Cosplay
「ところで、お二人は既に文芸部の一員として活動してるみたいですけど、新入生ですよね?」
裕也が会話が途切れたタイミングで気になっていた話題を持ち出した。
学年と名前を見た時から疑問だった。新入生募集のポスターは上級生が描くものだろう。何故新入生のはずの二人が募集ポスターを描いているのか。まさか留年したというわけでもあるまい。
「うん、あたしも黒花も高校一年生になったばかりだよ。ただ、去年の文化祭で先輩方に気に入られてね。入学したその日に呼び出されて、その場で描いてと頼まれたんだよ。そこまで評価してもらえるのはありがたいし、断るに断れなくてね……」
長い前髪をいじりながら、実鳴。
「去年の文化祭の時になにかしたんですか?」
裕也がさらに突っ込む。
去年の文化祭には自分たちも行っているのだ。なにか話題になるようなことがあったのなら知っているかもしれない。
「あー、いろいろあったんだが……」
「いろいろ?」
「そう、いろいろ」
「……?」
露骨に誤魔化そうとしている。
話したくないことなのだろうか。
「コスプレ大会で優勝、準優勝」
突如、隣で空気でも眺めていたんじゃないかと思うくらい無関心でいた黒花が口を開いた。
「は?」
「コスプレ大会で優勝、準優――」
「黒花っ!」
実鳴が大きな声を出し、慌てて黒花の口を塞ぐ。
「なにをするの?」
黒花は実鳴の手を無造作に振り払い、淡々と異を唱える。
「黒花はもうちょっと恥ずかしがる心を持って!」
「誇るべきことよ?」
「なにが!?」
「コスプレ大会で――むぐ」
「黙って!」
恥ずかしがってる実鳴には申し訳ないが、今の会話でなんとなく分かった。
そういえば、上草第一高校の文化祭では謎の大会があった。ミスコンならぬコスプレコンテスト。アニメや漫画のキャラ以外にも、歴史上の有名人物になっていた人も確かいたはずだ。廊下に大きく写真つきで張り出され、全校生徒だけでなく、部外者でも参加、投票できるシステムになっていた。
そのコンテストで、二人は見事、優勝、準優勝したということなのだろう。
「ちなみに、二人はなんのコスプレを?」
実鳴に聞いても答えてくれないだろうから、黒花に聞くと、即答された。
「わたしは巡○ルカで、実鳴は『けい○ん!』の田井○律」
「黒花……」
もう突っ込む気すら失せたのか、ずーんと実鳴が落ち込んでいる。
実鳴には少々申し訳ないが、二人とも似合う気がする。黒花に巡音○カはそのまんますぎる。実鳴の方はよく分からないが、髪を染めて、カチューシャを付けておでこを出せばそれっぽく見えるかもしれない。性格や声はともかく、外見だけで決めるコンテストだ。優勝、準優勝というのも分からなくもない。
とはいえ、実鳴にとってはやってしまった感があるのだろう。
激しく後悔しているのかもしれない。
しかし、黒花の方はそんなことお構いなし。落ち込む実鳴を見て一言。
「実鳴。あなた、良かったわよ」
「うるさーーーーーーーーい!」
「あ……」
止める間もなく、実鳴はそのまま部室を出て行ってしまった。
「どうすんだ?」
「さあ?」
視線を黒花に向けると、平然とした様子でとことこと歩き始める。
「ええと? どこへ?」
「教室」
「教室?」
「そう」
「……」
なにがなんだか分からず、二人で立ち尽くしていると、ドアを開けたところで黒花は振り返る。
「あなたたちも来て」
「はあ……」
どっちにしろ、これ以上ここに居ても事態は進展しそうにない。
従っておくべきだろう。
裕也と視線を合わせてから、二人は見慣れない桜色の髪の毛を追いかけた。