箱庭の中にいる僕はなんの夢を見るか?
遅くなってしまって申し訳ありません。
続きからの投稿になります。
繁華街の方へ行こうかなと考えていたとき、見覚えのある姿が目に入った。 こんな所を歩いているのが意外だと思った僕はその人に声をかけてみた。
「やあ、イナジュン。こんな所で会うとは思っていなかったよ」
僕が声をかけると、イナジュンは気まずそうな顔を浮かべながら、僕の挨拶に応える。
「恭也か。ちっ、あまり会いたくないところで会っちまったな……」
いきなりなんてこと言うんだ、泣きそうになるではないか。
「会って早々、そういうことを本人の前で言っちゃうのは失礼だと思うんだけど?」
「そんなことは分かってる。だけど病院の前で会うってことはさ、分かるだろ?」
「……まあ、そうだね。イナジュンもここに通っているの?」
「俺は週末あたりに毎回来てるよ。あんまり、安定してなくてさ。こうして必ず来ている安定さはあるのにな」
皮肉げに、自分の生活状況を告げるイナジュン。
「僕も、イナジュンと大して変わらない生活を送っていたよ。ただ、イナジュンと違って何一つ安定していたものはなかったけど」
「俺だって、元からこんな風だったわけじゃねぇよ。普通に学校通って、ダチと放課後遊んで、家でゴロゴロしてる……そんな何気ない日々を送っていたさ」
イナジュンは、かつての学校での生活を思い出しているのか、苦い顔をしていた。やはり、イナジュンも僕と同様に未だ溜め込んでいるものがあるのだろう。いつも、カケルやセツとバカ話をしている彼からは想像できない表情をしていた。
「カケルやセツはこのことを?」
「知らないさ。知ったとしてもそれほど驚くこともないだろうけど」
「事情をよく知っているからか、またはあの二人もどこかで通院しているかもってことか」
あの二人だって、平々凡々な人生は送ってきてないはずだ。それでも、学校で会うときはなんてことない顔をしている。僕も少しはあの二人のように、うまく対応できるようになりたいものだが。
「今まで会わなかった俺とお前が会ったってことは、二人ともここに通ってる可能性もあるぜ。まあ、俺もあの二人とここで会ったことはないけど」
「いずれにしろ、知ってて得することはないか」
僕はなんとはなしにはぁ、と息をついていた。
「んじゃ、そろそろ俺は帰らせてもらうぜ」
イナジュンはそそくさと帰ろうとする。
「イナジュンは休日とかは何してるの?」
「特になにも。少なくともこれから遊ぶってことはないな」
それじゃあな、と僕の言葉にそっけない返事を返してそのまま去ってしまった。ありゃ、ふられてしまったよ。学校の外での付き合いとなると、こんなにもそっけない対応をするのか。
でも、それでいいのかもしれない。僕たちは何がきっかけで錯乱するか分からない、精神的な爆弾を抱え込んでいるようなものだ。そんな人間と行動を共にして、もし何かあったらその時点で以降の付き合いはぎこちないものとなってしまう。
僕はイナジュンを誘うのを諦め、再び繁華街の方へ向かうことにした。
雑踏の中を歩いていると、少し開けた場所に出た。ボーッとしている内にいつの間にか広場の辺りまで歩いていたみたいだ。少し疲れたように感じた僕は、近くのベンチに腰を掛け、その横に貰ってきた薬を置いた。
何の用もなくただボーッと周辺を眺める。表情も大して変わっていないままだから、時間を潰してこんなことをしている自分を第三者から見たらさぞや無気力な若者に見えるだろう。
だが、僕にとってはこれはひとときの癒しなのだ。欠かしてはいけない時間なのだ。家で気の張り詰めたような時間を過ごすより、余程有意義である。
こんな状態では、僕がまともな精神状態に戻るのはだいぶ先になってしまうだろうが構わない。だって僕は、こんな何もない時間を愛しているのだから。この時間を失くしてまで治療に割くつもりはさらさらない。
ふと、視線を変えたときに見覚えのあるものが飛び込んできた。
なんだろうとその場を目を凝らしてよく見てみると、あのゴスロリ服を着た少女……小森さんが、スケッチブックのようなものを手にして書いている姿が見えた。こんな街の雑踏から何を書いているのかと思うと不思議に思ったが、彼女もまた普通ではない。何か彼女にしか見えないものを見出しているのだろう。 声をかけるとすぐに帰ってしまいそうだと思った僕は、しばらく彼女を観察することにした。
しかし、いくら待てども彼女が書き始めることはなく、僕と同様にただ街の様子を眺めているだけであった。仕方ない、どうせ僕も暇なのだ。声をかけるだけかけてみるか。
僕は彼女に目を向けたまま立ち上がり、まっすぐ彼女の方へ向かっていった。




