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ちるはなふるゆき  作者: 捨石凞
第2章 空虚な正義
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蒸し暑いある日のこと

 日差しが大分強まり、夏の様相を醸し出してきた今日この頃。 僕はというと、教室の中でだらけにだらけていた。

「暑い……」

 名誉のために言っておくが、だらけているのは僕だけではない。 隣には同じく、いやそれ以上にだらけているイナジュンの姿が見える。

 あまりにも暑すぎるせいで寝られないのだろう、すごい顔をしている。

 ……詳しく言うと怒られそうなので詳細は語れないが。

「これじゃ猛暑だな……というわけでセツ、エアコンつけろ」

「なんであたしが……それに、そんな権限あるわけないでしょ」

「んじゃ、カケル」

「……セツにないのに、どうして僕にあると思ったんだ?」

「そうだな、強いて言うなら……顔だな」

 イナジュンの適当な発言に、適当に流しとけばいいのにガタッ、と立ち上がって憤慨するカケル。

「おい! 顔ってなんだ、顔って‼︎ 僕の顔はエアコンつけてくれそうな顔をしているとでもいうのか!」

「うるさいわね、温度上げないでくれる? 余計蒸し蒸しするじゃない」

「すまん……」

 シュン、と項垂れるカケル。 相変わらずセツに弱いな……

「どうすんだよー、こんな暑くちゃ勉強もクソもねぇぞ。 大体ささもっちゃんはこの非常事態にどこほっつき歩いてるんだよ、全く本当につかえ……」

「あら〜、私のこと肝心な時にいないダメ教師みたいな言い方するのね、い・な・ば・君♪」

 イナジュンがその声を聞いておそるおそる振り返ると、そこには不自然なほどにこやかな顔をした笹森先生がお立ちになっていた。

 ちなみに僕は位置的な関係で、イナジュンが発言した時に笹森先生がいることは分かっていたのだが、イナジュンが発言した時点でとてもヤバイものを感じたので言い出すことが出来なかった。 許せ、イナジュン。

「なんだか勉強出来なくてイライラしてたみたいだから、稲葉君だけ特別な宿題を出しちゃおうかしら?」

「せ、先生! 僕はあくまでこの教室の暑さに対して言及していただけであって、決して先生の悪口を言っていたわけでは無くてですね……」

ことの重大さに気づいたイナジュンは、どうにかしようと先生に言い訳(?)みたいな正直何を言っているのか分からない言葉を並べていたが、時既に遅し。

 笹森先生のお顔は、それはそれはとても恐ろしいものとなっていたのでごさいます。 ええ、そのことについて言及できないくらいに。

 暑さのせいか、笹森先生の恐怖がそうさせているのか僕の口調も相当おかしくなってるみたいだ、気をつけよう。

「なんだか先生とと〜ってもお話ししたいみたいだから、続きは職員室の方で聞かせてもらおうかな。 ここじゃ、他の生徒の迷惑になっちゃうから」

「いや、そんな、そんなことはないんですよ先生! 先生と熱く語りたいなんてそんな、ってあああぁぁぁぁぁっ〜」

 イナジュンの叫びも空しく、笹森先生にめでたく(?)職員室へ連行されていった。

「バーカ」

 そんなイナジュンに向けて一言、セツは容赦無く毒を吐いていた。 こんなクソ暑い日でも、大してやってることは変わらないな……


 イナジュンもいなくなり、そこそこ平和になった教室を改めて眺めてみる。

 小森さんは相変わらずのゴスロリ服で相変わらずのボッチである。 一応僕が挨拶すると返しはしてくれるが、それ以上に関わってくることはなかった。 彼女とは正直、絶縁されても仕方ないような対応もしていたのだろうが、今は山も谷もない関係でいる。 まあ、この関係が変わる日が来ることは当分なさそうだが。

 柳さんは通常運行で休んでいる。 学校には来ているクセに教室にはたまにしか来ないものだから、他の生徒からはほとんど学校に来ない辞めそうな人の筆頭になってしまっている。

 だが、僕はほぼ毎日のように会っているのでそんな可能性はまず無いだろう。 この学校のシステム的に然程出席していなくても問題ないのでこの先もこのスタンスを崩すことはないだろう。

 他の人達もいる人はいるが、いない人の方が割合的には多い。 毎日来ている人など、僕やイナジュン達ぐらいなものだ。

 最近に関して言えば小森さんもほぼ毎日来ている、少しは社交的な面も見せるようになったと考えるべきか。

 そんな風に近況を整理していたらバン、とドアを乱暴に開ける音がした。

 こんな開け方をするアレな人は一人しかいない。

「だっはっはー! 勇者様のお通りだー‼︎ 皆の者、であえであえー‼」

 ……うぜぇ、ものすごくうぜぇ。

 なんか、勇者なのか上様なのかよう分からん混ざりかたであいさつしてかたのは、我らが勇者(自称)柳さんである。

 しかしただでさえ暑さでやられている上に、騒音をプラスされた僕らの精神は既にくたばりかけの状態であったため、誰もなんの反応を返すことが出来なかった。

「あ、あれ〜、なんかみんな死んだような顔してるけど……さすがになんの反応もないとボク困っちゃうよ〜〜」

 存分に困っていてくれ、僕らの体力はもうゼロなんだ。 はぁ、と思わずため息をついてしまう。

 そんな僕の様子を見つけてしまった彼女は、ズンズンと音がするような歩き方で僕の方へやって来る。

「なんだい、言っとくけど僕は今何もする気が起きないんだ。 用があるならあとで……」

「君に相談したいことがあるんだ」

 いつものごとく僕の話をぶった切って柳さんは言う。 トラブルメーカーである彼女からの相談話……絶対面倒なことに違いない。 何が何でも断ろうと思っていたが、いつの間にか僕の体は教室にはなかった。 というより、体が勝手に移動している……!

「え、ちょ、まじか⁉︎ 僕をどこに連れてくつもり?」

「どこっていつもの場所だよ」

「まさか……屋上に?」

「うんっ!」

 満面の笑みで答える彼女。 しかし、今の僕にはその笑顔が悪魔のソレにしか見えなかった。

「嫌だ、離せ〜! 僕はあんな灼熱地獄には行きたくないんだぁぁぁ〜〜」

 まるでデジャ・ビュのように連れ去られていく僕は、結局なんの反抗も出来ずに柳さんに引っ張られていった。


 一方、恭也まで連れ去られた教室でセツと小森は呟く。

「……ご愁傷様」

「哀れね……」

 二人とも、連れ去られていく人間には容赦が無かった。



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