そしてボクが認めること
次の日、セツたちの報告を聞こうと教室に入るとなんとも暗い顔をした二人が目についた。あまりにも暗いせいか、二人の周囲にどす黒いオーラが漂っているように見える。
「あ、おはよう恭也……」
「おはょ……」
「ふ、二人ともどうしたの? セツなんか途中で言葉が消えかけてるし!」
「なに、悪いほうの予想が当たっただけさ、ははは……」
カケル、笑いながら魂が抜けていってるよ。この状態を見ているだけで、どんな結果だったかが手に取るように分かってしまうな……
「そうだよ、ダメだったよ。門前払いされたよ! 悪い? 悪いって言いたいんでしょ、そうなんでしょ!」
ああ、あまりの結果にセツが壊れてしまっている。これじゃただの酔っ払いだよ……
「こ、小森さんは他に何か言わなかったのかな? 帰れ以外に」
「「……」」
しまった、つい追い打ちをかけてしまった。二人とも死んだ魚のような目をしている、でも故意じゃないんだよ分かってほしい。
「言ってたよ、一応ね」
「なに、なにを言ってたの?」
正直、この会話を早く終わらせないと二人とも復活できなくなってしまう。
ああもう、なんでこんな時にイナジュンいないんだよ! 一応このグループのムードメーカーだろ?
「茅野恭也は来ているか、って」
「……!」
その言葉を聞いたとき、僕の身体は自然とこわばっていた。彼女が僕の名前を知っていたことに驚いたのもあるが、明らかに僕に対して言いたいことがあるってことだ。でなければ、そんな名指しで言ってこない。
「今日は来てないよって言ったら、じゃあ帰って、あなたたちと話すことは何もないって、ないって言うんだよ〜〜〜うあぁぁぁぁぁぁぁっ〜〜」
ああ、ついに泣き出してしまった。僕はよしよし、とセツのことをなだめながらいよいよ行かなければという決意をした。
「呼ばれちゃったんじゃしょうがないな、行かないと」
僕は独り言のつもりで言ったはずなのだが、セツがそれに反応して答える。
「私たちも行こうか?」
「ありがたい言葉だけど、僕一人で行った方がいいと思う。彼女もそれを望んでいるだろうし」
「そう、じゃ任せるけど……絶対学校に来させるようにしてね」
「ぜ……善処します」
セツに圧をかけられる僕を見て、カケルも声をかける。
「ふぅ、大変だな恭也も」
「元々僕が蒔いた種だしね。解決しなきゃいけないのも当然僕なんだよ」
「そうか、こちらからは頑張れとしか言えないのが悔しいところだが……それにしても順太はどうした? あいつは学校を休むタイプではないんだが」
「うん、僕も気になってたけど……」
「あー、そんな深い理由じゃないと思うよ二人とも」
セツがそう言った時、教室の廊下からバタバタと騒がしい音が響いてきた。ガラッ、と大きな音を立てて入ってきたのはもちろん。
「いやー、寝坊しちまったぜ! でもまあセーフで良かった良かっ……」
「アウトよ」
「え?」
「え? じゃない、遅刻よチ・コ・ク」
「あはは、やだなぁセツ。挨拶にしてもあまり感心しない発言だぞ〜」
「残念ね、これ事実だから。さっき笹森先生が出席とってる時に、『あら〜稲葉君は来ていないのね〜じゃあ欠席、っと』って言ってたからあんた、遅刻どころか休みになってるわよ」
「……マジ?」
「マジよ」
段々と、イナジュンの顔が青ざめていく。本人には申し訳ないが、絵的に面白い。
「そりゃないぜ、ささもっちゃ〜〜〜〜〜ん!!!」
イナジュンは急いで職員室へと向かっていった。抗議したところで、遅刻は確定なんだけどね。
「まったく、朝から騒々しい奴だ」
「でもカケルは、そんなイナジュンのことを気に入ってるんでしょ?」
「う……素直に認めるのは癪だがそうだな、確かに嫌ってはいない」
そんなカケルの反応を見て、セツが怪訝な顔をして一言。
「……ホモ?」
「違うッ‼︎」
全力で否定するカケル。そこまで否定しちゃうと、余計怪しまれるのに……
僕はいつもと変わらないなと思いながらも、どこかで安心している自分がいた。
そこからは本当にいつも通りだった。
イナジュンが馬鹿騒ぎを起こして、カケルがそんなイナジュンをたしなめ、セツが騒いでいる二人を叱る。途中から柳さんが教室に入ってきて、聖剣エクスカリバーだと言って鉄の棒を振り回して騒ぎになったり…… おかしな人も多いけれど、どこか安らぎを得られている、そういう自分にとって安心できる空間があるのって大切なことかもしれない。
じゃあ小森さんはは? 彼女には今、そういう場所があるのだろうか? 彼女の家は、彼女にとって安心できる場所となっているのだろうか? 学校での様子を見ている限り、とてもそんな風には見えない。
誰からも触れられないように自分の殻にこもり、孤独であり続ける生き方はとても寂しい。だからこそ僕は、彼女にあの言葉を言ったんだ。
(「君が本当は一人でいたくないと思っているからだよ」)
事実、それを指摘したことで彼女は動揺していた。やり方としてはかなり強引だったが、彼女の殻を破る突破口にはなったと思っている。あとは家にお邪魔した時に、うまく彼女の手をとることができればいいのだが……
もしそれができたならば、今度こそ彼女はこのクラスの一員に本当の意味でなれる、そう思っている。その橋渡しをする役目なのが僕というのがこれ以上ない不安材料だけど、やるしかない。 僕は放課後になるまで、刻一刻と刻まれていく時計を睨み続けた。
そして放課後、小森さんの住所をセツから教えてもらい、彼女の家に向かうことにした。この辺りは集合団地になっているのか、一軒家の数が軒並み少なくなっている。そのため、同じような見た目の建物が多く、目当てのマンションに着くまで大分時間がかかってしまった。
なんとか目的のマンションを見つけ、階段を上ってドアの前までたどり着いた。あとはインターホンを押すだけ……なのだが、押そうとした指が震えていることに気づいた。
ここまで来てまだ緊張しているのか。もう覚悟は決めたはずなのに……未だに恐怖を感じているというのか。ここまでくると自分の愚かさが嫌になる。
だが、どんなに愚かであろうとも僕は僕であることから逃げることは出来ない。他の誰かに成り代わることなどできない。僕が茅野恭也であることを認めてしまうしかないんだ。逃げられないのなら……進むしかないんだ。
僕は一度目を閉じ、そして開く。今度指を見た時には手の震えは止まっていた、よしこれならいける。そのまま指を前に出し、ピンポーンとインターホン特有の音が鳴る。
さあ、はじめよう。




