Erst
「ま、とりあえずはせっかく同じクラスなんだし、適当に授業の小テストとかで勝負してみないか?」
「形からってこと?」
「そういうことだ。あと、さっき聞いた文芸部の作品に関すること。俺らにとってはそっちが本命だろ? そっちも勝負しようぜ」
裕也が不敵に笑う。
先ほど、実鳴たちに説明されたのだが、先輩たちが自分の作品に取り組んでいるのは一ヵ月後、部誌を出すからなのだそうだ。これは文化祭で販売するものとは違い、仲間内で評価し合うだけのために作るもので、基本的になにを書いても良いことになっている。
もし、裕也とライバル関係になるとするなら、やはり一番勝負したい分野は小説だ。
「おっけ。最初の大一番は部誌に載せた作品の評価でいこう」
「おう。あと、中間テストとかもどうだ?」
「中間テスト? いや、それは俺が明らかに不利じゃね?」
学年最下位争いをしている駿平と真ん中以上にいる裕也。
嫌とは言わないが、さすがに軽く了承できない。
「だよなー(笑)」
「……」
かっこわらいとか口で言うな。
無性にいらっとする。
「駿平がある程度のところまでくるまで勉強系は小テストだけで――」
「別にいいよ。やってやる」
駿平が言うと、裕也は快活に笑う。乗せられたのだろうが、構いやしない。
どれだけ差があろうとそうして人を見下しているとどうなるか、教えてやろう。
「ま、そう恐い顔すんなよ。当面のところは部誌の作品と、普段の小テストだけでいいだろ?」
「ああ」
頷き、再び歩き出す。
時刻は既に五時半を過ぎている。日はとっぷりと暮れ、周囲から夜の気配を感じ取れる。
「電車は?」
「たぶんなんとかなるだろ」
「早速明日から授業始まるんだし、俺はすぐ帰るぞ」
「おう。見送りとかはいらねーよ」
駿平の家は学校から徒歩十分のところにある。正確には、祖母の家、だ。実家から通うと朝、かなり早く起きなければならないため高校在学中は祖母の家で寝泊りすることにしたのだ。
裕也の家も駿平の実家からあまり離れていない。そのため、電車通学になっている。駿平も実際に行き来したことがあるから分かるが、相当な距離がある。駅の近くにコンビニがあるため時間は潰せるだろうが、本当なら二人そろって登下校となるはずなのだ。負い目を感じなくもない。
「うっし。それじゃ、気合い入れてこうな」
そんな駿平の気持ちを読み取ったのか、裕也は一人でどんどん先へ進んでいく。
「また明日な~」
「ああ」
そして、曲がり角で軽く声をかけた後、そのまま駅の方へ歩いていってしまった。
「……」
駿平はさりげなく気遣われたことに感謝すると同時に、気にしなくてもいいのにというほんの少しの苛立ちを覚える。
「ま、いっか。とにかく勉強面では大きく負けてるんだから、頑張らないと」
裕也の背中を見送って、駿平は頬をぱんぱんと二度叩く。
裕也がどのくらい本気になるかは分からないが、少なくとも、駿平の方はかなり頑張らなければいけないだろう。高校は中学とは比較にならないほど勉強の幅が広がるはずだ。中学時代でさえ着いていくのがやっとだったのだから、気を抜いて良い時間などない。
「頑張ろう」
もう一度、声に出してみる。
とにもかくにも、これで高校生活を退屈しないで過ごせそうだった。
駿平は裕也との勝負を楽しみだと感じた。