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ちるはなふるゆき  作者: 捨石凞
第1章 心のないマリオネット
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ゴスロリ少女はかく語りき(後)

 それからどれくらい時間が経っただろうか。日が大分傾いているようなので、夕方に差し掛かったあたりだとは思う。お昼を食べ損ねてしまったせいか、ここにきて急激に時間の経つのがゆっくりになった気がする。それだけの時間をかけたのだから小森さんの絵もそろそろ完成していると思われるが……

 未だに彼女は鉛筆を走らせていた。正直もう見る気はしないのだが、自分から残っておいてそれじゃあバイバイと別れるのもあれだなと思ったので、今の状態を確認する意味でもう一度後ろから覗き込んでみる。

「……あれ?」

 思わず声が出てしまった。失礼な話だが、一瞬目がおかしくなったのかと思った。あれほど理解不能と思われた混沌な絵が、今見るときちんとした風景画に仕上がっていた。一体、この数時間の間に何が起こったのだろうか?

 しかし、よくできた絵ではあるが辺りのものを描いていたわけではないようで、少なくとも僕には見覚えのない光景が描かれていた。

「ふぅ……」

 ここで小森さんが鉛筆を置いた、どうやらこれで完成のようだ。

「上手だね。小森さんにはこんな才能があったんだ」

 僕は、彼女が一息ついたところで話しかける。

「まだいたの?」

 ざっくりである。ずっとそばにいたのにこの反応、さすがにキツいな。

「一区切りつくまで見てようと思って」

「あなたもたいがい暇人ね。私も大して変わらないけど」

「その絵、どこかの景色を描いたものなの?」

「どこでもないわ。 頭の中にあったイメージをそのまま描いただけ。探せば似たようなところはあるでしょうけど」

 なんと、イメージだけでこの絵を描いたと言うのか。発言から考えてもやはり彼女は「持っている」側の人間なのだろう。僕が想像だけで絵を描いていたら、必ずといっていいほどよく分からないものになってしまうのに。

 彼女はすぐに用具一式を片付けて、立ち上がる。

「帰るの?」

「あなたに、いちいち私が何をするのか言う必要性を感じないのだけど」

「必要性とかそんな話じゃないよ。小森さんのこと知りたいと思ってるだけ」

 僕が思っていることを告げると彼女の顔色が曇る。

「どうして? 私のことを知ってあなたはどうすると言うの?」

「友達になりたいんだ」

「……そう」

 前に、学校で踏み込んだ時よりもましになった気がする。あの時は即拒絶されたからな。

「諦めなさい。友達ごっこをしたいなら他をあたって」

「それこそどうしてなんだい? 僕の言ってることってそんなに難しいことなのかな?」

「私は誰とも関わるつもりはないの。 もういいかしら、早く帰りたいの」

 足早に去ろうとする彼女の前に立ちはだかる。

「なんのつもり?」

「本当に誰とも関わりたくないのならずっと家に引きこもっていればいい。そんなの、誰でも分かることだよ」

「……うるさい」

「確かに君には辛い過去があったんだと思う。はじめから人を拒絶するような人なんてまずいないんだから」

「……だからなんだっていうの? もしそうだったらあなたは私を慰めてくれるというの? ふざけないで、そんなの私は望んでいない」

「そんなつもりはないさ。僕だって自分のことしか考えられない性質だから」

「だったらどうして私に構うの? これ以上つきまとうつもりならけいさ……」


「君が、本当は一人ではいたくないと思っているからだよ」


 正直僕のこの考えは当てずっぽうである。笹森先生やイナジュン達の発言、そして彼女の行動から僕なりに考えた結論が今言ったものである。外れてたら通報されるのかな。1X歳でムショ入りは完全に人生終了だから、勘弁してほしいな。

「違う、そんなことはない。そんなこと……」

 小森さんは何やらブツブツとつぶやき始めた。何か様子がおかしい、追い詰めすぎたのかもしれない。

「私は、人形なんだから。人間なんかじゃないんだから。誰もいなくても気にしないんだから……だから……」

 よく見ると、目の焦点が合っていない。これは本格的にヤバイかもしれない。 僕が追い込まれて殻に閉じこもるときと同じだ。

 だが、精々自分の中に閉じこもるだけの僕と違って、彼女の姿は今にも自殺してしまいそうな危うさを感じさせるものがあった。

「小森さ……」

「……ッ‼︎」

 小森さんは僕から逃げるように全速力で走り去っていってしまった。追おうにもここは繁華街のため、すぐに人混みに紛れて分からなくなってしまった。


 結局、今回の僕は彼女に対して追い込むだけ追い込んで苦しめただけの最低野郎になってしまった。

 このまま彼女が死んでしまったら僕のせいだろうな。このことを知ったら、カケルやセツに糾弾されるだろうか。優羽なんかは、僕のことを嫌ってしまうのだろうか? そうなったら僕は……

 いや、ダメだ。この考えは、僕の心を殺してしまう。

 小森さんより前に、追い詰めた僕が死ぬのはあまりにも駄目すぎる。

 しかし、僕は彼女の家を知らない。今日のところはどうすることもできないと思った僕は家に帰ることにした。

 こんな僕を非情な人間だと思うかい?

 でもどうしようもないじゃないか。

 これが僕……茅野恭也という人間なのだから。




書いていてどうしようもない主人公だなって思います。

今後の主人公の成長もうまく描いていけるよう頑張っていきます。

それはそうと…小森さんどうしよう?

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