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一等星と四等星  作者: 彩坂初雪
文芸部
2/8

Erwartungen

 [前島(まえじま)駿平(しゅんぺい):三一八/三二○]

 それを見て、駿平は奇跡だと思った。

 県立上草第一高校に入学し、初めて行われた学力テストの結果である。


 つまり、下から三番目。


 中学の先生にこの高校を受験する時、「あなたの内申点でこの高校に受かった人はいませんよ」と言われた通り、どうやら受かったことは奇跡に近かったようだ。

 まさかここまで差があるとは思っていなかった。

「駿平、結果はどうだったよ?」

「見る?」

 結果が返されたのはついさっき。帰りのホームルームの時だ。

「ぶはっ!」

 駿平の順位を見たからか、彼は盛大に吹きだした。

 身体をくの字に折って笑っている。

「そこまで笑うか?」

 順位は悲惨だが、笑われる筋合いはない。不満に思って尋ねると、

「笑うだろ」

 即答された。

「じゃあ、お前は?」

「ん? ほら」

 学ランの胸ポケットから紙を取り出し、見せてくる。

平川(ひらかわ)裕也(ゆうや):一三八/三二○]

 そう書いてあった。

「……」

 かろうじて中の上と言えるくらいだろうか。それほど自慢できる順位ではない。

 が、

「それなりだろ?」

「……まあ」

 駿平の順位と比べると、天と地ほど差がある。笑われてもしょうがなかった。

 駿平はガタっと席を立つと、笑い続けてる裕也を置いて教室から出ようとする。

「待てって。どうせ行くところは一緒なんだから……ぶっ」

「……笑うなら置いてく」

 今日から部活開始だ。

 駿平と裕也は中学の時から二人で小説を書いている。将来、小説家になりたいとか、そんな大した目標があるわけではないが、二人で同じモノに取り組むことで互いに意見を言い合えるのは楽しく感じていた。

 だから、高校に入学したら文芸部に入ろうと決めていた。

 今日はその初日なのだ。

「先輩方はどんな人たちかな?」

 ようやく、笑いを止めて裕也が聞いてくる。

 半歩前を進みながら、駿平は「さあ」と一言。

「さあってことはないだろ。これから三年間お世話になる部活なんだぜ?」

「まあな。でも、個人的には同学年の方が俺は気になってる」

 裕也は「同学年?」と首をかしげているが、駿平は今も視界に入ってくるそのイラストが気になってしょうがなかった。

「これ」

「ん? 部員募集のポスター?」

「ペンネーム見てみん?」

「ええと、ミナリ?」

「ああ」

 特に変わったところはない。

 可愛い女の子が二人、青空の下で笑い合っている。ただそれだけの絵だ。アニメなどでよく見るようなイラストなのだが――

「あれ? ミナリなんていう人いたっけ?」

「いないよ。裕也、そのペンネームの裏、透けて見えるからよく見て」

「んん?」

 窓の張ってあるそのポスターは、なんとも、見ていて心地よいものだった。

 駿平の好みもあるのだろうが、それだけではない気がする。柔らかく、ふわふわしたタッチで描かれている。シチュエーションにピッタリな作風でプロのイラストレーターさんが描いたものかと思ってしまうほどだ。

「あっ!」

「分かった?」

「ああ。窓に張ってあるから、透けて見えるな。これ、一年生が描いたやつなのか」

 ペンネームの裏には一年二組、桜川実鳴という名前がある。

 同じ中学校の仲間に聞いて調べてもらったところ確かに二組にはその名前の人物がいるらしい。

「……すげえな」

 裕也が感嘆の息をこぼす。

 才能の差はあるだろうが、それでも一年、二年の差は大きい。先輩の誰かが描いたということなら納得できることでも同い年の人間が描いたとなると意味合いがまるで違う。

「ていうか、去年の部誌でもここまでのはなかったような気がするぞ?」

「だろ? それに、それだけじゃないんだよ」

「……?」

「もう一人、黒花っていうペンネームの子の作品があるんだよ。それも凄いよ。だから、俺は先輩方以上に同学年の子が気になってる」

 去年、駿平は学校見学も兼ねて裕也と二人で上草第一高校の文化祭に訪れていた。

 その時、文芸部の部誌を一冊ずつ買っていた。内容は自分たちの書いているものとは比較にならないほどレベルが高く、イラストに至っては本当に高校生が描いた作品かと聞きたくなるほどだった。

「俺はイラストなんて専門外だから分からんが、素人目にも半端ないぞ。そもそも、今日が初日のはずなのにどうしてもう部員募集の紙を張ってるんだよ……」

 裕也はイラストに目を釘付けにしたままそう呟く。

「その辺りの経緯は実際に会ってみないと分からないだろ。行こうぜ」

「ああ」

 部誌にあったイラストも、見た時にはすごいと思った。

 けれど、それ以上の新星がもういるらしい。



 無意識のうちに、歩くスピードが上がっていた……。


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