二
「あぁー俺カッコ悪よいよな。肝心なところで噛んで…」
そう言って、彼はブラックコーヒーに口をつけた。
「…本当にドンマイですわ。ですが、そう言う事でしたら、あらかじめ私に相談して下さってれば、フォローしてあげましたのに…」
私は婚約者にこんにゃく破棄(笑)を言い渡された後、王様と王妃様に内緒で、私の婚約者に、とあるひっそりと佇むカフェに呼び出されたところです。ここ、本当にコーヒーが美味しいんです!豆も丁寧に選別して選んでますし、ブレンドもどのお店よりも美味しい!…ただ、苦すぎるのは苦手なので、私はミルクを必ずいれますが…
「ふぅ…それにしても、婚約をするときに誓った約束が、今回使うだなんて…思いもしませんでしたわ。」
第三王子…もとい私の婚約者、フローズン・リピルント。
この乙女ゲームの攻略者…と言いたい程の美形では有るが違う。
ゲームの中では、弟に当たる攻略者一人、フィアルト・リピルントの、ヒロインへの告白の後押しをする…いわゆるサポーターキャラという所でしょうか?
あ、この情報は姉さんから何回も聞かされて、覚えちゃっただけですよ?!
彼との約束というのは、政略結婚の為、婚約者と対面で、二人きりになった時に、私が彼に問いただした時に、私が言ったからだった。
☆☆☆
「第三王子…いえ、フローズン様。少し…宜しいでしょうか?」
フローズン様は机にあった紅茶をすすった。
真向かいに座ってる彼を見ると、遠くからも分る美形が、更に美形に見える。
照明に照らされ、彼の金髪がキラキラと輝く。吸い込まれそうな綺麗な青い瞳が、私に話を促せる。
「この、政略結婚…フローズン様はどう思います?」
フローズン様は、凛々しい眉毛をピクリと動かしてから、俯き、口を開く。
「どう…と、言われてもな。お互い、利益―主に、俺の両親とお前の両親か?俺の方は、お前の両親の頭脳。お前の方は俺の両親の資産…か。
ハッキリと言うとどっちにしろ、俺の方は良い迷惑…だがな。」
彼は苦笑いしながら、顔を上げ、私を真っ直ぐと見た。
「いや、すまない。思った事をすぐに言うのが、昔からの俺の悪い所だ。…幼い頃から、注意されているのだが。」
「…いえ。」
むしろ、性格が俺様ではなくて、良かったと思う。彼の意見を聞き、遠回しに言うのではなく、堂々と私の意見を言えるから。
「私に提案があるのですが…。聞いて頂いても?」
私は、優雅に持っていた紅茶の入ったカップを、お皿の上にカチャリと置く。
「―聞こう。何だ?」
「これから、私達は婚約者同士となる訳ですけれど…中面では、良き相談相手…はっきり言いますと、知人として、協力者になりませんこと?主に恋愛で。」
フローズン様がニヤリと口元を上げ、足を組み、豪華な椅子の背にもたれ掛かる。
「ふぅん…面白そうだな。例えば?」
「…例えば、貴方に好きな方が出来たとします。その時何かあれば、すぐに私に相談してください。
必ず、相談に乗り、協力致しますわ。…その代わり、私にも好きな方が出来ましたら、貴方にご協力して貰いたいのですが…如何でしょうか?」
「…分かった。その提案、乗ってやろう。…ただし、俺に好きになった者が現れなかった時、俺とお前は婚約通り結婚する。…それで良いか?」
「えぇ。それで良いですわ。」
私は首肯くと、紅茶をすすった。
…あー緊張した!喉がカラカラだよ。
危ない。失礼のないように接したはずだけど…。相手は王子だからやっぱり緊張するなぁ。
うん。これで良かったーはず。
☆☆☆
私はあの時の事を思い出す。
緊張したなー。今は全然緊張していないけど(笑)。だってカミカミこんにゃく王子ですからね。
「…なんか今、俺に対して失礼な事考えただろう?」
「いえ、何も?こんにゃく王子と思っただけですわ。」
「…頼む。もうこんにゃくの事は忘れてくれ。」
「…ふふっ、承知いたしました。」
あらら、王子が涙目になってる。こんにゃくこんにゃく言いすぎたかな…ごめんなさい(汗)でもよくよく考えたら、王様と王妃様がいるから、空気が張つめて緊張して間違えるのは無理ないか…
私は温かいミルクコーヒーを優雅に(なるよう気を付けて)飲みながら王子の顔を見た。
顔は美形なのに、なんだか性格がチワワみたいに可愛い。本当は話し方からしてドSキャラっぽかったから、距離を置こうと思ってあの提案を持ちかけた。
でもクールそうな見た目と違って、性格は周りに気を使っている優しい方なのだと知った。私が困ってることがあれば助けてくれたし、なにより、こっそり貧しい子供たちへの大金を資金しているところを見たことがある。
…いつからか、私はフローズン様に好意を抱くようになっていた。
あぁ、あんな提案、今では持ちかけなければ良かったと後悔している程に。
だ、だってですよ!?たまたま遠くにいるフローズン様をボーッと眺めてたら目があって、そそそ、そしたら、ニコって優しい笑顔で微笑んでくれて…あれで恋に落ちない女の子なんていませんよ!
あっ…コホンッ。私としたことが…いけませんわ。私情を挟んでしまいました。
私は…あの日以来、私は誰かを好きになることはしないと決めたんだ…なのに…
「ど、どうした?急に俯いて……何か、悩んでいるのか?」
王子が心配そうな顔で私を見ていた。
どうやら自然と顔に眉間がよっていたらしい。私は慌てて顔をあげ、ニッコリと微笑んで見せた。
「いえ、何でもありませんわ。少々考え事をしていただけですので。」
…いけないいけない。…王子の幸せのためにも!私がきちんとしないと!でも、婚約破棄が言い渡されかけたんだよね…あの時はちょっとショックだったな…
私はブンブンと顔をふって今考えたことをリセットすることにした。そして一呼吸置いてから私は問うた。
「…では、こんにゃくの事は置いておきましょう。…王子が好意を寄せている方のお名前を、率直に聞きましょうか。」
すると、ボンっと言う音とともに、王子の顔がみるみるうちに真っ赤に染まった。
おぉ。これぞまさに、リンゴみたいに真っ赤と言う表現が正しいだろう。…ちょっとだけ、思われてる人が羨ましいとか思ってムッとしてしまった。
「ーーー…」
「え?すみません。聞き取れなかったのでもう一度…」
私は気分を落ち着かせるため、ひと口温かいミルクコーヒーをすすろうと…した
「ミアルル・アルレント令嬢だ!」
ブーッ!ゴホッゴホっ
「!?おい、大丈夫か?!」
そう言って、フローズン様がナプキンを私に渡す。
「あ、ゴホッ、ありがとうございます。」
あー、変なところにミルクコーヒー入った。
私驚くよ!不意討ちだよ!だって、ミアルル・アルレント令嬢って…
私の姉さんじゃないかー!!!!!
テヘペロ☆とポーズをしている姉の顔が、見えた気がした。