自称勇者の冒険譚(やや痛め)
朝のホームルームが終わり、自習時間になっても柳さんは止まらなかった。
「ふふふ……聖剣、聖剣が私には必要なんだ」とか、
「お守りは、神が私たちに与えた聖なる護符なのよ」
など、その後もなんだかアレな発言を一人ブツブツと呟いていた。
さすがにたまりかねた僕は、本人にやめるよう言う……ことは怖くてできないので、イナジュン達に聞いてみることにした。
「ねえ、柳さんっていつもあんな感じなの?」
僕がそう聞くと、各々なんとも言えない顔をしていた。
「まあ、基本なんかよく分からないことをしてるな。少なくとも勉強してるところを見たことはないなー」
イナジュンから見れば、よく分からないで一括りされてしまうようだ。
まあ、僕でもあれを見て何をしているのかはよく分からないと思うだろうな。
「何か……武器みたいなものを作ってるのを見かけたことはあったが、先生に止められていたな」
カケルは柳さんの奇行を何度か見かけているらしい。セツも同じようなことを言っていた。
「あれだな。 ゲームのRPGだかのやりすぎで現実と混同しちゃってんだろ」
「勇者に転生、それと武器の作成か。確かにファンタジーの要素だね」
僕とイナジュンは大体同じ考えのようだ。
最初は嗜む程度のものだったんだろうが、現実で何か起こってゲームの世界にのめり込むようになり、気づいた時にはどっちが現実なのか分からなくなっていた……そんな感じだろう、と。
「基本的な行動は正反対だけど、自分の殻に閉じこもってるって点で小森さんと同じタイプなのよね」
セツがそう付け加える。なるほど、そういう考えもあるか。
柳さんが外向的な人物ならば、小森さんは内向的な人物ってとこか。
そして、どちらも自己中心的な考えで行動してるって点であの二人は似ているといえるだろう。
「だからなのか分からないけど、小森さんにはよく声をかけているの。まあ、彼女がまともに反応したことはないんだけど」
あはは、とセツは苦笑する。
「まあ、いいじゃないか。柳さんは何を考えているか分からない人だけど、それはこのクラスの人間殆どがそんなものさ。だから、彼女を奇異な目で見るのは失礼だよ」
カケルがそう締めくくった。確かに彼女は特別なんかじゃない、一際騒がしかったから目に付いただけだ。もう少し、会話が成り立つ人だったなら友人になれたかもしれないが、それは難しそうだしな……
「なあなあ、そんなことはいいからなんか遊ぼうぜ」
イナジュンがしびれを切らしたようにそう喚きだした。
「全くお前は……まだ一時間も経ってないぞ。そんなんでテストは大丈夫なのか?」
「そんな先のことまで考えてられねぇよ。いざという時は一夜漬けすりゃなんとかなんだろ」
イナジュンの適当さに何も言うことはないというようにカケルは自分の勉強に戻った。
「ちぇー、ガリ勉野郎め……なあ、恭也。なんかして遊ぼうぜ」
カケルに振られてしまったので、今度は僕へと矛先を向けてきた。
「ちょっと待っててくれるかな。今やってるところまで終わらせておきたいんだ」
「おおー、カケルとはまるで違う紳士な対応! 見たかカケル、これが友達ってもんなんだよ‼」
カケルははぁ、とため息をついて
「恭也、順太をあまり甘やかすべきじゃない。すぐにつけあがって無理難題を押しつけてくるぞ」
「なっ! お前にいつそんなことをしたっていうんだよ」
「いつもだよ、いつも! あまりにも多すぎて覚えてないだけだ」
その後もあーだこーだと、正直しょうもない言い争いが続くのだった。
トイレに行って教室に戻ろうとしたとき、後ろから声をかけられた。
「やっ、転生者♪」
ポン、と肩を軽く叩かれたので振り向くと歩く問題児……もとい柳さんだった。
今度は何を騒ぐつもりだと内心ビクビクしながら話してみる。
「柳さん、どうかしたの?」
「いやいや、大したことじゃないよ。転生者はこの学校に昨日来たばかりなんでしょ。ならこの勇者である私が案内しようと思ってさ」
「……」
言っていることはまともだ、すごくまともだ。
それを言っているのが自称勇者なんて危ないやつじゃなければ二つ返事でOKしたんだが、さてどうしたもんかな……
少し短いですが、ここで切ります。
自称勇者をどういう人物像にするか大分悩んでます