Es war einmal
昔、ある男がいた。
その男は問答無用で周囲を引き付けるカリスマ性があり、やることなすこと全てがずば抜けていた。スポーツも学業も全てが上の上。最高で最強の人間だった。
もちろん、これは比喩なわけだが。
しかし、私にとって、彼はそういう存在だった。
どれだけ努力しても、どれだけ頑張っても、決して手の届かない存在。
何度、絶望を味わわされただろうか……。
才能という無慈悲な壁の前に私は最後には屈することしかできなかった。
努力することしかできない私にとって、彼という才能の塊は邪魔でしかなかった。
それでも、学生時代、彼から離れたことは一度としてなかった。
いつか、努力が実ると信じていたからだ。
いつか、頑張りが報われる日が来ると信じていたからだ。
学生時代は、まだそんな幻想にすがっていた。
今ではもう、そんな夢を見てはいない。
彼とはたまに会っているが、張り合うことも、好きな分野で言い争うこともない。
道を違え、全く別の生活を送っている。
これは、真面目で努力家の少年、前島駿平と、万事テキトーだが才能で常に駿平の上をいっていたある男の物語。
努力という言葉は、夢を与えるだけのものに過ぎない……。