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一等星と四等星  作者: 彩坂初雪
文芸部
8/8

studieren

「くっそ……」

 裕也と勝負しようと言ってから三週間。

 一週間目はどの授業もオリエンテーションなどをまじえながらだったため、機会がなかったが、今は違う。古文や英語の授業で行われる単語テスト、体育の体力テストなど、争える舞台は多くある。

「……」

 駿平は最後列の人が小テストを回収しにきたことを確認し、裏返して手渡す。

 古文の小テストが終わったところだ。

「……」

 駿平は小さくため息をつき、机に書いている勝負の結果に目を落とす。



 駿平:三勝

 裕也:六勝



 ななめ前の席にいる裕也に結果を聞いたら今回も負けていた。これで裕也は七勝目。また、差が開いた。

 英語の方もほぼ同じだ。勝てないわけではないのだが、通算成績はこちらが大きく下回っている。

「次でなんとか差を詰めないとな……」

 駿平は密かに決意する。



     ◆



「ええと、これが打ち消しのずだから……」

 裕也との勝負が決まって以来、駿平はひたすら努力していた。

 帰宅後は毎日、自主学習を行い、予習復習を欠かさない。小テストの勉強だってもちろんしている。

「これは……なんだっけな。辞書辞書と」

 古文の辞書をめくり、知らない単語の意味を調べる。

 駿平には一つ、秘策があった。

 中間テストで裕也に負ける可能性は非常に高い。高校に上がり、勉強する内容が大幅に変わっても、下敷きになっているのは中学校の基礎だ。そこがまだ不十分な駿平はスタート地点からして出遅れている。

 けれど、それを覆す手が一つだけある。

 高校から新しく始めた教科、もしくは中学時代の成績があまり関係しない強化で圧倒的な差をつけることだ。英語や数学といった教科で裕也に勝つことは厳しいだろう。英単語や公式は勉強すればした分だけ身に着く。捨てるわけではないが、正直勝てるとは思えない。

 だが、古文漢文を含めた国語や社会科科目は少し違ってくる。中学時代は古文漢文はそもそもほとんど勉強していないし、現代文に至っては勉強したところで大きく差が開くものではない。社会科科目も単純な暗記勝負のため、たとえ中学時代に勉強した記憶が残っていても英語や数学ほど大きく差が出ることはないだろう。

 駿平は特に、古文漢文、社会科科目を中心に勉強していた。

「……っと?」

 不意に、勉強机の上に置いてあった携帯が振動し、メールの受信を知らせてきた。

「誰だ?」

 先ほどから一時間以上ぶっ続けで勉強していた。

 息抜きにメールするのも悪くないだろう。

「……うぜぇ」

 そう思ってメールを開くと、まことに腹立たしい文面が目に入ってきた。

【よう。勉強してるか? 今、カラオケにいるんだが――】

 裕也からだった。

 アニメの映像が出たとかなんとかいうことが長々と語られていた。

「いい気なもんだなおい……」

 誰かと一緒に行っているのか、一人なのかは知らないが、こちらは勝負に勝とうと必死に勉強しているのだ。カラオケとはいいご身分だ。

 なんと返そうか一瞬悩んで、


【小説はいいのか?】


 そう返した。

 文芸部に入部してから三週間。明後日から始まるゴールデンウィーク明けが作品の提出日だ。それから部誌ができるまでさらに何週間もかかると聞いているため、勝負そのものはまだ先だが、もうそろそろ焦っても良い時期だ。

 裕也からの返信は早かった。

【書いてるよ。ただ、自分の中のイメージと食い違いが出てて、どうするか悩んでるけど】

 駿平も即座に返す。

【なら、なおさらカラオケに居ていいのか?】

【息抜きだよ。缶詰したって出ないもんは出ないだろ】

 駿平は首を捻る。

 裕也の言うことは最もだが、先週も裕也はカラオケに行っていた。一週間に一度ずつくらいなら、上手く時間を作っていると思えなくもないが、本当に書いているのだろうか。駿平がこうして遊ぶ暇を惜しんで勉強と小説に取り組んでいるというのに、少々不公平な気がした。

【それはさて置き、明日は部室行く?】

 相手のことなど気にしても無駄と割り切り、話題転換。

 ごろんと寝転がる。祖母の家は実家とは違い、純和風な家のため、どこの部屋もたたみだ。わざわざベッドに行かなくても寝転がれるのは新鮮だった。

【行ってもすることないよな……。でも、ゴールデンウィーク前最終日だし、行くだけ行こうぜ】

【了解した】

 駿平はパチンと携帯を閉じる。

 文芸部に入部してから、駿平と裕也は毎日部室に顔を出しているのだが、驚くほどに誰も来なかった。唯一来ているのは実鳴と黒花の二人のみ。何度か部長、副部長には会ったがそれ以外の先輩とは会った記憶がない。部長に、それについて質問したところ「部室が縮小されたことで集まったところでなにもできない」と言われた。去年までは毎日顔を出す人間は限られてはいたが、それなりにいたとか。

 あとがきでぼやいていてたのはそれなりに来ていた人だろう。

「うっし。勉強再開っと」

 小説の執筆もしなければならないが、ゴールデンウィークがあるのだ。ある程度書いておけばそれほど急ぐ必要はないだろう。

 それよりも、小テストで負けっぱなしの状況をなんとかしたい。

 駿平はぐっと伸びをして、再び勉強机に向かった。


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