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「嘘です」で済む日

作者: 松戸京

「……4月1日」


 男はカレンダーを見ていてそう呟く。今日は4月1日だ。


 今日は嘘をついても良い日……しかし、誰に嘘をつこうか?


 男は適当なことも思いつかず、テレビのニュースを見る。


『皆さんおはようございます。今日は嘘をついても良い日です。本日は法律で「嘘です、で済む法」も成立しましたので何をしても「嘘です」で済みます。もちろん、これも嘘ですが』


「……は?」


 キャスターが意味不明なことを言っている。


 しかし、それと共に外では車がぶつかる音、怒声、悲鳴……あらゆる騒音が聞こえてきた。


 見るといつのまにかニュースは終わっており、テレビには大きく「本日の放送は終了しております。これは嘘です」と大きな字で表示されている。


 男は理解した。そして、町へ飛び出していく。


 男はあらゆる犯罪を犯した。しかし、それらは全て嘘だったので、誰も男を咎めなかった。


 男はいい気分だった。だが、それが命取りだった。


 男は道を横断する時、横から来た車に気づかなかった。


 見事に男は跳ね飛ばされ、地面に叩きつけられた。


 人通りが多い場所で跳ね飛ばされたというのに、誰も救急車を呼ぼうともしない。


「嘘……だろ……?」


 男はそう思いながらなんとか最後の力を振り絞って携帯を取り出す。そして、救急車を呼ぼうと電話をかける。


「はい? どうされました?」


 携帯の向こうで優しげな女性の声が聴こえる。男は安堵した。


「す、すいません……助けてください……車に跳ね飛ばされて……」


「え? 車に?」


「はい……だから、早く救急車を……」


 すると、なぜか電話の向こうの女性は笑っていた。男は絶句する。


「え……な、なんで笑っているんです……?」


「ああ、ごめんなさい……それ、嘘ですよね。だから、私もお返しします。本日は救急車の運行は行っておりません。もちろん、これも嘘ですけどね」


 そういって、電話は切れた。男はそのまま意識を失った。


 救急車はそれからいくら待っても来なかった。男は既に死んでしまった。


 あまりにも救いがない話に思えるって? いやいや、問題ない。


 どうせこの話は「嘘」なのだから。

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