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Mikasa

誰もいないビルの中、俺は怪物に目をつけられることなく進んでいく…がその幸運はいつまでも続くことはなかった。ビル最上階へと続く階段の一歩手前には中くらいの怪物-存在していると規定されその姿を投影されたMonster Objectつまりは幻-がたたずんでいる。どうやら避けることはかなわないらしい。

仕方なく腰に下げた銃を目の高さまで持っていき、息を整え引き金をしぼる。銃口から飛んでった弾は、怪物の頭にあたりあっという間に突き抜けると、壁に当たって砕けた。怪物は暫く目を見開き自分を撃った標的の姿を見つけると、反撃するべくズシズシ歩いてくる。

(ちっ、HP残りやがった。)

忌々しく思いながら怪物の目の前へ飛び出し、数発を至近距離で-急所だと思われる頭-撃ち抜く。だが、攻撃を受けていないかのように怪物は手に持っている棍棒を振り上げた。

(仕留め損なった!くそっ)

死にそうな時に悔やみごとかよ とは思いながら最後の最後まで攻撃するべく銃を構える。怪物は勢いよく棍棒を降り下ろした…否下ろそうとした。怪物は途中で動きを止め、それと同時に身体中にヒビが入る。怪物はそんな自分を不思議そうに見ると、その身をガラス片へと変え霧散した。俺の視界にはこの怪物を倒したことによるメル-この世界での通貨だ-やアイテム、経験値などが表示されては消えていく。どうやらレアアイテムが手に入ったようで、アイテム欄が ほら見ろ、それ見ろとでも言うかのように明滅している。俺は確認しようとした…やはりやめよう来客だ。

「よぅ兄ちゃん。平衡仮想現実Truthを楽しんでるかい?」

声をかけてきた男はニタニタ下品に笑いながらそんなことを聞いてくる。

「楽しめるわけないだろう?」

「まぁそうだよな。んだがこのダンジョン新人の兄ちゃんにはちぃときつくねえか?」

「関係ない。」

「んでよぅ兄ちゃん。物は相談なんだが…今持ってるメルとアイテム全部おいてけや。お礼は…そうだな、安全にこのダンジョンから返してやるよ。」

正直またかとうんざりする。相手が俺を見ると俺のHPバーが視界に表示されるのだが、この世界に入って2週間はHPバーの上に新人を表すマークも表示される。きっと、親切のつもりだったのだろう。だが、現在は悪用されまくって危険なこと極まりない。この世界に入って早1週間、一人で行動している俺は、しょっちゅうこの手の輩に絡まれている。話かけてきた男は交渉と時間稼ぎをかねていたらしくいつの間にか回りに人が集まっていた。

「ほんっと兄ちゃん運ねぇなぁ。」

「まぁ荷物さえ置いてきゃ罰は受けねえんだし、そうしな?」

「……断る」

俺はため息をつくとはっきりそう告げた。男たちは笑い出すが油断なく俺をうかがっている。だがその顔は明らかにバカにしている。最初に話しかけてきた男が憐れみの視線を俺に向け口を開いた。

「んじゃ兄ちゃん、痛い目み…」

男は最後まで言うことは出来ず、その身を霧散させる。自分が撃たれたことさえ認識できなかっただろう。

「なっっ」

「おめぇなにしやがんだ!」

「お前なにしたかわかってんのか?」

TruthではPK-プレイヤーキル-つまり、人を倒すことは原則的に禁忌とされている。HPが全損すると、経験値やスキル熟練度を多少失い、最後にセーブした地点から蘇生できる。ここまでは従来のゲームと変わらない。しかし、もうひとつ記憶がペナルティーとして奪われるのだ。記憶喪失になるわけではないが、記憶の中から名前そしてその人の顔がかけてしまうらしい。-俺はなったことがないからわからない-

「お前らこそわかってんのか?てかこれくらいの予想はしておくべきだろ?」

「生意気なっっ..」

「やっちまえ!」

前衛の男2人が襲いかかってくるが、即座に避け連射。そんな攻防が1分程続いた後、男2人が霧散する。残っているのは5人。

「そ、総長が…副長がっ」

そう言って俺に飛びかかろうとする男を他の男が止める。

「止めとけ。アイツ…<クルエル>だ。」

「<クル…エル>?ってあの?」

「あぁたぶんな。Truthに来て1週間の新人なくせに、上級職 銃使い:ガンスリンガーを修得してる。そのうえ出会ったやつは皆殺しって噂の当人だろ。」

「や、やべぇ。ずらかろうぜ!」

「残念ながらそれはムリだな。こんなことしてくれたんだ。もちろんメルとアイテムは置いてってくれるんだろうな?お礼は…そうだな、武器と防具くらい返してやるよ。記憶と比べたら安いもんだろ?お前らはもう俺の射程範囲内だ。」

顔に笑顔を浮かばせ告げる。男たちの顔は面白いくらい強ばり、その場にアイテムを置いて走り去る。その背をみながら、男たち全員にきっちり照準を合わせ弾を放つ。運のいいやつは当たらないだろう。まぁ当たらない訳がないが。地面に置いていかれたアイテムを自分のアイテム欄に放り込む。

「お前らの方が運なかったな。」

そう呟いて、Truthから離脱するべくその場を離れた。今日中にこのビルに設定されているダンジョンを攻略する気だったが、予定が狂ったせいで、弾が足りない。平衡仮想現実Truth…街や建物を除き、モンスターや武器・防具などはすべて仮想の偽物だ。ここにいる俺…Mikasaというプレイヤーすらも、ただの情報の固まり。ここに本当のモノなど何もない。あるはずがない。生き抜くためには、信じないこと、関わらないこと、そして自分の最善だけを考えること。少なくともここ、Truthでは。

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