見えざる人に想いを託す
放課後になり、僕と柳さんは学校の玄関前で待ち合わせをして、早速依頼をこなすことになった。
「ふと気になったんだけど、わざわざ待ち合わせする必要ってあったの?」
僕が素朴な疑問をすると、柳さんはチッチッチ、と指ふりを交えたジェスチャーをする。 イラっとするからやめて欲しい。
「分かってないなあ、ミッションというのはお互いに指し示すように合流して、黙々とこなすものだよ」
「そんなものかなぁ……」
絶対に違う、と心の中で強く否定する。 間違いなく、何かのスパイ映画の影響を受けているだけだろう。 そもそもミッションって、いやあまり突っ込むのはよそう。 虚しくなるだけだし。
「そういえば、まだ君の友人の名前を聞いてないんだけど?」
「ん、そういや言ってなかったっけ?」
柳さんは、すっかり忘れてたよと言いたげな顔をする。
はじめ断るつもりだったせいか、僕はその辺りの個人情報を聞いていなかった。 よく考えずに安易に頷いてしまった僕も僕だが、こんな基本的なことを教えないのはいかがなものだろうか。
「うーん、教えてもいいけどどうせすぐ会うしね。 それに僕からより本人から聞いた方がいいと思うし」
「会話になるかどうか怪しい人なのに、そんな簡単に名前を教えてくれるかな」
「だーいじょーぶだって! 僕の友達って言えば問題ないって言ったでしょ!」
「それがものすごく不安なんだ……」
君の友人、というのがどんな理由でなったのかによって僕が対応できるかどうか分かれるだろうしね。 もし、柳さんと同じ自称勇者の痛いタイプの人だったりしたら。
僕は、その友人を交えた会話を予想してみた。
「聞いてくれ、同志! 僕たちの仲間になりたいって人が来たんだ」
「なんと、僕らの同志が現れたのか!」
「そうなんだよ、同志! これで仲間が3人に増えたぞ!」
「我らが世界を救うのも時間の問題ということだな!」
「あとは聖剣と伝説の装備を手に入れられれば、僕たちの敵はどこにもいないぞ!」
「僕たちこそが正義! 僕たちこそが善人だ!」
「あっはっはっは〜」
「あっはっはっは〜」
「あは……あはは……アハハハハ!」
「嫌だ〜〜! そんなの嫌すぎる〜〜!」
「うわっ! いきなり叫んだりしてどうしたの⁉︎」
「……ハッ!」
突然叫びだした僕に驚いたせいか、柳さんは大きくのけぞっている。 その上、通行人からも不審な目線を投げかけられていた。
いくらあんなこと考えていたからって、ちょっと取り乱しすぎたようだ。
「いや、なんでもないんだ。 ちょっと嫌な想像をしちゃってただけで、あはは」
「?」
彼女はよく分からないという顔をしていたが、すぐに気を取り直す。
「それで、彼女とのことなんだけどね」
それから、その友人との思い出をポツポツと語ってくれた。
話を聞いている限り、どうやら柳さんとは全く違う大人しめな女の子のようだ。 そんな彼女を、柳さんが強引(?)に引っ張ってきたみたいだ。 そう言ってしまうと、彼女はいやいや連れまわされたように聞こえるが、本人はよく笑っていたという。 なるほど、こうして聞いてみると確かに友達だったのだろう。
そうなると、さっき浮かんだあの地獄絵図のような状態にはならずに済みそうだ。
しかし、そうなると新たな問題が出てくる。 果たして、そんな控えめな性格の人とうまく会話を続けることができるのか、ということだ。
「僕も自分から話をするタイプではないし、共通の会話なんて……」
「気にしなくても、困った時には僕が助け舟を出すから!」
「乗った瞬間に沈みそうな船には乗らない主義なので」
「それって、どういうことかな⁉︎」
まあ、本当に困った時には彼女のダメな部分をひたすらに語り合うことにしよう。 それだけで数時間はいける気がするから不思議だ。
「ねえ、また失礼なこと考えてない?」
「ははは、疑り深いなぁ。 一応勇者なんだから、人を疑うのは良くないんじゃないの?」
そうからかい交じりに言うと、「バカにしてー!」とぎゃあぎゃあ騒ぎ出す。 本当にいい意味で明るい人だよ、悪い意味でもあるけど。
かくして、道中は退屈しない時間を過ごした。
目的地に着いたのか、ある住宅マンションの前で柳さんは立ち止まる。
「ここだよ」
「ここが……へぇ」
パッと見た感じ出来てからそう経っていないのか、所々に新築のような新しさを感じられる。 高さも十数階くらいあって、最上階がなんとか見える程だ。
普段見上げる動作をすることがない僕は、慣れない動きをしようとしてむちうちになったような痛みを感じる。 運動不足かもしれない、たまに柔軟体操でもしておこう。
「何階に住んでいるの?」
「6階だったかな、と。 ちょっと待っててね」
玄関をくぐると、オートロック式のようでこのままだと入れないようだ。
自動ドアの脇にはパネルが見える。 見た目の新しさもあってか、ある程度のお金持ちが住む家なのかもしれない。
柳さんが呼び出して数秒後にガチャ、と反応があった。
「はい……」
出たのは女の子のようだ。
小さくて聞き逃してしまいそうなものだったが、くたびれたものではなくその年頃にはよく聞く高い声だった。
おそらく彼女が目的の人物なのだろう。
「お久しぶり〜、勇者柳がお見舞いに来たよ〜」
ずざざ、とついその場から二、三歩退いてしまった。 最初にその挨拶はどうなんだ。
「……散ちゃん?」
「そうだよ〜、どんな願いも必ず叶える勇者柳散だよ〜」
うわ〜、もし僕が彼女の立場だったらこの時点で切ってるな。 どう聞いてもヤバい新興宗教の勧誘にしか聞こえない。
「どうしたの? 来るって連絡は聞いてないけど……」
「うむ、新学期になってからほとんど来ていないようだし、そろそろ様子を見に来た方がいいと思って」
「そんな、わざわざ来なくてもいいのに……」
なんだか迷惑そうな声に聞こえるけど、大丈夫かな? 下手するとここで門前払いされるんじゃないだろうか。
そういえば、小森さんの時もこの辺りで苦労したな。 会話を繋げるだけで苦労した記憶が思い浮かんだ。
「いやいや、そういうわけにはいかないよ。 僕の友人をこのまま放っておけないしね。 それに今日は僕一人じゃないんだ」
「え……」
途端に相手の声が硬くなったように感じた。 ここで僕のことを紹介するのはまだ早いんじゃないかな、柳さん!
「散ちゃんの他に、人が来てるの?」
「うむ、今日は僕の親友を連れてきた」
いつ柳さんと親友になったのだろう、とツッコミたかったがここで遮るのも野暮だと思ったので止めておいた。 そう言っておかないとここで終わってしまいそうだしな。
「でも、他の人と会うのは……それにその人は男の子?」
「うむ、だが安心したまえ。 人畜無害の純粋培養だから!」
「うーん……」
意味分かって言ってるのかな? いや、分かってないだろうな……
それに、話を聞いている感じ男性に恐怖を感じている節があるし、会わずに終わる可能性がますます高まった気がする。
その後、数秒間沈黙していたが、「……分かった」と返答して、目の前の自動ドアが開いた。 どうやら会ってくれるようだ。
彼女にとって、柳さんはそれだけ信頼に足る人物だと思われているようだ。
僕からはとてもそうだとは思えないが。
「さあ、行こう。 王女様とのご対面だ!」
「いや、違うでしょ」
そんなやり取りを交わして、玄関前までたどり着いた。柳さんが玄関脇のインターホンを押す。さぁ、ご対面といこうじゃないか。




