Rivalen
「なんか、羨ましいな……」
学校を出てすぐ、裕也が呟いた。
「なにが?」
薄々感じつつも、駿平は問い返す。
「実鳴氏と黒花氏。ああいう関係って、なかなかなれないんじゃないかと思う」
二人の呼び名は実鳴氏と黒花氏になったらしい。
「中学の時から駿平と小説談義? してきたけど、単純に友達同士で感想言ってただけだろ? あんな風にライバルとして、しっかり言い合える仲間が居たら全然違うんだろうな」
裕也は足元に落ちていた石をこつんと蹴る。
その石は駿平の方に転がり、目の前で止まった。
「ほれ、パス」
その石を隣にパスして、駿平も感じたことを言葉にする。
「それは俺も思った。実際、部活の説明してる時ですらそこは間違ってるとか、そうじゃないとか、互いに口出ししてたもんな。ああやってなんでも言い合える関係ってすごいと思うよ。友達って、どうしても気を遣うっていうか、親しき中にも礼儀ありっていうか、やっぱり直球で感じたことを伝えられないからな。ライバルっていう関係だと、敵対してるわけだから、なんでも言いたい放題ってことになる」
裕也の蹴った石がまたこちら側で飛んできた。
今度はすぐに返さず、自分で蹴っていく。
「けど、ちょっと不思議ではあるけどな」
「不思議? なにが?」
「ほら、ライバルってことは敵対してるわけだろ? さっきも言ったけど互いの悪いところをそのまま、直球で言えるわけだ。そうなると、俺の想像ではすごくギスギスした関係になる気がする」
駿平が言うと、裕也も「そうかも」と同意する。
「実鳴氏と黒花氏って中学時代からなにかにつけて張り合ってたって言ってたよなー。上草第一高校に来たのもその関連のことだって言ってたし」
「でも、表面上はどうあれ、見た感じ普通に仲良くしてたよな?」
「だな」
今日見たものが全てではない。それは十分理解しているつもりだ。
ケンカや言い争いになることもあると口にしていた。なんでも相手に伝えるということはそういうことだ。気に食わないこともあるだろう。もっとこうして欲しい、もっとこうなればいいのにという希望だって出てくるだろう。
それでも、ずっと離れずに一緒にいるのは、何故なのだろうか。おそらく、その理由は実鳴と黒花の二人にしか分からない。
「あ……」
蹴り続けていた石が道路わきの下水に落ちてしまった。
「なあ、駿平」
「なんだ?」
裕也が不意に立ち止まった。
駿平も合わせて立ち止まり、裕也と視線を合わせる。
「俺らも、ああいう関係になってみないか?」
そうなるかなと思った。
駿平自身、小説のことをもっと話したいと思っていた。大きな目的はなくても、やるからにはしっかりと評価し合いたい。不満は特にない。
ただ――
「それって、なってみないかって言ってなれるものなのか?」
「それは知らん」
「だよな」
あの二人に共感を覚え、それ以上に羨ましいとさえ思ったが、なろうと思ってなれる関係ではないだろう。
きっと、そういった人間関係はその人と付き合っていく上でどういう関係が望ましいのか選択していくものだ。なろうと言ってなれたら苦労はしない。性格を変えようと思ってもなかなか変えることができないのと同じことだ。