4 お願いです。
「もいちゃんが,あなたの姪って・・どういうことですか?」
ティガーノさんはソファに座り直した。
「不思議に思われるかもしれませんね。猫と虎ですからね。」
・・・・・
「彼女は,元々この国に住んでいたんです。でも,時々あの電車に乗ってそちらの世界に遊びに行っていました。
・・・・
ある日凄く興奮して帰ってきた彼女は,居心地のいい空気を見つけた。しばらくそこで暮らすと言って,また出かけたきり帰ってこなかったんです。」
・・・・・
もいちゃんは実はお嬢様で,跡取りとして,お婿さんもいたという。私が驚いたことに,息子もいたらしい。しかも,まだ赤ちゃんの息子を置いて,美優達の世界に行ってしまったということだった。
居心地のいい空気。それがユウミの家のことだったのだろうか?
いつもごろごろと機嫌の良かったもいちゃん。おかあさんがよく言っていたことを思い出した。
『ユウミが小さい頃は,しっぽをつかんだり,毛を引っ張ったりして大変だったけれど,決して怒らなかったのよ。』
「もいちゃんがこちらの人で,猫に化けていたって言うことですよね?そして,私の家に住んでいた。
昨年の今頃家からいなくなったのは,こちらに帰ってきたから・・・と言うことでいいのでしょうか?」
「まあ。簡単に言うとそうなるね。」
少しむっとして,私はきつめの言い方で答えた。
「それと,私が帰れないことって,関係があるんですか?」
すると,悲しそうに,にゃあ・・・ジルが
「おばちゃんはいいひとだよ。だから助けてやって欲しいんだよ。」
と口を挟んできた。
「ぼくはね,まえ,お父さんと一緒に,おばちゃんを探しに行ったんだよ。」
・・・
「・・・ちょうど昨年の今頃のことだったよ。ぼくは,お父さんと一緒に初めてそっちの世界に行ったんだ。」
・・・・
そして迷子になったそうだ。
さまよっているところに,ちょうどユウミが通りかかり,助けてくれたという。
そういえば・・確かに昨年1回,猫を拾って家に帰ってきた。
・・そうだった。その後で,もいちゃんはその猫と一緒にいなくなったんだった。どうしてこんな大切なことを忘れていたんだろう。もいちゃんがいなくなったことだけは覚えていたのに・・・
「ぼくはおばちゃんと一緒にお父さんを探して・・それで,帰ってくることが出来たんだ。ユウミちゃんのおかげだよ。
そして,おばちゃんも一緒に連れて帰れたのも,ユウミちゃんのおかげなんだ。」
今年は,ユウミを迎えに行くことになり,
「春から様子をうかがっていたんだ。毎日,ユウミちゃんとふれあえたから,うれしかったし。」
と言うんだ。
・・・入学してからのことを思い出す・・・
毎日会っていた垂れ耳の子猫。あれがこの子で,この子は私に会いに来ていた。いや。私を迎えに来ていたのか。信じられない。訳が分からなかった。何で私を迎えに来たのか,何をさせたいのか。
「おばちゃんの本当の名前はヴーハイト」
「?」
「あの山の名前と同じなんだ。そして,今,おばちゃんはあの山のてっぺんにいるんだ。」
どういうことだろう・・ますます混乱してきた。
『もいちゃんの名前はヴーハイトで,駅員さんが言っていたヴーハイト山と同じ。そしてもいちゃんはこの山のてっぺんにいる?!それを助けて欲しい?どういうこと?』
・・・
話はまだ続いていたんだけど,私の頭はもう一杯一杯だったみたい。しばらく脳が聞くことも考えることも拒否していたんだろうなあ。
・・・
「・・・と言うわけで,美優さんには,中央の学園に入学してもらいたいんです。」
気が付くと話はとんでもない方向に進んでいた。
「・・・学園に入学?」
「ええ。あなたの力を目覚めさせるために。
そして何より,姪の子どもを助けるために。」
「姪の子ども?」
「僕のいとこだよ。おばちゃんと一緒に,その子も助けてやって欲しいんだ。」
「とにかく,その二人を助けるまでは,私は家に帰れないと言うことなんですね?」
簡単に言うと,そういうことなのに違いないわ。
「終われば帰してもらえるんですね?」
重ねて念を押すと,ティガーノさんは重々しく頷いた。
「我ら一族の誇りをかけて,お約束いたしましょう。」
わざわざ私になんか頼まなくても,自分たちで解決すりゃいいのに・・・でももいちゃんにはもう一度会いたいしなあ・・
・・まてよ・・・力がどうとかいってなかったっけ?まあ・・・後でもいいか・・・
その後、夕食の時間まで,学園のことやそのほかのこと,これからのことなんかを細かく打ち合わせていったんだ。
元々私は思い切りのいい子だったから。
『これ以上、出来ないことをくよくよ考えていても仕方がない。今,出来ることをとりあえず片付けていこう。』
なんて思っちゃった…お母さん・・ごめん。きっと帰るから許してね・・・
大筋には変化はありません。