デスルーレット
気配を感じた方向に向かってスキルを発動した。
「分解・・・。」
《視界の妨げになるオブジェクトを排除しました。》
やはりそこには、悪辣な外見のプレイヤーキラー集団が居た。
『MinorityOnline』は街などの非戦闘地域を除いてプレイヤー同士の戦いが可能だ。略奪などが可能であり、倒されたプレイヤーにはランダムでいくつかの制限が掛けられる。
「なんだ?俺達とやろうってのか?」
「こいつレベルにフィルターを掛けてやがる。面倒くさいな、どうせ雑魚だろ」
「へへ、やっちまおうぜ。」
どうやら気づかれたようだ。
私はプロフィールにフィルターをかけている。
名前、レベル、職業などを相手に見られるのを防ぐためだ。
相手はどうやら3人程度のようだから問題は無い。
レベルは各々が120前後といったところ。
それが3人となると100レベルの彼ではひとたまりも無かっただろう。
『殺し屋』『ギャング』『侍』
特にレア職が混じっているわけでもない。
ありきたりなプレイヤーキラー集団だ。
『MinorityOnline』においてジョブはランダムと謳っているものの、その実は質問によって決定する。そうであるから、その人間性がゲーム内職業に色濃く反映される場合が多い。そこがこのゲームの面白いところでもある。
とはいえ3人だ。
動き回られては面倒くさい。
「地獄の牢獄・・・。」
《地獄の牢獄成功、3名を牢内に閉じ込めました。》
これは拘束を目的としたスキルだ。
いかつい牢獄が相手プレイヤーを拘束して身動きを取れなくする。
当然、一定ダメージを与えられると破壊されるのだが、こいつら程度では破壊出来まい。
「おい早く壊せ!」
リーダー格と思われるギャングの怒声が響く。
「む、無理ですよ・・・。耐久値が全然減らない・・・。」
侍が刀を存分に振り回せない檻の中で弱音を吐く。
「だったらヒデキ、俺達であいつを撃ち殺そう」
そう言いギャングと殺し屋が銃を手にする。
私と同様にプロフィールに対して
フィルターをかけていた殺し屋の名前はヒデキというらしい。
ここがリアルであったならば殺し屋の名前がそう簡単にわかってしまうなど、廃業モノの失態なのであるが、ネットゲームにおいて名前が知れたところで特に問題はない。
パンッ、パンパンッ
あたっても構わないのだが、
防具の耐久値を戻しにいくのが面倒だ。
さっさと終わらせることにする。
「地獄の業火・・・。」
《地中から炎が現れて檻ないの3名を攻撃した》
《渋沢ナオヤ、丸井ヒデキ、伊藤タクは死亡した》
彼らはこれから、
コンテニュー画面でペナルティを決定することになる。
ペナルティを決めるのは『デスルーレット』
5%ほどの確率でキャラクターが削除されてしまうものだから質が悪い。
低レベルならともかく、高レベルまで育て上げて装備を所持しているキャラクターが削除されるのは厳しいものがある。
それゆえに、高レベルのプレイヤーほど、死亡しないよう上手に動くのだ。
逆に利害などで対立する相手を何とかしてキャラクター削除に追い込もうとする輩も存在する。
《渋沢タクヤ様のペナルティが決定。》
《渋沢タクヤ様は三日間ログイン不可能です。》
《丸井ヒデキ様のペナルティが決定。》
《丸井ヒデキ様のレベルが10下がりました。》
《伊藤タク様のペナルティが決定。》
《伊藤タク様の武器が壊れました。》
どうやら『デスルーレット』による判定が決まったようだ。
こうしてプレイヤーはそのログを確認することが出来る。
私は特に彼らのキャラクター削除を願うわけでもないので、
一喜一憂することもなく淡々と結果を確認した。まあ、こんなものだ。
一番軽いのはログイン制限。
レベルダウンと武器破壊は人によっては悲惨だが、
彼ら程度なら特に損失もない。
戦利品として彼らの所得ゴールドの半分を得た。
経験値はレベル差があるため雀の涙であるが無いよりはマシといったところか。
「・・・!」
なんとしたことか。
私が戦闘をしているうちに、
『救世主』の彼にかけたスキルが切れたようである。
もう少し見守りたかったが、
仕方ない。成るように成れ。