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ちるはなふるゆき  作者: 捨石凞
プロローグ 散ってしまった花たち
13/35

振り返ったらヤツがいた

 教室に戻るともう誰もいなかった。僕は柳さんと学校の玄関前で別れ、一人家路を歩いていた。

 夕方頃の街は人で溢れている。当然だ、ここは市の中でも一番栄えているところなんだから。

 だけど、そんな中にいる方が僕は安心する。これだけの数の中にいれば、自分という「個」が目立つことはない。中身がどれだけ歪であろうと、表面を上手くごまかしていればまず気づかれることはない。

 そう、僕という「個」は大勢の「群」によって隠されるのだ。僕にとっては、自分をさらけださずに済むこの空間が好きだなんだ。

 そんな街のなかをトボトボと歩いていく。

 今日ケバブ屋に行くのは……止めておこう。また、彼女に会ってしまうかもしれないし。寄り道するのはよそうと思い、足早く歩いていく。



 家に帰り、親に形だけの会話をしたあと自分の部屋に戻った。

「フゥーッ」

 思わずため息を吐いてしまう。今日も色々濃い1日だったせいだろうか、身体中が悲鳴を上げていた。もっとも肉体的な疲労ではなく、精神的なものなのだが。

 僕は寝っ転がりながら、先程柳さんと交わした会話を思い返していた。いや、正確には彼女が最後の方に言っていた言葉について考えていた。


(「もしかしたら、君は……この学校にいる誰かを癒すことができるかもしれないね」)


「僕が……誰かを癒す? そんなまさかな……」

 ありえないと思いながらも、僕はなんとも言えない気持ちを感じていた。

 結局、彼女のことは何も分からないまま終わってしまったが、やはり何かしら重たいものを抱えているような感じはした。

 また、彼女はあの学校に通う人はみんな病んでいるとも言っていた。そんな中で、同じように病んでいる僕が誰を癒せると言うのだろうか。

 僕は僕であることから逃げられない。僕は僕の好きなように動くことしか考えることは出来ない。だけど……

 その一つ一つの行動が、柳さんの言う誰かの「癒し」になるのなら……

 僕は僕なりに、彼らと関わっていくことで変わるものもあるかもしれない。僕からすれば、逆に傷つけてしまうことの方が多い気もするが。

 そんなことを考えていたとき、ドアをノックする音が聞こえた。

 誰が来たか大体予想できるため、僕は誰とも聞かずに「入りなよ」と言った。 入ってきたのは、予想通り優羽だった。息が少し荒いのを見ると、急いで帰ってきたのだろう。

「どうかしたの?」

「んーん。ただ、くつろぎに来ただけ」

 あっけらかんとそう言い切る優羽。彼女はそのまま部屋のベッドを背に腰掛け、持ってきた本を読み始めた。

 優羽は基本何を考えているのか、兄の僕でもよく分かっていない。僕と同様、気の赴くままに行動してるだけなんだろうが、そのせいでさっぱり行動が読めない。

 だから、僕たちはマイペースな兄妹なんだなと思うことにしていたのだが……

「何読んでるの?」

 近くにいるから反応してくれるだろうと思い、話しかけてみる。

「家族という混沌」

「……」

 なんて返答しづらいタイトルなんだ……

「面白い?」

「うん、この筆者の家族に対する考え方が特に」

「いわゆる新書……でいいのかな?」

「そう、かな。お兄ちゃんも後で読む?」

「いや、大丈夫」

 やんわり断ろうと思ったが、存外はっきりと断ってしまっていた。まあ、僕あたりが読んだら間違いなく鬱になりそうだし。

「お兄ちゃん、今日もお疲れ?」

 僕の様子を見て感じたのか、優羽がそう聞いてきた。

「うん、すごく」

「何かあったの?」

 僕は間を置いて、

「自称勇者に散々振り回された」

「??? そ、そうなんだ、大変だったんだね」

 全く理解はしてないんだろうが、とりあえず頷いてくれた。でもそう言うしか無いんだよな……

「そういえば、明日って何か予定ある?」

 突然、優羽が暇かどうか聞いてきた。そういえば、明日から休みだったっけ。 何もないかな、って言おうと思ったが、

「……いや、明日は午前中に病院に行ってこようと思ってるんだ」

「え、どこか調子崩したの?」

 優羽が心配そうに聞いてくる。いきなり病院って言ったらそりゃこんな反応しちゃうか。

「違う違う。環境がガラリと変わってちょっと情緒不安定気味な気がしたから、ちょっとカウンセリングを受けてくるだけだよ」

 僕の言葉に優羽は安心してくれた。とはいえ、僕としては今の状態はあまり良いとは言えない。この2日という短い期間で、2回も錯乱状態に陥ってしまっている。

 一度、しっかり先生に診てもらったほうがいいかもしれない。

「そう……もし暇だったら、買い物に付き合ってもらおうと思ったんだけど」

 良かった僕、断っといて。優羽は買い物が長い方で、付き合ったら最後、それで1日が終わってしまう。今の僕的にそれはキツイものがあるので、ホッとしていた。まあ、誘いを断ったのだから明日は必ず病院に行かないと。

 僕はその後も優羽と話をして、適当なところで切り上げた。



『家族という混沌』…ギリギリですかね

まあ、それだけでなく他もアレなやつ多々ありますね。


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