込んでしまった。アリアの仇も取らなければ死んでも死に切れない。


「私は絶対にあなたには屈しない! あなたが心から自分の過ちに気付き反省し、優しい王子様になってくれないなら、私はあなたを殺します」


 光希はそう言うとまたカステルへ走り出した。


「ははは! 私を殺す? 君は本気で言っているのかい? 君の力では、この私、カステル・フェルナンデスに勝つ事は出来ないよ! さあ! たっぷりお仕置きしてあげよう! 光希!!」


 カステルは凶悪な笑みを浮かべ両手を広げ待ち構えた。

 もう後の事はどうでも良くなってきた。とにかく今はカステルの頬を蹴り飛ばしてやりたい。カンナが自分を目覚めさせてくれた時のように。






 襲い来るザジとカステルの剣撃を躱し、地面を蹴り空中で一回転しまた着地した。


「私はあなた達を傷付けたくありません。これ以上やるなら本気で闘います。いいんですか? 私、体術では絶対に負けませんよ?」


 カンナは真っ直ぐ立っていった。息一つ切らしていない。


「本気で行く? 体術では負けない? ふざけた事を抜かすな!! 斬り殺してくれるわ!!」


 ザジは歯軋りし、右手の剣を握り締めた。


「構わん。お前が本気で来たところで我々は負ける事はない。たかが一学園の小娘だろ」


 エドルドはザジとは違い冷静に鼻で笑うとまた剣を振り翳してきた。その刀身は一瞬消えたように見えた。しかし、カンナは見事にそれを躱した。エドルドは躱されるとは思っていなかったようで目と口を大きく開けて驚愕していた。その一瞬の隙を突き跳躍。エドルドの振り下ろしていた剣を持つ太い右腕に飛び乗り左膝を横っ面に打ち込んだ。流石のエドルドも身体をふらつかせた。カンナはそのままエドルドの右肩に跳び、そこを足場にしてまた跳んだ。そして、空中で回転しながら、上を向いてカンナの動きを窺っていたザジの所へ跳んだ。


「馬鹿め! 着地した瞬間に串刺しにしてやるわ!」


 ザジは剣を空から降ってくるカンナ目掛けて突き出した。カンナはその突き出された剣を蹴って軌道をずらした。


「なに!?」


 カンナはザジの剣をひらりと躱すと剣を持つ右手首を掴み、着地と同時にザジの背後に回り右腕を締め上げ、後頭部に手刀を叩き込んだ。

 ザジは堪らず剣を落としよろけたので、すかさずザジの巨体に掌打を打ち込んだ。


篝気功掌(かがりきこうしょう)壊空掌(かいくうしょう)!」


 ザジはそのまま膝から崩れ落ち地面に蹲るように倒れて沈黙した。


「馬鹿な!? ザジ伯爵が」


 エドルドはザジが倒されたのを見ながらフラつく身体を必死に制御しようとしていた。


「凄い……氣を打ち込んで全身の筋肉の動きを阻害したのに立ってるなんて」


 先程カンナがエドルドに膝蹴りを入れた時、膝に溜めたカンナの氣をエドルドに打ち込んでいた。その氣はエドルドの全身の筋肉の動きを阻害するもので、本来なら氣を打ち込まれた時点で全身に力が入らず、ザジ同様に地面に這いつくばっているはずだった。しかし、エドルドは辛うじて立っており、自身の力のみで態勢を立て直そうとしていた。


「そういえば前も氣が効かないバケモノ師範がいたっけ……」


 カンナは以前にも同じように氣が完全には通用しない相手と交戦した事があったのでそこまで驚きはしなかった。

 だが、どちらにせよもうエドルドは満足に動けない。

 カンナは徐々に身体を制御し初めているエドルドに向き合った。左手を前に出し、右手を腰の辺りに構え腰を落とした。


「俺はユノティア公国騎士団を背負っていた男だ! こんな訳の分からん女には負けはせん!!」


 あろう事かエドルドはそう叫ぶと、カンナへ向かい剣を持ったまま駆け出した。

 エドルドの氣の流れ。元に戻りつつあるがまだ乱れている。カンナは息をゆっくりと吐いた。そして、地面を蹴りカンナもエドルドに突っ込んだ。


「篝気功掌・壊空六花掌(かいくうりっかしょう)!!」


 エドルドの剣は簡単に躱した。そして、エドルドの腹にカンナの左肘と右手の掌打が同時に入った。その瞬間にカンナ自身の氣を打ち込んだ。エドルドの巨体は僅かに後ろに押し出され、その背中からは大きな6弁の花びらのような氣の残像が浮かび上がった。

 カンナはエドルドがザジ同様に崩れ落ちたのを見届けると静かに態勢を戻した。

 大男が地面に2人倒れている。


 光希────


 カンナが光希の方へ目を向けた。

 カンナの目に映ったのは、カステルと交戦する光希の姿だった。


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