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第1話~2年後の学園~

『序列学園』の続編です。話の流れとしては、『序列学園』⇒『序列学園外伝~カンナと斑鳩~』の次のお話となります。まだ読んでない方は是非読んでみてください。『序列学園』から読んだ方が面白いです!

『序列学園』では主に学園内のお話でしたが、今回は学園を飛び出すことが多くなります。果たして、主人公、澄川カンナは我羅道邪に相まみえることが出来るのか?そして、青幻の動向は??

ご期待ください!!

 木々には新たな生命が宿り、春の息吹を感じさせた。

 とある海上にポツリと浮かぶ孤島。その島にある大きな名も無き学園では生徒達が日々己の武術を磨く為切磋琢磨していた。”序列”という絶対的な力の上下関係に支配された弱肉強食の学園である。

 その学園で、多数の死傷者を出した内部抗争から2年後。現学園総帥・重黒木(じゅうくろき)の学園の体制は完全に整った。新たな生徒が何人か入学し、新たな序列も決まった。この2年で学園を去った者はいない。

 澄川(すみかわ)カンナは相変わらずお気に入りの東の岩壁の上で氣を練る修行をしていた。黒髪の肩までの髪をハーフアップにして、母の形見の青いリボンを後頭部で結っている。


 ”氣”とは、基本的には目に見えない力であるが、生き物がもとから持っている唯一の力、生命エネルギーのようなものである。その氣の力を自らの意思で操れるかどうかは個人差があり、多くの人間は体内の氣を感じる事すら出来ずその一生を終えるという。しかし、氣を操る武術の一つ”篝気功掌(かがりきこうしょう)”という武術を体得したカンナにとってその力はいつも身近に感じ己の体術にも活用することが出来た。


 カンナの学園序列は4位。学園総帥が重黒木になってから暫定で決められた序列を今も守っていた。1度序列5位の親友、斉宮(いつき)つかさに、序列を変動させる事の出来る公式な仕合である”序列仕合(じょれつじあい)”を挑まれたが、それはカンナの勝利で終わった。正直なところカンナとつかさの間にはかなりの力の差があった。豪天棒(ごうてんぼう)という真っ赤な棒を軽々と振り回す古の棒術”破軍棒術(はぐんぼうじゅつ)”の使い手であるつかさでさえ、伝説の最強体術である”篝気功掌”を体得したカンナには適わないのだ。


 カンナには新体制になってから1つ嬉しい事があった。それは憧れの男、学園序列2位の斑鳩爽(いかるがそう)と恋人同士になれた事だ。初恋の相手だった斑鳩と付き合えたのは奇跡としか言いようがない。学園一の美男子であり紳士である斑鳩と付き合っているという事はつかさと、同じ体術特待(たいじゅつとくたい)クラス、通称”体特(たいとく)”で寮の部屋も同じ篁光希(たかむらみつき)以外には話していない。つかさに話した時、一瞬苦い顔をしていた。だがすぐに笑顔になり祝福してくれた。あの一瞬の表情は何だったのだろう。もしかして、つかさも斑鳩の事が好きだったのだろうか。その話を光希にしてみると光希は何か気付いた素振りを見せたがカンナには教えてくれなかった。


 カンナは一通りの修行を終えると大の字に倒れ春の暖かい陽射しを全身に浴びた。

 ふと愛馬の響華(きょうか)が寝転ぶカンナに近寄って来た。


「さてと、そろそろ休み時間も終わりだし、教室に戻るかな。響華行くよ」


 カンナは響華にそう話し掛けると立ち上がり、響華の背に慣れた感じで飛び乗った。

 響華は2年前にかつての序列8位多綺響音(たきことね)から譲り受けた名馬だ。2年も共にいると、カンナも響華もお互いの事を良く分かるようになっていた。響華をくれた響音は今学園のある島の外で盗賊、青幻(せいげん)を追っている。

 カンナは教室のある校舎へ向けて響華を駆けさせた。

 青幻はついに国家を建国していた。

 ”焔安(えんあん)”という大陸側の大都市を都に定め王を僣称した。国家の名は”(そう)”。青龍山脈の麓に築かれた巨大な国家だ。その兵力は20万。青幻が王を名乗った事で兵力は一気に増大した。

 また、青龍山脈を挟んだ北側の地には武器商人であり、武装組織の我羅道邪(がらどうじゃ)の一味も青幻に対抗する形で国家の真似事をして”(てい)”という国を建国した。

 事実上この世界には武器を擁さない中立の小国を除けば、”蒼”、”鼎”、そして、学園と友好関係である大陸側の大国”龍武帝国(りょうぶていこく)”の三大国が凌ぎを削っている事になる。

 カンナの父、澄川孝謙(すみかわこうけん)が締結に関わった”銃火器等完全撤廃条約じゅうかきとうかんぜんてっぱいじょうやく”は鼎以外ではしっかりと守られ、鼎だけは各国から完全に敵視されてる状況だ。

 カンナの両親は我羅道邪に殺された。今までは何処にいるか分からなかった男だったが、鼎を建国した事により、我羅道邪の居場所は分かった。仇を取りたいという感情が全くないという訳ではない。しかし、我羅道邪を殺せばその先に待っているのは憎しみという負の連鎖。カンナのところでその連鎖は止めなくてはならない。殺すという事以外で罪を償わせる。カンナは心の片隅にそういう気持ちを抱いていた。


 数分で教室のある校舎に到着した。響華を繋いでおく為に校舎裏の厩舎(きゅうしゃ)に入った。

そこにはオレンジ色のツインテールの篁光希が何をするわけでもなくただ一人でポツンと壁に寄り掛かっていた。


「光希、また教室に行かないでこんなところで」


「カンナ、待ってた」


 光希はカンナが話し掛けると僅かに微笑んだ。


「待っててくれたのは嬉しいけど、もうそろそろほかの人達と馴染まないと駄目だよ? もう新しい人達が体特(たいとく)に加わって1年半も経つじゃない?」


 光希はカンナの言葉にシュンとして俯いた。

 光希は新しく体特に加わった生徒といまだに馴染めないようだ。確かに今の体特は蔦浜祥悟(つたはましょうご)(かかえ)キナのカップル2人がまるで夫婦のようにずっと一緒にいる。斑鳩は座学の授業では常に1人で前の方の席に座り、実技の授業では新たに加わった生徒の相手になったりしている。そうなると光希はカンナしか話す相手はいないのだ。周防水音(すおうみお)がいた頃はずっと水音と一緒にいた。水音が死んでからはカンナとずっと一緒にいる。もともと光希はあまり社交的ではなく、自分から友達を作ろうとしない。話し掛けられても素っ気ない態度を取ってしまうのだ。

 やれやれと、カンナは響華を繋ぎ終えると光希の元に行き手を握った。


「行くよ。私は光希が自分から馴染めるのを見守るつもりだったけど、難しいなら手伝ってあげる」


 カンナは光希の手を引いて校舎へ向かった。


「カンナ、私……別に友達とかいらない。カンナがいればいいの」


 光希は手を引かれながらボソリと呟いた。


「何言ってるの? そんな事。この学園でずっと私だけなんてつまらないでしょ?」


「つまらない事なんかない。私はカンナとこうして仲良くなるまではずっと水音と2人だった。水音のほかに友達なんていなくても辛くない。だから今はカンナと一緒ならそれで楽しい」


 その光希の言葉にカンナは立ち止まった。


「私は、水音とは違うよ」


 カンナの声色が変わったので光希はカンナの顔を恐る恐る見た。


「カンナ……怒ってるの?」


 カンナは光希の困惑した表情を真剣に見詰めた。


「光希。あなたは私を水音の代わりだと思ってるの? だったら言っておくけど、私は水音の代わりじゃない。私はカンナ」


「……知ってるよ」


「だったら、私が水音と同じ事をあなたにしてあげるとか、水音の考え方と同じとか、そんな風に思わないでね。私は周防水音じゃない。澄川カンナ。あなたに私だけを友達だと思う人生なんて送らせたくないの」


 光希は俯いたまま顔を上げず黙っている。

 光希は水音だけを友達として、いや、姉妹のように思い生きてきていた。水音が死んでしまい心の拠り所を失い掛けていたが、カンナが手を差し伸べた。もともと同じ部屋で生活してきたので光希もカンナに対してはそれ程抵抗なく受け入れられたのだろう。それに、光希には水音と共にカンナに酷い事をした事に対する贖罪の気持ちもあるのかもしれない。

 万が一カンナが光希の元を離れなければならない事があったらきっと光希は今度こそ一人ぼっちになってしまう。それは、カンナがこの学園に来た時と同じ孤独である。それだけは光希には味合わせたくはない。故にカンナは強く光希を突き放したのだ。


「カンナの言う事だから……聞く。だから、もう怒らないで……」


 光希はゆっくり顔を上げると泣きそうな顔でカンナを見た。

 カンナはそっと光希の頭に手を置いた。


「怒ってないよ。さ、行こう。遅刻しちゃう」


 カンナは少し膝を曲げて光希の目線の高さで微笑んだ。

 光希の顔には笑顔が戻った。

 カンナはまた光希の手を握り、教室へと歩き始めた。






 割天風(かつてんぷう)という老人が総帥だっだ頃は40名の生徒が学園に在籍していた。今もそれを踏襲して体術特待クラス、剣術特待クラス、槍術特待クラス、弓術特待クラスの4クラスにそれぞれ10名が所属、計40名の体制となっている。

 カンナは体術特待クラスのナンバー2。学園序列4位である。体特のナンバー1は学園序列2位の斑鳩爽でカンナの彼氏である。篁光希は学園序列25位。重黒木体制開始以来変わっていない。

 大きく変わった事と言えば、体術師範に柚木透(ゆずきとおる)という若い優男が外部から招かれ就任した事だ。それにより、総帥業務と体特師範を兼任していた重黒木が体特の管轄から離れる事になった。カンナにとっての体術の恩師である重黒木と距離が離れた事は寂しい事であった。

 新しい体特師範の柚木は女子生徒に極めて優しく接していた。特にカンナには直属の生徒としてかなり親しくしてくれた。しかし、カンナはそれがあまり好きではなかった。授業では皆と同じく平等に接してくれるが、カンナが1人の時は”男と女”である事を殊更に意識させるような会話や態度を取ってくる。悪く言えば口説いてくるとも言える。それがカンナは苦手だった。

 教室に入ると体特生は皆既に席に座っていた。遅れて来たカンナと光希に皆の視線が集まった。


「遅かったな、カンナちゃん! 光希!」


 真っ先に声を掛けてくれたのは序列19位、蔦浜祥悟だ。銀髪のウルフヘアーの男でカンナと光希に笑顔を見せてくれた。

 カンナは蔦浜に軽く挨拶をすると、一番前の教卓の正面の2人分空いていた席に座った。教室には斑鳩の姿だけがなかった。この学園の座学の授業は単位制になっており、既に履修している授業は取らなくても良い事になっている。斑鳩は在籍年数も長く、成績優秀の為殆どの座学を受けなくても良い。故に斑鳩はどこかで体術の修行でもしているのだろう。

 カンナが斑鳩の事を考えていると、教室の前方の扉が開き柚木が入って来た。柚木は瞼を閉じているのではないかと思う程目が細く、いつも微笑んでいるような表情をしている。


「はいはい、それでは武術史の授業を始めます……と、その前に(たかむら)さん。お客様がいらっしゃっています。総帥の執務室へ行ってください。授業はいいです」


 柚木の突然の指名に光希本人は勿論、教室にいた全員がざわついた。

 光希も心当たりがないようで不審そうな表情をしていたが、柚木に促されるまま1人教室を出て行った。

 他の体特生がざわつく中、柚木は手を2度叩き生徒達の注目を集めると普段と変わりなく授業を始めた。

 カンナは光希が出て行った扉の方を少しの間眺めていた。


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