キャンディ・ナイト
Pipipi.
“Hi, Leni.”
“Naomi. How are you doing?”
“I’m so-so. Are you free tonight?”
“Spot?”
“Yes.”
“What time?”
“Eighteen.”
“Do you have a change of clothes?”
“Garcon or dress.”
“Is that the blue dress ?”
“I have three blue dresses.”
“Okay. I will arrive 17:45.”
“You're a lifesaver.Leni.”
Pi.
現在時刻は14:30。
ナオミの勤める”Candy bar”までメトロを乗り継ぎ40分。
家を出るには早すぎるけれど、家にいても手持ち無沙汰。仕事があると思うと、のんびりできない質なのだ。
「ウィンドウ・ショッピングでもするかな」
レニはブーツの紐を結び直し、冷蔵庫のウォーターを1本取り出しポケットに入れる。今日は期間限定のラズベリー・フレーバー。壁際で微笑むモリーに手を振り部屋を出る。
シアンブルーのAライン
ウルトラマリンのマーメイド
ペールブルーのバルーンスカート
ドレスは全部素晴らしかった。サイズも多少の誤差はあるにせよ、それなりにフィットしていた。特に、バルーンスカートのドレスがレニは気に入ったのだが。
しかし今、レニはギャルソン姿でバーテンダーに従事している。
合う靴がなかった。ハイヒールも、バレエシューズもミュールもブーティも、大きすぎるか小さすぎた。ちょうどいいサイズは全て貸し出し中。
レニの手持ち靴はそもそも無骨なブーツ2足。ゴム底のやつと反重力装置がついた高いやつ。
残念無念、とブルードレスに想いを馳せつつ、コリンズグラスにウイスキーを注ぐ。ハイボールの注文が7割。100種類以上あるドリンク類で、アルコールはこれ1品。他のドリンクは、ボトルを開封して注ぐだけ。
4時間で5600ルカ。時給は安いが楽な仕事だ。あとはドレスが着られたら。
「レニ」
「ナオキ」
シルバートレイを腕に挟んだナオキが、カウンター越しに身を乗り出す。
「ごめん。この間。君の客とは知らなかった」
「眼鏡なんて売れるの?」
「コレクターがいる」
「なるほど」
「レニ、知ってる?」
ナオキは、肘をついてカウンターにもたれかかった。彼の勤務時間は既に9時間超過。それほど忙しくもないし、と、レニは彼のブレイクに付き合うことにした。
「何のこと?」
「イースト・イースト・ダウンサイドが繁華街になんだってさ」
「それは知らなかった」
ナオキは右目を細め、額に垂れた前髪を掻き上げる。癖の強い黒髪が、ミラーボールの極色を艶っぽく照り返す。
「バーチャンち、無くなっちゃうや」
レニは消費期限が2時間後のボトルを開けて、2つのガラス・グラスに注いだ。
「そうだね」
1つをナオキの手元へ。もう1つを持ち上げる。言葉もなくグラスの縁が音を立てた。
「時間だ。僕、行かなきゃ」
「どこへ?」
「月の石」
レニは目を丸くした。宝石店ムーンライト・ストーン。
「ジュエレッタ?」
ナオキはカーキのジャンパーを羽織りながら左目だけをぱちりと瞬く。
「中古品で50モニカ。EEDに客を取られちゃいけねえって、店長ローンで買ったんだと」
指貫グローブを装備しつつ、彼はシニカルに口元を歪める。
Product Name: Emerald Girl
Flavor: Sweet and Salty
Polishing form: Shapely
Emotion Content: 40%
Raw Ingredients: Platinum and Emerald
Voice tone: Not included
Category: Downcast eyes
Serving Suggestion:Room Temperature in the silent night
「ただいま。モリー」
アパートの扉をガチャリと開けて、レニは帰宅を宣言した。
「これ、今日買った靴」
厚さ0.2mmのショッパーから取り出し、机の上に踵を揃えてコトンと置く。
シャンパンゴールドの、ポインテッド・トゥ・パンプス。
ヒールの高さは5cm。
「派手かな?黒を買いに行ったんだけどね」
レニは右の方を持ち上げ、窓の光に翳す。踵部分の曲線がしなやかで美しい。
「1件目の店員さんが、ヘアと同色にするとどんな服でも合わせやすいですよ、って」
7cmヒールの方がスマートで素敵だったが、試着したら一歩も歩けず断念した。ナオミのピンヒール姿を思い出し、あの靴で8時間も働くのは、アスリート並みの身体能力だな、と畏敬の念を覚えた今日。
「でも、しばらく出番はなさそう」
そのナオミと、3件目を出たところでばったり会った。彼女は靴の修理に来たそうだ。立ち話もなんだから、とスタンド・カフェで40分ほど雑談。
キャンディ・バーにジュエレッタ"エメラルド・ガール"が実装されて1週間。店の雰囲気が目に見えて変わったという。
静まり返っている。BGMのボリュームは、以前の4分の1まで下げたらしい。
「エメラルドちゃんが目を伏せるのを、みんな、しーんと待ってるの。昨日から、お代わり券を販売しているわ」
ナオミはカプチーノをちびちび飲みつつ、ため息混じりにレニに微笑む。
「なんか、やることなくなっちゃった。時給が下がるわけでもないから、いいけどさ」
ウェーブの黒髪の毛先を、赤い爪がくるくると巻く。
「仕事ないのにいるだけってのは、どうもね」
レニはフラペチーノをストローですすりつつ、私がキャンディ・バーにスポットする日はもうないのだな、と理解した。
「あのドレス、着てみたかったなあ」
それでも靴を買った理由は、レニ自身もわからない。無駄な買い物はしない方。しかも予算オーバー。靴屋を6件ハシゴでやっと決めた、6200ルカの靴なのだ。
レニは、ブーツを脱いでパンプスに足を差し込む。
今、履かなきゃもったいない。
ジーンズ姿だが、ゴージャスなパンプスはそれなりにマッチしていた。
「うん、いいじゃん」
しかし、痛い。サイズは合っているけれど、ところどころ隙間があったり窮屈だったり。長距離歩行は不可能だ。馴染むまで、部屋で履いて過ごすかな。
“Refill, Mory.
For my pumps.”
Mory rises.
Copper fingers glimmered.
“You turn into glass shoes.
Bibbidi-Bobbidi-Boo.”
Leni lifted the hem of the transparent dress.
ナオミ
登場回 06_キャンディ・ナイト
年齢 21歳
誕生日 12月10日
身長 158cm
体重 46kg
足のサイズ 22.5cm
髪色 ブラック(赤メッシュ入り)
瞳 ワインレッド
好物 ナッツ
チョコレート
苦手 サカナ(フレークは可)
ナオキ
登場回 06_キャンディ・ナイト
年齢 17歳
誕生日 7月27日
身長 174cm
体重 65kg
足のサイズ 27cm
髪色 ブラック
瞳 ダークブラウン
好物 カレー
苦手 チョコレート・ボンボン




