再開
屋敷が一軒見えてくる。
一年越しに見ると立派な屋敷であったことがわかった。
久しぶりの我が家である。
あの筋肉夫婦のいない空間というだけで癒しだが、それが一年ぶりの我が家となるとその他のさまざまな感情がティムルを落ち着かなくさせる。
屋敷の手前でマジャールことマー君から降りると、玄関へと向かう。
扉の前までくるとなんだか他人の家のように感じてしまう。
ふとそこで誰かの視線が俺に向けられていることに気づいた。
徐々に体内に魔力をめぐらしつつ、腰にある剣へとゆっくり手を伸ばす。
刹那、わずかな気配とともに脇から何者かが襲い掛かってくる。
ティムルはすばやく剣を抜き放つと相手の武器とぶつかり合い、激しく火花を散らす。
相手へと視線をぶつけると、そこには懐かしい顔があった。
「お帰り。ティムルッッ!」
親父ことダルノスは口に煙草をくわえつつ、ニッと笑う。
しかし一年ぶりの再会だっていうのにずいぶんと物騒な挨拶だと思うが、彼らしいとも思ってしまう。
「今度こそは俺がコテンパンにしてやるよっ」
「……やってみろよ」
ダルノスの言葉に軽い挑発で返す。
剣を押し返すといったん距離をとり、注意深くダルノスの出方をうかがう。
どうやらこの一年間、ダルノスは俺に完全勝利をするためだけに修行をしていたのだろう。
以前よりも格段に強くなっていることが一回剣を交えただけで理解できた。
だが強くなったのはダルノスだけでない。
「強くなったじゃねぇかよ」
ダルノスの素直な賞賛の声にティムルは若干照れつつ口の端を吊り上げては笑みを浮かべえる。
「へへっ、まあな……」
と言いつつ、わずかに剣先をずらし重心もずらす。
それを隙と見たダルノスが一瞬で距離をつめると、ティムルへと剣を突き出してくる。
あえて作り出した隙めがけてダルノスが迫ってきたことを確認すると、ティムルは反応が遅れたかのようにその攻撃に対応する。
強烈なダルノスの一撃はティムルの剣をはじきとばす。
ダルノスは自分の攻撃が剣を宙にとばしたことを視認すると、喜色の笑みを浮かべる。
彼が勝利を信じた一瞬だった。
「よっしゃあっ! 俺のか――――」
ダルノスの勝利宣言が言い終わる寸前、ティムルの蹴りがダルノスの顔面へと吸い寄せられる。
「っ、〈化身紋〉」
それだけ唱えると、ダルノスの全身から神々しい光があふれ出す。
以前より短い詠唱に一瞬驚きを露にするティムルだったが、それが事前に詠唱を終え術式が既に組まれていたのだと察するとすぐに意識を目の前の敵へと集中させる。
ティムルの蹴りが完全に決まったかに見えたが、直前に蹴りはダルノスの剣によって防がれる。
舌打ちしつつティムルはもう一度ダルノスから距離をとると地面から剣を拾い上げ、構え直そうとするもダルノスの絶え間ない攻撃にそれは未然に防がれる。
構える暇も与えないダルノスの猛攻がティムルに襲い掛かる。
しかしティムルはそれらを反射神経だけですべて防ぎきると、なんとか体制を立て直す。
化身紋はどうやら自身の身体能力の上昇に比例して効果が上昇するらしく、以前とは比べ物にならない強さになったいる。
完全に押されつつあるこの状況にティムルはうっすら冷や汗が額に浮かぶ。
「やべぇな……負けそうだ」
思わずでたティムルのその一言にダルノスは得意顔になる。
「そういうお前は弱くなったみたいだな」
それを聞いた瞬間にティムルは自分の頭に血が上るのを感じる。
挑発に完全に乗っかることになるが、このままでは終われないのでここはあえて乗っかる。
「ふんっ。まだまだこれからだ!」