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ちるはなふるゆき  作者: 捨石凞
第1章 心のないマリオネット
30/35

その引き金を引いてはならない

「……そうか、彼女とは友人になれなかったか」

 週明け、僕は柳さんと共に屋上に訪れて小森さんとのことを話していた。

「怖いって言ってた。 あなたの気持ちは嬉しいけど、それに応えてしまうことにとても恐怖を感じてしまうって」

「長らく人との関わりを絶っていたせいもあるんだろうね。 それまで培ってきたものを変えるってことは、なかなか難しいものさ」

「そう、だね。 結局僕は、彼女に対してどうすることもできなかったよ」

 僕が落ち込んでいると思ったのか、柳さんはいつもよりも僕に気遣うような言葉をかけてくれる。

「いや、そんなことはないさ。 少なくとも君が動いたことで彼女は一人ではないということは分かったんじゃないかな。 ただ、打ち解けるまでにはちょっと時間が足らなかったってだけさ」

「そうなのかな。 自己嫌悪になってるせいか、どうもそういうプラス思考な考えにはなれそうになくて……」

「それも時間が経てば大丈夫さ」

 柳さんはなんてことのないようにそう結論付けた、彼女のような強さがない僕には酷なことだった。

「まあ魔女小森の話はこのくらいにしよう、それよりも君のことだよ」

「ぼく?」

 いきなり僕のことが話題に出てきてびっくりしてしまったせいか、変な声が出てしまう。 それよりも、どうしてここで僕のことが出てくるのだろう?

「君だって理由もなくここに来たわけじゃないだろう、その情緒不安定さは元からだったってわけじゃないはすだ」

「……もしかして、この一連の流れで僕のことも見てたっていうのかい?」

「気分を悪くしてしまったかな、それは謝ろう。 ただ君という人間がどういう人物なのか僕はよく知らないからさ、それでよく分かったよ」

 柳さんは僕のことも観察してたという、この後に続く言葉を言わせてはいけないと頭の中で警鐘が鳴っている。

 それはお前の思い出したくない記憶を引き出す言葉だ、と。

「な、何がわかってって言うんだい?」

「いや、大したひねりをないよ」

 そして柳さんは僕の心の奥にしまっていたことを言った。


「君は、かつて友人だった人に裏切られたんだろう?」


 ドクン、と。 心臓の音が一際大きくなったのがよく聞こえた。

 それと同時に僕がかつて体験してきたことが映像となって出てくる。


「こういうの、ずっと憧れだったんだ」

「いいな、こんな風にいられたらどんなに幸せだろう」

「クリスマス、何か欲しいものある? えっ、そんな深い意味はないよ。 ただちょっと気になっただけだから!」

「恭也のこと…私好きなのかも」

「お前、知ってたんだろ? 俺が彼女のこと好きだってこと。 なのになんでっ!」

「違う、そうじゃない! 僕は××のこと裏切ってなんて……っ!」

「ごめん……ごめんね、私のせいでこんなことになっちゃって」

「恭也のこと……私好きだよ」

「なんでこんな風になっちまったんだろうな。 普通に、一緒に遊んだりバカやったりする仲だったはずなのに、どうしてここまで」

「お前さえいなければ、おまえさえ……殺してやる……コロシテヤル……」

「お兄ちゃん、何があったの? 最近変だよ」

「ひっぐ、へっぐ。 どうして、どうしてなの? どうして、こんなことするの? 止めてよ……お願いだから元の……」

「落ち着いて下さい! 先生はまだ来ないんですか⁉︎ 早く鎮静剤を打たせてっ!」

「恭也のこと……私好きだから」

「もう、会わないから……これ以上いたらあなたをもっと苦しませてしまうから、だから……」


「さよなら、恭也……」


「はぁ、はぁ、はぁ……」

 今のは……本当に全部僕の過去なのか?

 まるで記憶にないものまであった気がするけど、それよりも僕は、僕は……

「裏切られてなんかない……」

「え?」

 柳さんが僕の顔をみてぎょっとしていた。

 いきなり様子が豹変したことに驚きを隠せないでいる。

「誰も僕のことを裏切ってなんてない。 悪かったのは僕なんだ。 僕が何もかも壊して、そして無かったことにしてしまったんだ、この僕が! 他でもない、この……ぼく、が……」

 言ってる間に膝が崩れてしまい、そして瞳から大粒の涙を流していた。

 ああ、やってしまった。 僕はまた人前で大きな失態をやらかしてしまった。

「えっと、茅野……くん?」

「うわぁぁぁ……っ!」

 泣いた、泣いていた。 ただただ……涙を流していた。

 誰が見ていようが、恥ずかしかろうが関係ない。

 悲しかった、悲しかったんだ。

 僕は悲しいから、泣き続けていた。

 理由なんて分からない、何が原因かだったなんて知る由もない。

 ただ客観的な意見を述べるなら……

 ビルの屋上で大泣きしている男と、それを呆然と見ているだけの姿があるだけだった。



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