三
お、落ち着くのですわ。私。
例え、姉さんが恋愛界において強敵だとしても。例え、興味のない男性を好きにさせる確率が二十%ぐらいだとしても。
フローズン様の恋愛を叶えるため、私は頑張りますわ!
…そ、それにしても姉さんか…。ひ、ヒロインだし、性格も申し分無いし、か、可愛いからかなぁ…
「おい、カップを持つ手が震えてるぞ。大丈夫か?」
「え、えぇ…フロ、いえ、王子様こそ、机に突っ伏しているようですが、だ、大丈夫ですか?」
フローズン様はうぅう…と暗い呻き声をあげて、明らかに沈んでいる感じに見えた。
どうしたんだろう。具合でも悪いんだろうか?
…じゃなくて、今私は、姉さんをどうやって王子をくっ付けるか、作戦を考えなきゃですね!
もう余裕がなくて、私の心の中は素に戻っていますよ!やっぱり、姉さんには早めに連絡とらないとダメだよね…よし。
私は顔をあげ、王子と視線を合わせた。
「実は、私、アルレント伯爵令嬢と知りあいなんですの。ですから今、彼女と連絡を取り合い、彼女の予定を聞いてきますわ!」
これも、フローズン様と姉さんをくっつけるためだ。そして、幸せにするため。幸せは早いほうが良いに決まってる…頑張らなきゃ。
私は勢いよく立ちあがり、王子に、失礼いたします‼と言い、彼に背を向けて走りだそうとした。
「え!?ちょっと待て!今行くのか?!」
「えぇ、今行くのです!!」
そして今度こそ、私は猛ダッシュで姉のところへと向かった。
☆☆☆
むむ、姉さんは普段ここら辺に居るはずなんだけど…。
私は、とある花畑で、姉さんを探していた。
何故こんなときに連絡が付かないのか…まぁ、姉さんらしいけど。前世の時もそうだったな…。
そんなことを思いつつ、私は探し続ける。
えぇー、いつも「ここが攻略者とよく出会える穴場なんだから!」とかなんとか言って、一人だけ目立ってたはずなのに…
私がキョロキョロと辺りを見渡していると、後ろからトントン、と肩を叩かれた。
「うみょぁ!?」
へ、変な声が出てしまった。
慌てて振り向くと、そこには黒いフードを被った…ヒロインから見れば攻略者の一人であり、フローズン様の弟のフィアルト・リピルントが驚いた様子でたっていた。
「あぁ、すみません。もしかして驚かせてしまいましたか?」
すごい天使の笑みで話しかけられました。でもね、皆さん騙されてはいけませんよ!姉からの情報では、第四王子は腹黒い設定だって言ってましたから!だからフローズン様もかなって思ったけど違いましたよ!正反対でしたよ!!!
…でも見た目は良い人そうなんだけどな。フローズン様に似て…
私はいつもの状態に整えてから、話しました。
「まぁこれは…第四王子様でしたか。失礼致しましたわ。急に肩を叩かれたものですから。」
「いえ、丁度見たことがある方だなと思いまして。…その、フローズン兄様の婚約者様…ですよね?」
えぇ!?嘘、顔覚えられてた!社交界でなんか目が合うなーとは思ってたけど、私、目立たないように結構地味~にはじっこの方に居たんだけどな…
ドレスの色も、目立たないような色にしていたし…
私は張り付けた笑顔を壊さない様に(若干ひきつっている気がするけど)一応、王子だし、名乗っておかなければ失礼かなと思い、着ているドレスの端っこをつまみ、礼をすることにした。
「えぇ。仰せの通りです。あぁ、申し遅れましたわ。私、メアリージェ・ソプラノリアと申します。以後、お見知りおきを。…それで、第四王子様は私に何のご用件で?」
「ん~、実は、探しているピンクの髪の人がいましてね。いつもはこの辺りにいる筈なのですが…」
彼はそう言いながら、辺りを見渡した。ん?もしかして、姉さんを探してる?
「…あの、もしかして、アルレント伯爵令嬢を探していらっしゃいますの?」
「えぇ、そうですけど…もしかして、貴方もですか?」
!偶然だ…まさか同じ人…いや、姉さんを探しているなんて。しかもまさかのあの人だからなぁ、今、一体何をしているのやら…
うむむ…と、考えていると、見覚えのある鮮やかなピンク色の髪の毛がサラッと、曲がり角の方で見えた。
姉さんだ!
「アルレント譲いましたわ!」
「!本当ですか!」
私とフィアルト王子はその後を追いかけた。
☆☆☆
追い付いたので声をかけようとしたが、隣に誰か居ることに気づいて、咄嗟に木の陰に二人で隠れた。
ちょっと顔を出して、姉さんの隣に居る人を見た。
!あれって…
「…兄様」
第四王子がボソッと呟いた。そう、姉さんの隣に居たのは、フローズン様だったのだ。
そして、私も声を漏らしてしまった。
「フローズン様…」
良かったです。仲良く話してるみたいです。…あんなに笑顔なフローズン様、初めて見るかもしれない。こんにゃく破棄…コホン、婚約破棄を宣言して、私に相談してる時のフローズン様の顔つきは、真面目な表情でした。だから、よほど姉さんのことが大好きだったんだろう。
…私が探しに行った後、フローズン様も決意して探しに行ったのかな。…でも多分恋が叶って?良かった!
姉さんと話しているフローズン様、嬉しそうにガッツポーズをしてるし(笑)
ホッと、安心して胸を撫で下ろし、心にズキスギと痛む辛さに耐えていると、何か、トン…とあたる音がした。
あれ?何か薄暗くなったような?
そう思い、上を見上げると、すぐ目の前に第四王子の顔があった。
「!?だ、第四王子さ、ま…?」
ニヤッと彼は笑った。
「…兄様、ひどいよね?こんなに素敵な婚約者が居るっていうのにさぁ…」
「ぇ?」
やっと今の状況が理解できた。私、今、王子に捕らえられてる!?いや、正確には囲まれてる?…だって、私の顔の横に、王子の両手が…
私はボンッと顔が赤くなった。
「へぇ?真っ赤になっちゃうんだ…もっと凛々しいかと思ってたけど…。やっぱり俺と一緒だね?表情に仮面つけてる…。」
そう言うと、王子は私の頬から手を離した。そして少し距離を置いてから、真面目な顔つきになった。
「…率直に言うね。俺、君をあの頃、最初に見た時からずっと…」
…あの頃?
私が驚きを隠せないまま、彼が言おうとしていることばに耳を傾けているその時だった。
「おい。何をしてるんだ。」
私達の横から、低い声が聞こえてきた。
二人で振り向くと、そこには険しい顔つきのフローズン様と、心配そうに見つめる姉さんが立っていた。