湖
私は目を覚ますと夢の中の出来事を思い出した。
ツァトゥグアからの言葉を聞いた事である。言葉自体はある種の警告とも取れる部分以外はどういう意味かも分からなかったが、この神からの言葉を聞く事が出来ただけでも十分な収穫と言えるであろう。
意識がはっきりと覚醒してきたので私は食卓へ向かう事にした。もうそろそろ慧音が食事を作り終えている頃だろう。
食卓には慧音の姿は無かった。代わりにまだ作られて間もないであろう朝食と一枚の紙切れがあった。
紙切れにはおおよそ次のような事が書いてあった。
『すまないが用事があって夕方近くまで帰れない、昼食はここのお金を使っても良いから外食するなり自炊するなりして凌いでくれ。一応朝食は作っておいたから、冷めていなければ冷めないうちに食べておいてくれ。
外に出るのならば机の上に鍵があるから、戸締まりはそれでやっておいてほしい』
なるほど、何か急用が入ったのだろう。どういう用かは分からないが、きっとかなり重要な事なのだろう。
だがどうしようか。私は今日も図書館へ行く予定だったのだが、慧音がいないと少々危険ではないだろうか?
私は暫く悩んだが、やがて多少は一人で出歩いても大丈夫だろうという結論に行き着いた。
一応こちらもある程度の武装はしているのだ。いきなり私を喰おうとしてくるやつに決闘もへったくれもあるまい。
そうと決まると取り敢えず朝食を食べ、その食器を自分なりに洗った後で鍵を回収し、そのまま紅魔館へ出かける事にした。
私は特に何かがあった訳でもなく人里の出口まで来る事が出来た。
明るいから別にそれ程心配する事も無いだろうが、念の為に湖に出るまでは妖怪ですら避けるという魔法の森を通る事にする。
私は万が一のときの為にリボルバーは何時でも撃てるように準備をしてから森の方へ歩いていった。
魔理沙に箒に乗せてもらったときに分かったのだが、この森を真っ直ぐに行くと湖にたどり着くようだ。湖まで来れば後はそう苦労する事はないだろう。
それにしても、いつ来てもこの森は気分が悪くなってくる。幻想郷縁起によると、なんでもこの森に自生するキノコが撒き散らす胞子のせいだとか書かれてあったが、魔法使いはよくここに住み着いているのだという。本当に良くもまあこんな暗くてジメジメとした所に住めたものだ。私は入って五分足らずでもう頭痛がしてきたというのに。
一刻も早くここから出なければ倒れてしまうのではないかと思え始めたので私は歩く速度を若干あげた。
キノコの影響で幻覚が見えている訳でなければ、湖が見えてきた。
この湖には妖怪が水を飲みにくる事があると言うので、私は周囲を見渡して警戒した。
幸いな事に妖怪らしき姿はどこにも見えなかったので多少安心しながら歩こうとしたその時。
「あれ?まだこの辺に誰かいたんだ」
頭上から声がした。幻想郷に居る以上は空中にも注意を向けなければならないだろう。
私が声がした方向を向くと白いシャツに青いワンピースを着て、背中に氷の羽根を持った少女が中空に浮いていた。
彼女は恐らくチルノとか言う妖精だろう。この辺りの妖精のリーダーらしいが所詮は妖精なので頭は良くないらしい。
だが、それでも妖精の中では相当な力を持っているらしく、幻想郷縁起でも出来るだけ戦闘は控えるように促されていた。
適当に話をしてさっさとこの場を離れよう。そう思って私はチルノに話しかけた。
「この辺にはもう誰もいないのかい?」
「いや、湖の中によく分からない奴がいっぱい居るよ」
チルノが着陸しながらぶっきらぼうに言った。
「よく分からない奴ってどんな奴なの?」
私がそう聞くとチルノはちょっと考えてからこんなことを言った。
「うーんと・・・なんて言うか鱗がいっぱいあって鰓があって、人魚じゃないけど人間と魚の中間みたいな・・・」
なるほど、いかにも水辺に現れそうな妖怪だ。ひょっとしたら新聞に書いてあった新参妖怪かも知れない。
「そいつが湖に住んでいた妖怪とかを追い出したのかい?」
「うん、でもあたいは二、三匹くらい氷漬けにしてやったから、あたいの事は追い出そうとしないのよ。エヘン!」
チルノは胸を張ってそんなことを言った。この時、私の脳裏ではなんとか言いくるめて、チルノに紅魔館まで護衛してもらえば多少は安全なのではないかという考えが浮かんできた。妖精は単純らしいから少し煽ててやれば喜んで協力してくれるだろう。
「氷漬けねぇ・・・大した事をするもんだね、さぞかし恐れられているんだろう」
チルノは大変気を良くした様でこんなことを言った。
「ふっふっふっすごいでしょ?そうだ!目の前で魚人間を凍らせる所を見せてあげようか?」
「でもそいつらは今近くに居ないと思うけど」
私は辺りを見渡してみる。湖の周辺に特にそれらしい影は――当然私の頭上にも――見当たらない。
「何言ってんの、その辺に居るでしょ?」
そう言ってチルノは湖を指差す。
私が注意深く湖を見てみると、湖面に二つの目らしきものが見えた。いや、二つだけではない、四、八、十六・・・気付けば湖全体に見渡す限りに目があった。
「ほらね?」
チルノがそんなことを言ってくるがそれどころではない。こちらから目が見えるという事はむこうの目もすべて私達を睨みつけている事になるのだ!
やがてその目のうちの幾つかが湖面を突き破ってその顔を覗かせた。それはチルノの言う通り――この幻想郷にこんなにおぞましい生物が存在していたとは!――魚と人間を掛け合わせたような醜悪な面をしており、首には鰓と思しき切れ込みがあった。更に体中にヌメヌメとした鱗があり、不気味に光を反射させていた。
このおぞましい魚人達は私達をただじっと見据えるだけで特に何か行動を起こす事は無かった。恐らくチルノがそばに居る事が抑止力となっているのだろう。かといって下手に動くと一気に襲われそうな感覚がして体が硬直してしまっていた。
どれぐらいの時間が経ったのか。時折チルノが無邪気にも私に話しかけてくる事もあったが、適当な受け答えをするだけに留めて少しの隙も見せないようにした。
私の手に握られているリボルバー拳銃でどうにか退散してくれないか。そんな事を考えて指先にほんの少しずつ力を込めた。
そんな時だった。
「コーディ!?こんな所で何をしているんだ」
聞き覚えのある声が後ろの方から聞こえてきた。
驚きのあまり魚人達の事も忘れて振り向くと、そこには見覚えのある人物が二人と、直接あった事は無いが私の知っている人物が――それまで飛んでいたのだろう――丁度着地していた。
見覚えのあるうちの一人は、急用かなにかで出掛けている筈の慧音で私がここに居る事に酷く驚いているようだった。
もう一人の方は昨日知り合ったばかりの魔理沙でこちらは私よりも湖の方が気になっている様だ。もうすぐこの異常な出来事に気付く事だろう。
あった事の無い方の一人は紅と白の巫女装束――わざわざ脇の部分を開けて袖の部分は直接腕に着けている――を着ており、頭には大きめのリボンが留められていた。
一見暢気そうに見える彼女こそがこの幻想郷の実質上の支配者博麗霊夢である。
彼女は私と湖を交互に見やった後、私にこう言った。
「あーなるほど、あんたの仕業ね?覚悟しなさい!」
そういえば正邪が主人公の新作が発表されたみたいですね。
輝針城プレイしてて初見で「この子良いね、グッド」って思ってたんですごくうれしいです。
この調子でもっと人気が出れば良いのになーあー正邪可愛い。