この日を僕は忘れない
久しぶりの投稿です。
誤字、脱字あるかもです。
ひとしきり泣いてスッキリした僕は、ひどく落ち込んでいた。
冷静に考える余裕ができたことで自らの失態に気づき、「やってしまった」と後悔の念だけが心の中を占めていた。
「落ち着いたかい?」
声が聞こえて、僕はこの場に柳さんがいることに気づいた。
同時に恥ずかしさがこみ上げてきて、彼女の顔を見ることができない僕はうつむきがちになってしまう。
「また恥ずかしいところを見せちゃったな、はは……」
「いや、今のは僕の方も悪かったよ。 まだ君にとって過去になってないことをズケズケと言ってしまって」
柳さんは配慮が足りなかったよ、と素直に謝ってくれた。
「いいんだよ、もう終わったことなのにいつまでも引きずり続けてる僕にも悪いところあるし、それに……」
さっきの光景の中に僕自身よく覚えていないものもあった。 それはおそらく僕が自分を保つために忘れてしまったものだと思う。 内容的にあれは忘れていたままには出来ないようなものだった。 僕が、今よりもう少し強くなれた時に立ち向かわないといけないものだろう。 後回しにしてしまうのは良くないとは思うが、今の僕が下手に触れるとまた発狂してしまいそうだしな……
「茅野君?」
「え? ああ、とにかく僕のことを探るのはほどほどにしてもらえると嬉しいかな。 あんまり気持ちのいいものじゃないしね」
「そうすることにするよ。 それにここでこんなこと言っても白々しいかもだけど、本当は僕もこういう真似はしたくなかったんだ」
「そんなに、僕という人間に興味があったの?」
「興味、はあるにはあるんだ。 だけどそれが一番の理由じゃないんだ」
ここにきていまいち要領の得ない受け答えに僕は違和感を感じる。 単なる興味以外で僕にどういう感情があるというのだろう?
僕のその疑問に答えるように、柳さんは言いづらそうに答えた。
「怖いんだよ……君が」
「え?」
「なんて言えばいいのかな、こう掴みどころがないようでいて芯はしっかりしているし、君は情緒不安定と自分を評していたけれど、僕にはそうじゃなくて何かに耐えようとしていてそれでもダメで逃げてしまってしまっていて、そんな自分に嫌気がさして自己嫌悪に陥っているような……」
柳さんは一生懸命説明してくれてはいるが、僕が馬鹿だからなのかそれとも彼女の説明があやふやだからなのか、残念ながらさっぱり理解できなかった。
「ええと、つまりどういうことなのかな?」
「ごめん、やっぱり伝わらないよねこんな説明じゃ。 要するに分からないんだよ、君という人間性がまるで見えてこないんだ」
柳さんの言葉に僕はしっくりくるものを感じられなかった。
「……うーん、どうなんだろう。 僕個人は単純な人間だと思ってるんだけど」
「本当に単純な人間だったらここに来ることはなかったと思うよ。 ここにいる人は、みんな色々考えすぎてしまうきらいがあるから」
そうなのだろうか、と僕は考え込む。 僕自身はそんなつもりはないのだが、知らない内に色々考えてしまって結果どうしようもなくなっているといった状態がたまにあることに思い至る。 こうして振り返るとなぜそこまで思い詰めてしまっていたんだろうと思うことなのだが、当時の自分には譲れないものがあったのだろうか。 おぼろげにしか思い出せない今となっては、そこまでこだわった理由はわからないのだが。
「君の行動をずっと見てきたけど、今回の一件でも正直君のことに関して計りかねる所が多くてね。 さっぱりだったよ」
「ずっとって、僕のことつけてたりしたの?」
そんな気配は全く感じられなかったけどな……
「そこまではしてないよ、でも僕に逐一報告してくれたじゃないか。 それで君の人間性を調べてたんだ」
「ああ、そういうことね。 それで大体のことは分かっちゃうんだ、すごいね」
「人の行動って、少し見るだけで君が思っているよりも多くのことが分かるんだよ。 何気ない行動からも、こういう人間はこう動くんだってのが分かるし」
うへぇ、と思わず口に出しそうになるがなんとか飲み込んだ。 そこまで詳しくなるには2、3日程度じゃとても足りない。 彼女にとって、必要だったから知っていったのだろう。
「そ、そうなんだ。 そんなに人の分析が出来るのに僕のはよく分からないんだ?」
「まだ期間も短いしね。 もうしばらく共にいたら、色々わかってくると思うんだけど」
「痛くない腹まで探られるのは気持ちのいいものじゃないんだけど……」
「そこまではしないよ、君が僕に何かしない限りは、ね」
そう言うってことは、何かしたら脅しをかけてくるってことか?
やっぱりこの人は怖いな、敵には絶対に回しちゃいけないタイプだよ。
「もう大丈夫そうだね。 そろそろ下校時間だし戻ることにしよう」
「あ、もうそんな時間なんだ」
柳さんの言葉に長い時間が経っていることに気づいた。 確かに大分陽が傾いて辺りは暗くなりかけていた。
「陽が伸びたのかな、帰る時間なのに明るいよね」
柳さんが太陽のある辺りを見て言う。 僕は彼女とそれを見ながら、時間の経過に想いを馳せる。
ここに来てもう一つの季節が終わろうとしている。 今のところなにひとつ果たせていない僕は少なからず焦りを覚えていた。 こういうところで焦るとロクな結果にならないことを分かっているので無茶をすることは無いが、どうにかしなければという焦燥感が頭の中を占めていた。
「焦ることはないよ」
「え?」
柳さんが僕の心を見透かしたような発言をするので驚いてしまった。
彼女はそんな僕の反応を楽しんでいるかのように微笑んでいる。
「きっと君にも、幸福が訪れる時は来るさ」
「……そうなるといいんだけど」
僕はなんとも歯切れの悪い言葉しか返すことが出来なかった。
もし、次の機会があったとして今度は上手くいくのだろうか、また失敗してしまうんじゃないかという思いが強くて、とうしても上手くいく想像が出来ない。
そんな僕に幸福と呼べるような時は果たして来るのだろうか?
落ちていく陽を眺めながら、今回の反省を踏まえて頑張るしかないかと思い直す。
────小森さんの時みたいな過ちを繰り返さないために…
話も一旦区切りになるので、ここで章を変えようと思っています。
恭也にとっての幸福ってなんなんだろうか?