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ちるはなふるゆき  作者: 捨石凞
プロローグ 散ってしまった花たち
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ここはへっぽこ学園のピークラス

 おはよう、こんにちは、そしてさようなら。

 こんなやりとりを何度も繰り返して、僕の人生である一日一日は過ぎていった。ぶっちゃけていえば、とても平凡なものだったと思う。

 今や一億を超えた日本の人口で一つキラリと光るようなものは特になく、数の暴力とでもいうべき他の人達又は故人達の歴史によって、そんな人生なんてあっという間に埋もれてしまうだろう。

 さて、そんな平凡な毎日を送っていた僕だけど、僕の身にちょっと人には言いがたいことが起こり、それが原因で軽く流してしまうことのできないことをしてしまったのだが、今は触れないでおこう。いつかは触れなくちゃいけないことだけれど、今現在はまだ放っておいてもいいことだ。要は僕自身が触れたくないだけなのだが。

 こんな感じで僕について語ったけれど、どうやら目的地に着いたようだ。

街の雑居ビル群に囲まれたなか、少し寂れた感のある一つのビルにこれから僕が通うことになる所がある。

 まず、教員の人がいる所へ行って僕がこれから入るクラスの確認をするのだが、こうして見ても僕が知ってる「学校」とは程遠く、小さな会社みたいな印象を受ける。やはり、この場所がちょっとワケありの人達が通っているというのがあるのだろうか。

「ええと、茅野恭也君……でいいんだよね?」

「はい、そうです」

「私は君の転入するクラスの担任で笹森といいます」

 よろしくお願いします、と互いに挨拶をしてから笹森といった教師は先を続ける。

「これから君が入るところになるクラスは、学年もバラバラでそれぞれ何かしらの事情を抱えている子達がいるってことは知ってるかな?」

「ええ、僕も一応事情のある子に入るわけなので。そういった人たちを中心に受け入れてる学校なんですよね?」

「うん、その解釈で間違ってないわ。それで出席に関してだけど、うちは授業自体は出ても出てこなくても特に問題はないの。だけどなるべく毎日出席して、クラスの子達と馴染んで欲しいと思っているわ。人と会うこと自体が怖いと言って出てこなくなっちゃう人がたまにいるんだけど、社会に出ていくにはやっぱり交流していく必要があるからね」

「はい」

「あとテストが普通の学校と同じようにあるんだけど、これは必ず受けて欲しいの。ここを卒業するためには単位を取る必要があるから、どうしてもテストをここで受けたくなかったら家で実施する方法もあるし、どうしてもテストっていう形式が嫌ならレポートを書いて提出するって方法もあるから」

「はい」

「とりあえず一通り教えたけど、何か分からないところはあったかな?」

「いまのところはなんとも……ですね」

「それもそうよね」

先生は苦笑しながら最後に、と口にした。

「世の中はあなたたちが思っているよりもひどい世界じゃない。優しい一面も必ずあるから、だから希望を持って欲しいって私は思ってる。本当よ?」

 最後にいったのはあれだろうか? 生徒がはやまった行為に走らないようにするための予防線といったところだろうか?

 だったら僕には何の心配もない。もうそんなことはしないと胸を張って言える。なにせ僕は色んな人にたくさん心配をかけてしまったからなあ。


 しばらく歩いて、教室らしき所で先生が止まる。どうやら、ここが僕の入るクラスのようだ。

「じゃあちょっと待っててね。あなたのこと紹介するから」

 先生にそう言われた僕は扉の前で少し待つ。

 これからここで二年近く生活することになるのか。なんというか、自分がまたこうして学校に通うことになるなんてな。

 一時は、もう通うこともないまま高認試験でもとるしかないかなと考えていたけど、親がこの学校を強く薦めてきたので試しにと入ることにした。

 僕は頭はまあごくごく平凡な成績だけど、精神的に随分まずい状態にあるようで、こういうコミュニケーションをとる場所に通わせようという親の考えはなんとなく分かる。

 問題なのは、僕の精神状態がどれだけまずいのか、自覚症状がないことである。精神科医の話によれば、僕はいつ突飛な行動に出てもおかしくないと言われるくらいに危ないらしい。

 しかも心の問題であるため、根本的なところは心理学的療法のみでどうにかしていくしかないらしく、薬による処方は気休め程度とのことだ。

 自覚症状のない僕にとっては、どうしても自分のこととは思えず、客観的に捉えてしまっている。まあ、この問題もここに通っていくことで少しずつ改善していけば僥倖なのだが。

 そうこう考えている内に笹森先生が僕に手招きしている。

 どうやら前口上は終わったようである。 少々戸惑いながらも僕は教室に入ることにした。


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