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第一章 変わらぬ日常

魔法の紙飛行機の第一巻目「花と闇の神託者」は、シナリオを2014年から2022年までのおよそ9年間で考案し構成しました。

「二ノ瀬!」


ジャージ服を着た男教師は叫ぶや否や、廊下を大股で闊歩してきた。顔は真っ赤になり今にもはちきれそうだ。歩くその先には、一人の生徒が怯えた表情とともに突っ立っている。

「は、はい。先生、何でしょうか?」

男教師が目の前に立ち止まると、男の子は最後の一滴を絞るかのようなか細い声を出した。彼の名前は二ノ瀬拓。暗めの茶髪に、背丈は中くらいといったところ。鼻筋は綺麗に通っていて、まつ毛は少し長い。声は恐怖で少し上ずっている。

「何でしょうか、ではない!」

拓より背の高い男教師は唾を飛ばしながらできる限りの大声を出した。

「たった今そこのゴミ箱で、これが見つかった!」

男は拓の目の前に小さめの紙を勢いよく掲げた。見るも無残な程くしゃくしゃになっている。

「これが何かわかるか? 今しがた、お前に渡した『地毛証明書』だ!」

男は頭に血が上り少し顔が歪んでいる。拓は「こりゃなんと」という様な表情を頑張って作って見せたが、逆効果だったらしい。教師の声がさらに大きくなっていく。

「なめ腐っている! なめ腐っているな! 先週から毎日立て続けに忘れるわ、今度はもらった瞬間にゴミ箱に捨てるわ、一体どうなっているんだ!」

先程まで廊下には誰もいなかったのに、今や移動教室で廊下をごった返す大勢の生徒が拓の修羅場をじろじろと見ている。中には一大パフォーマンスだと、見物に来る子もいた。拓はその視線一つひとつを噛みしめるかのように気まずい表情をしている。男は変わらずガミガミと言い続けていた。

「こんなやつは聞いたことも見たこともない! 来週の月曜だ、月曜に必ず持ってこい! さもないと───」

拓はこれ以上状況を悪化させまいと、笑顔でごまかそうとした。しかし、

「笑うな!」

男教師に一喝され、その笑みは風船のようにしぼんでしまった。


「あのヒト、本当に嫌い!」

学校の帰り道で拓は投げ捨てるように言った。今度はイライラで拓の方が少し顔を赤くしている。その横で自転車を押しながら歩いている女の子が拓に言葉を放った。

「まあ半分自業自得よ。もらった瞬間に捨てるなんて、なかなか大した度胸してるわよね?」

呆れと尊敬が入り混じったような口調で言った。彼女の名前は藤崎理惠。目は若干吊り目気味の二重で、髪の毛はミディアムショートの黒色だ。背丈は女子にしては少しだけ高く、落ち着いた声をしている。

「馬鹿げてるよ。今の時代、地毛証明書なんて。なんでこんなもの書く必要があるんだろ?」

拓は憤然として言うと、今度は二人の少し前を歩いている女の子が振り返って口を開いた。澄み渡った青空を音にしたような明るい声色をしている。

「まあまあ、拓、落ち着きなよ。出せばもう中村先生は何も言ってこないよ」

彼女は成宮沙織。理惠より背が低く、少しくせ毛の髪をしている。目はぱっちりしていて鼻は高い。その笑顔から持ち前の前向きさが滲み出ている。

「次の月曜すぐに出せば、もしかしたらちょっとだけ、中村先生からの待遇が良くなるかもよ?」

沙織はフォローのつもりで言ったが、拓は変わらずむかっ腹を立てていた。

「なんで僕だけなんだろ。あいつ本当に僕のこと嫌ってるよね。」

「確かに。あの人いつも、拓にだけいちゃもんつけてるイメージね。何かしたんじゃないの?」

理惠はいたずらっぽく笑って言った。しかし拓はなおイライラした口調だ。

「知らないよ。何もしてない―――というか関わらないようにしてるし。僕以外にもっと言うべき人いるのになあ。だって見てみてよ。啓なんて、ほら!」

拓は沙織のすぐ隣を歩いている男の子の頭を指さした。名指しされたその男の子は、一瞬びくっとなりすぐに振り返った。困惑した表情を浮かべている。

「俺のどこか変かな?」

彼の名前は、中谷啓。キリっとした目をしていて、綺麗なフェイスラインを持っている。背丈は拓と同じくらいだが少しだけ啓の方が高い。低く落ち着いた声をしているが、よく通りやすい。

「俺、身だしなみについては特に何も言われたことないけど」

まだ戸惑っている啓を差し置いて、拓は子供が駄々をこねるように言い張り続けた。

「髪の色だよ! ちゃんと見てみて。いや、ここじゃだめだ…ちょっとこっちに来て―――」

啓は拓に引っ張られて歩道の端の方に来た。拓の駄々ごねによって、一行は渋々立ち止まる。夕方の眩しい日の光が降り注ぎ思わず啓は目を瞑った。

「ほら見て! 明るいところだとちょっとわかりやすいよ」

拓に言われて、沙織と理恵はしっかりと啓の髪を見た。まるで顕微鏡で微生物を見るような目つきだ。すると、沙織が口を開いた。

「あー、確かに…」

続いて理惠も言葉を続ける。

「言われてみれば」

「ほんの少しだけ青色? 藍色?」

「に、見えなくもないわけでもない」

二人の言葉を聞いて拓は、どうだと言わんばかりの勝ち誇った表情をした。何も勝ってはいないのに。

啓は自分の髪の毛をまじまじと見られたので、少し顔を赤らめた。確かに純粋な黒色ではないとは感じていたが、あまり自分の髪色に興味を持ったことはなかった。啓にとってはその程度のことだ。

「でも、他にもっと触れるべきなのは―――」

沙織がだしぬけに理惠の方へ振り返って言った。理惠が少し驚いた表情をした。

「理惠の目でしょ! ほら!」

沙織の言葉に理惠はまたか、と少し笑った。沙織の眼が憧れの眼差しでキラキラ輝いている。

「緑色なんてすごいよね。ほんとに綺麗!」

拓と啓も続けて理惠の瞳を見つめた。澄んだ雫のような目をしている。その緑色の瞳が白い肌と調和し、とても映えていた。クラスのみんなは口を揃えて言っていたし、啓も認めていた。理惠は美人だ。

「ハーフとかじゃないんだもんね? 絶対先祖に外国人がいるんだよ。じゃないとありえない!」

「分からないわ。母方の方でどこかの血が入っていたかもしれない…」

「絶対そうだよ! 本当に羨ましい!」

沙織は変わらず理惠の目を褒めちぎっていた。理惠は照れて頬が赤らめはじめたので、それを隠すために再び先導を切って歩き出した。

「さあ、そろそろ歩きだすわよ、お腹すいちゃった。今日は金曜日よね? ということは『コンビニの日』よ!」


啓、拓、沙織、理惠の四人は学校生活を共にしている。四人とも徒歩で帰り道の方向が一緒であったため、一緒に帰ることが日課になっていた。

高校生という時代は一生の中で一番おなかが空く時期といっても過言ではない。特に5,6(時に7)時間目を終え、やっとの思いで帰るこの時間帯は、空腹のフィーバータイムである。啓にとってはお弁当を食べたお昼時がとうの昔のように感じた。なにかこの胃袋を落ち着かせるものがあれば…

偶然といっては何だが、4人の帰り道にはコンビニエンスストアがあった。4人にとってはそれが神からの授かりもの、仏からの贈り物であった。入学当初は欲望のままに、お菓子だのパンだのを毎日買い食いしていた。しかしある時理惠がこのままでは健康に良くない、お金ももっと節制するべきだと主張して、毎日の買い食いを週一にすることを提案した。罪の意識を薄々感じていたので、他の三人は特に異論もなかった。よく話し合った結果、一週間の褒美として金曜日を買い食いしてもよい「コンビニの日」とすることにした。

その日もいつものように一行は店へ入っていき、本日の獲物を探していた。

「あーお腹すいた! 今日は何にしようかな?」

啓と一緒に陳列を見回していた拓が元気よく言うと、沙織が横から顔を覗かせた。左手には何か持っている。

「拓、今日はこれにしなよ」

沙織がニヤニヤしながら激辛のインスタント焼きそばを差し出した。パッケージには仰々しいほどの炎と涙を流すキャラクターが描かれている。明らかに危険信号だ。

「沙織と半分で分けるならこれにするよ」

拓の言葉を聞き、沙織は何事もなかったかのように焼きそばを棚に戻した。

結局4人は十分ほどかけて今日の食べ物を決めた。啓はお気に入りのから揚げのホットスナックにし、沙織は大きな肉まんを買った。拓はポケットサイズのお菓子を数個買って、理惠は太ってもないのにダイエットをしているため、糖質が控えめなプロテインバーを買った。沙織がそれじゃ絶対に足りないと理惠に店を出る時チクチク言っていた。

店を出るとすぐ、秋の木漏れ日が四人に降り注いだ。今日は秋晴れの日で吹く風が少し冷たくとも心地が良い。横断歩道を渡り店と反対側の歩道に出ると、すぐ横の公園にある生垣の葉一枚一枚が日光を浴びてキラキラと光っていた。今日は素敵な日だと啓は歩きながら思った。こうして四人で学校終わりに他愛もない話をしながら帰ることが啓にとっての密かな楽しみであった。一行は生垣に沿って歩いていき入り口から公園の中へと入っていった。


「―――それでね、安藤先生が今度の化学はもっと難しくするって言ってたんだけど」

皆が教科書の詰まったリュックをどさりと地面に置く頃、拓が何やら授業の話をするの聞こえてきた。理惠が敷地の端の方に自転車を停めている中、同時に小さな子どもたちが走り回って遊ぶ声がパノラマとなって公園のあちこちから聞こえる。ここは大きな三角形の形をした砂地の公園で、周りにはありきたりでありながらも、少し癖のある遊具が設置されている―――錆び切って焦げた様な色になった滑り台、乾燥し切って砂地と遜色ない程に硬くなった砂場、誰もが名前も用途も知らないのに体の半分を地面に埋められるという悲しき運命に苛まれたいくつかのタイヤ達―――つまり、何処にでもある様な至って普通の公園だ。

「えー! 化学、あれ以上難しくしようがないじゃん。絶対赤点だ…赤点不可避だよ」

拓の情報に沙織は手に持った肉まんに絶望の顔を突き合わせて不安を吐露した。どうも今度の期末テストに関する話だ。啓はから揚げを摘まみながら軽やかに言う。

「大丈夫だって、前回もそこまでひどくはなかったでしょ。今回も頑張ればいけるよ」

啓の即座に言った励ましの言葉だったが、沙織をぎくりとさせた。どうやら前回のままでは化学はまずいらしい。ごまかし笑いをしている。するとプロテインバーをちびちびと食べている理惠が化学のテストの話を続けた。

「中間ってどこまでが範囲なのかわかる? 相当前にやったけど周期表とか元素とかってのは出るのかしら?」

理惠の言葉に拓と沙織はうえーと唸り声をあげた。

「元素の名前なんてとっくの昔に忘れちゃったよ。中学の時も覚えられなかったな」

拓が愚痴を漏らすとすかさず、理惠がメスを入れた。

「元素なんて化学の土台のようなものよ。化学をやってたら忘れようがなくない? それにあんなもの語呂で覚えればいいのよ」理惠の指摘に拓がむすっとした。

「その語呂合わせが問題なんだよ! なんというか―――あの意味不明さが鼻につくんだよね」

そして片頭痛を起こした様に頭を抱えて言う。「七曲りシップスって、ほんとになんなの?」

すると沙織が話に割り込んだ。

「そんなことよりさ! 元素といえばなんだけど、最近の『アレ』みんな知ってる?」

お得意のキラキラの表情とともに沙織は明るく言った。最近のアレ、といえば啓はすぐにピンときた。昨今多くのメディアで非常に話題になっているものだ。

「新しい元素とかなんとかのことでしょ? 最近開発したってニュースで聞いたけど」

理惠はもう食べ終わってしまったプロテインバーの袋を片手に腕を組みながら話した。「あどくにうむ? だったかしら。どこかの研究所が発電に使うために作ったらしいわ」

「え、なにそれ。全然知らないんだけど」

ニュースなど全く見ないであろう拓が己の無知さに眉間へ皺を寄せると、横から沙織が意気揚々と解説を始めた。

「先週にね、その研究所が会見をしてたの。新しく作りましたって。それが本当に革新的なの!

その元素によって今の火力発電の排気ガス問題が解消されるかもしれないって。つまり―――アドクニウムは燃やしても二酸化炭素を出さない燃料なんだってさ!」

まるで自身の功績であるかのように人差し指をピンと立てて、得意げに言った。しかし横から何の濁りも無い無垢な笑い声が沙織の威勢を一蹴した。

「え、二酸化炭素を出さないって―――そんな虫の良い燃料ができるわけなくない? 冗談じゃ―――」

拓は気の利いたジョークでも聞いた様に軽笑した。しかし口角が一ミリも上がっていない沙織の真面目な表情を見て、拓の口角もストンと下がった。

「え、ガチ?」 

しかし拓の歪んだ眉は懐疑の念を示している。

「でもさ、いや、さすがにあり得無くない―――? というか、さっき元素って言ったよね。そもそも元素って開発するものなの? 発見するものだと思ってたんだけど」

拓らしからぬごもっともな意見を聞いて、啓は少し驚いた。さらに啓も同じような疑問を持っていたのでさらに驚いた。確かに人の手によって作られた天然ではない元素は存在するが、それらは既存の元素を「合成」して作られているものだ。そこに「開発」という言葉を使っているのに啓はどうしても違和感を覚えていた。

「それにね、あの会見、物質自体の説明がほとんどなかったのよ。どうやって開発、というか発見されたのか、とかも全然わからなかったわ」

理惠が顔を疑い深そうに話した。理惠も啓と同じく多少納得できずにいるようだ。

「え、情報が少ないってこと? それってやばくない? 大丈夫なのかな?」

拓が不安そうに聞くと沙織が答えた。

「けど運用が始まるってことは政府かどっかがオッケーって言ったんでしょ? なら大丈夫だよ! 絶対!」

毛ほどの説得力のない沙織の発言だったが、お決まりの全力スマイルによって啓は何となく大丈夫であるような気がした。沙織の笑顔には謎の力がある。

それから4人は再び期末試験の話に戻り、他の科目のテストでは一体どんな問題が出るのかについて話し合った。それに、拓が今度は赤点を何科目取るのかについても予想しあった。理惠の予想だと今回も数学と世界史は間違いなく落とすだろうと予言した。これには拓も憤慨していた。

「世界史はまだ赤点取ったことないのに!」


それから三十分ほど駄弁っていると夕日は落ちて影も伸びきってしまい、すっかりと肌寒くなっていた。啓たちはそろそろ帰ろうと地面に置いていた学校用リュックサックを拾い上げていた。すると突然拓が大きな声であっと叫んだ。

「そういえば、言い忘れてたことあった! 一大ニュースなのに。直後に怒られたせいですっかり忘れてた」

突然の大声に動揺している三人を気にもせず、拓は話し続けた。

「多分信じられないだろけど。つい中村先生に叱られる前のことなんだけど、校庭の方を見ながら廊下を歩いてたら、空にあるものを見つけたんだ。何があったと思う?」

拓はもったいぶってみんなに聞いた。あまりに突然の質問で3人は少したじろいだ。啓は正直拓の質問の答えを聞きたい気持ちより、もう帰りたい気持ちの方が勝っていた。多分沙織と理恵もそうだろう。

理惠が少し面倒くさそうに「えー、大量の地毛証明書とかじゃないの?」というと、拓は口をチッチッチと鳴らして、指を振る仕草をした。

「違うんだよ、これが。実はね、絶対誰にも言わないでね…」

拓が神妙な顔つきとともにゆっくりと言った。

「『UFO』を見たんだ」

四人に一瞬沈黙が流れた。拓は盛大なリアクションを期待していたようだが、哀れにも理惠がお手本のように鼻で笑っただけだった。沙織は拓を傷つけないように笑うのを必死にこらえていたが、それによって人中の臭いをかいでいるような顔になっていた。啓はというと、笑いよりも心配の念の方が沸いていた。

小学生でもこのようなレベルの低い冗談はいわないだろう。しかしこの拓が嘘をつくとも到底思えない。かといって拓の口からでる言葉の信ぴょう性はいつもシングルトイレットペイパーの厚さよりも薄い。ということは、拓は何か幻覚を見ているのではないか? 然るべきところに診てもらうべきだろう。

啓がそう思考を巡らせていると、拓は眉をハの字にして叫んだ。

「あー、やっぱり信じてないでんしょ! でも本当だからね。この目でしっかりと見たんだ、白くて小さなものがふわふわ浮いてるのを…」

「どうせ飛行機とかそんなものでしょ」

理惠が呆れたように笑いながらそう言うとすぐに拓は異議を唱えた。

「飛行機なんかじゃない! だって飛行機にしては静かすぎたんだ。飛行機雲も作ってなかったし。」

「ならなにか塵とか屑よ。風に揺られて飛んでいたんでしょうよ」

「でもそんなに小さいものならきっと目にも入らないよ。遠くの方にしっかりと見たんだ。」

二人の論争に沙織が割って入った。

「でも本当にUFOだったら―――すごく面白いよね?」

沙織は拓の話に少し乗ることにしたようだ。沙織自身もこういう話のネタは好きな方らしい。しかし理惠はさらに呆れて笑いながら額に手を当てた。

「拓、その『UFOと思われるもの』は一体どんな形をしていたの?」

沙織はニヤッとしながら聞いたが、反対に拓は物思いにふけているようなうつろな表情になった。そして目の前にいる三人の向こう側を見つめながら言った。

「僕…細長い三角形を見たように思う。三角形の飛行物体。普通UFOといえば円盤型を想像すると思うけど…」

「えっ、三角形なの?」

沙織は質問の答えを聞いて眉間に皺を寄せ、「なにいってんだこいつは」という顔を啓と理恵にゆっくりと向けた。理惠は鼻をフンと鳴らし、腕を組みながら言った。

「やっぱり飛行機じゃない! 拓、そろそろ眼科に行った方がいいわよ」

「だから飛行機じゃないってば! ほんとだよ!」

その後も拓は三人を納得させようと足掻いていたが、どうも三人はただただ呆れるばかりであった。ついに拓はこれでは埒があかないと思ったのか、次に大きく宣言をした。

「今度見つけたら絶対写真を撮ってくるよ。しっかりと映っているものを。それならみんなも信じてくれるよね?」

これを聞いて三人は頷いた。啓と理恵はほぼ半自動的に首を縦に動かしただけだったが、沙織の頷きには少しの期待が込められていた。

拓が諦めたことでようやく帰ろうとなると、啓たちはリュックをしっかりと背負い歩き出した。

子どもたちはすっかりと少なくなり公園には静けさが漂っていた。燃えるような夕日はほとんど向こう側に沈みかけており、空にはぽつぽつとある雲の中から満月に近い月が顔を出していた。理惠だけは公園を挟んで逆の方向に帰る為その場でさよならを言い、そのまま残りの三人は喋りながら公園を出て再び生垣を横に歩道を歩きだした。すると啓は冷たい風が頬を掠めるのを感じた。秋の夜の風は心の隙間に入り込み、寂しさや虚しさを残すように感じる。しかしこうして心の通う友と話しながら歩いていると、ここの空間だけなぜかはバリアが張られて啓の心を守ってくれているような、そんな気がした。今日も変わらぬ一日が終わった。啓は達成感と多幸感に包まれながら帰路を進んだ。

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