そして僕はつぶされる
うん……そうだな。
とりあえず思い切って吐き出してみるってことも大事かなと思った僕は、例のゴスロリ少女の事を話してみることにした。
「実は新しいクラスで隣の席にいた女の子に嫌われちゃって……」
「お兄ちゃん、何か失礼なことでもしたんじゃないの?」
「失礼な、僕がそんなことをする人間に見えるかい?」
「まあお兄ちゃんだって男の子だし、気の弱い女の子相手だったらもしかしたら……」
妹よ、お兄ちゃんのことをそういう目で見ていたのか。お兄ちゃん悲しい……
「いやいや待ってくれ、お兄ちゃんをそういう認識で持って行かないでくれ。彼女の方がどうも他人を拒絶している感じだったんだ」
僕がそう説明すると、優羽の顔が曇ってしまった。
「そう、なんだ。やっぱりそういった人がいっぱいいる学校……なのかな」
「……」
このことを優羽に話したのは失敗だったかもしれない。優しい子だから、まるで自分のことのように心配してしまっている。
これ以上心配をかけないように、僕は明るく話すよう努めた。
「でも大丈夫だから。そういうこともあったけど、母さんに言ったことも事実だからさ」
「うん……」
僕が安心させようとしても、優羽は心配そうな顔をしたままだった。
これは仕方のないことなのだろう。
優羽がこんな心配性になってしまったのも僕のせいなんだ。それだけのことを僕は……してしまったんだ。優羽も、両親も昔はこんな風ではなかった。
僕はふと、頭の中でかつての家族のことを思い出していた。
ボクハタダフツウニイキテイタカッタ
────好きな人がいた。好きな人ができた。
ボクハシアワセヲカンジテイタカッタ
────ずっとこんな幸せが続く、そう信じて止まなかった。
ダケド……
────だけど……
ボクハスベテヲコワシテシマッタ
────何もかも粉々になるまで壊してしまった。
ソシテナニモカモヲウシナッタ
────僕には何も残されていなかった。
ボクノココロハオカシクナッテイッタ
────言動と行動が一致しない。 したことを覚えていない。
イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ……
────言葉が僕の心を埋め尽くしていく。
────心を削られて、削られて、そして、残ったのは……
「……ちゃん……!………お………に……い……ちゃん」
誰だ? 誰かが僕を呼んでいるような……
「お兄ちゃん!」
優羽の呼びかけで、僕ははっ、と意識を取り戻した。
どうやら意識がトリップしていたようだ。
あまり良くないな……こんなことばっかり考えていたら、いつか僕は僕で無くなってしまうようなそんな危惧を覚えた。
とにかく前向きに、前向きに考えていかないと…
僕は静かにそう決意すると、優羽に優しく微笑んで、「大丈夫だよ」と言って安心させた。
「とにかく僕はまだ平気だから。正気でいられる内に、出来るだけのことをしていきたいんだ」
「お兄ちゃん……」
優羽はまだ引き下がろうとしたが、この場でこれ以上話しても仕方ないと思ったのか、「おやすみ」と言って部屋に戻っていった。
「ふぅ……」
優羽が部屋から出た後、僕は倒れるようにベッドに寝転がった。登校初日だったからか、時間の進みがやたら遅く感じられた。
こんな日々が続いていくのかと思うと少々不安もある。
それに、もうひとつ不安材料があった。
「あんなに早く再開しちゃうなんてな……」
偶然とはいえ、彼女と会ってしまったのはまだ早かったのだろう。未だに心臓がうるさいくらいにバクバクと言っている。今後は寄り道をするのは控えた方がいいだろう。会うたびにこんなんじゃ会話もままならないし。今は少しでも学校へ通うことを優先していこう。
僕は落ち着かない心臓の高鳴りを無理矢理抑えるようにして、眠った。
花は咲いては散っていく。
人は生まれては死んでいく。
これは同じことと考えていいのだろうか。
終わってしまったら二度と元に戻ることはできないのだろうか?
すべてそうなのだと言い切れるのだろうか?
答えの出ない問いを重ねて、重ねては霧散していって……
さあ、「彼」は一度死んでしまったようだが、果たして元に戻ることは出来るのだろうか?
────それは誰にも分からない




