あとで
「じゃあ、先に行ってるわね」
妻が手を振って、白い部屋から出て行った。
私は目で頷いた。
もう昼過ぎだ。秋晴れの空が少し眩しかった。
窓を開ければ、清涼な空気が訪れるだろう。美しく色づいた落ち葉も、季節を運んでくるかもしれない。
それは、もう無理な相談だった。
私は目を閉じて、深呼吸した。
あと少しか。
再び、窓辺に目をやると、逆さまに落ちていく妻と目があった。
笑っていた。
笑い返した。
あとでな。
点滴から注入された薬液が、私を休ませた。
動かなかった身体が、動かなくなった。