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おじさんの秘密

探偵であることを悠馬にだけ話し、時臣も少し楽になったようだ。

 うちの風呂は檜風呂だ。

 今風な「バスルーム」に憧れないこともないけど、タイル張りの昔風な浴室は俺は好きだ。

 檜風呂も比較的大きくて、俺は170cmだけど足は余裕で伸ばせるし、そして何より深い。これはいいね。

 湯船に浸かって、ぼんやりと明日の時間割を頭でなぞっていたら、脱衣所に入る引き戸がガラガラと開いた音がした。

「え、誰ー。俺入ってるよー」

「俺おれ、一緒に入っちゃおうかと思ってさ」

 おじさんだった。え?おじさんと一緒に?いや、別にいいけど、なんかちょっとドキドキする。あの筋肉直に??

「あ、え?一緒に?」

「だめか?なんか寝ちまう前に入っちまいたいと思ったんだけど」

「いや、いいよ。どうぞ」

 どうぞってなんだよ俺。

「よかった。もう全部脱いでたから」

 笑いながら入ってきたおじさんは、ダーク色の服で包まれていたより1.5割増しでデカく見えた。

「でっか!」

「あん?どこがだ~~?」

 ニヤニヤ笑っておじさんはシャワーを出しながら、洗い場の鏡の前のお風呂椅子に腰掛ける。

「どこがって筋肉だよ。他になにが…」

「ナニが…かとおもって」

 シャワーの水はおじさんの首筋や胸にかかって、跳ね上がる。この人もう33くらいだよな。水弾くなーーすげえ。

「見てねえよ!」

「見る?」

「見ねえし!」

 ギャハハと笑っておじさんは、髪を濡らしてシャンプーを始めた。

「シャンプー先派?」

「いや、お前入ってるからさ。先に洗っちまおうかなって」

 気遣いの人?

 俺はおじさんが目を瞑って髪を洗っているのをいいことに、筋肉やおじさんの身体をじっと眺めてみた。

 筋肉はほんと綺麗についてるし、何かの格闘技でもやっているかのような感じだ。お腹も出てないし、つまもうとしたってつまむものなんかない。

 俺、皮ばっか…。やめよう自分が悲しくなるだけだ…と見るのをやめようとした時、シャワーをフックから取ろうとして手を上げたおじさんのお腹に、15cmほどの傷があった。

 あれって…刃物の傷?

「ねえおじさん」

「んー?」

「そのお腹の傷どしたん?切り傷みたいだけど」

 俺は割と考え無しな方だ。刃物かもと思ったら、1呼吸も2(ふた)呼吸も入れてから言葉を選べばいいのに、ド直球で言ってしまった。言ってからアッと思うんだけど、いつも遅い…。

「あ、見えちゃったか?」

 おじさんの空気がちょっとだけ変わった気がした。

「これなー、刺されたんだよー」

 シャワーを持つ手と反対の手で傷をなぞって、そう言いながら俺をみたおじさんの顔は、今まで見てきたおじさんのどれとも違ってた。笑ってはいるんだけどね。

「え…刺された?」

「そー、刃渡20センチの…まあいわゆる「短刀(ドス)」ってやつ?」 

 シャンプーを流して、オールバックにしたおじさんは、そう言う髪型だと少し上の年齢にも見えて、しかも空気が違ってるからちょっと怖い。

「それって…」

 俺が問おうとするのを目を伏せることで遮って、シャワーを全身にかけて身体中の泡を落とすと、ちょいちょいと言いながら俺をよけさせておじさんは湯船に入ってきた。

 湯船に余裕はあるけど、筋肉いっぱいのおじさんが入ったから、お湯が溢れたよ。

 入るときちょっと見えちゃったおじさんのナニは、それはそれでご立派なものでもあった。見えちゃったんだよ!

「やっぱ酔ってたのかな。まずかったなー」

 俺の対面の湯船の淵に寄りかかって、俺を挟むように足を投げ出してきたおじさんは、今までの快活な目とは違いちょっと影のある目つきで俺を見てきた。

「もう悠馬には言っちゃおうかな」

 ため息混じりに何か隠してる事を暗に仄めかすじゃん…。

「…なにを?俺聞かなくていいことは聞かない主義だけど…。それにおじさん怖いよ?」

「怖くないよーいつもの優しいおじさんだよー」

 雰囲気を消して、さっきまでのおじさんに戻ってくれたけど、さっきの顔とか、刺されたとか聞いちゃうと、もうその顔の方が嘘くさい。

「俺ね、警備会社なんかに勤めてないんだよ」

 あーあー!俺聞くって言ってないのに勝手に話し始めるなよー

「聞かない聞かない、やめて」

「いや、傷見られちゃったら言わなきゃな。あれが刺し傷ってバレちゃったら悠馬も聞かなきゃダメな立場」

 なんでだよ!刺されたってペラッたのそっちじゃんか

「俺探偵やってんだよね」

「へ?」

 探偵?

「ディテクティブ…?」

「さすが現役受験生」

 前髪を濡れた手でかきあげて、急にアウトローな目しないでほしいわっ!

「まあ、今時探偵なんて浮気調査とか、身辺調査が主なわけだけどさ、この傷はその浮気調査で奥さんの浮気相手がこれもんでさ」

 指でほっぺた斜めに擦るのなんだっけ…傷?ああ…ソッチの方…。

「そんでいきなり短刀(ドス)でどすっとね」

「うわ…現役の親父ギャグ…」

「おお、良い返しだね、やられたわ」

 やられた風じゃ絶対ないじゃん!しかしさっきから醸されてるこの退廃的な空気はなんなんだ…おじさん俺の前ではもう装おう気はないんか。

「で…あー、中2って何歳?」

「んー14くらいかな」

「じゃあお前が14あたりからいま18か?約4年か…こう思うと結構かかったんだな」

「なにが?」

 指おり曲げてるおじさんは、ちょっと感慨深そう

「この傷ちょっとやばかったんだよな」

「え、やばかったって…」

「うん、重傷だったんだよ。半年入院してたわ。お前が15頃か」

 なんて事ない刺し傷なら1ヶ月もすれば退院なはずらしいんだけどな…てまた遠い目する~

「だから、4年も来られなかったわけよ」

 掻い摘むね…

まあおじさんが言うには、最初の手術から数週間で内臓が癒着しそうになって再手術。そこから寝たきり2ヶ月で、退院まではリハビリ。リハビリで足骨折して…って踏んだりけったりの4年間だったんだね…。予後もあまり良くなかったようで、最近になってやっと本調子になったんだってさ。その割に筋肉は絶好調っぽいけど。

「ここに顔出さないのも怪しまれると思ってさー、なんとか連絡を細々と入れながら今日って訳よ」

 本当に大変だったんだな…って思わせる顔はしてる。

 まあ…刺し傷はさ…探偵でもなんでも良いけど、あまり危ないことしてほしくはないよ甥としては。

「内緒にしててな、特に親父…お前の爺ちゃんにはさ。長生きして欲しいし」

 確かに、刺されたとか聞いたら爺ちゃん卒倒しそうだもんな。

「あー暑ぃな茹るわ。身体洗お」

 そういや俺もだいぶ暑い…

「じゃあ俺でるよ。もう全部終わってるし」

「そっか。じゃあまた後でな」

 いやもう寝るから。最初は話したかったけど、ディープな話聞きすぎたわ~。

「話聞いて欲しいんだよ~」

 先に立って湯船出ちまお…と思ったときにさあ!

「ちょっ!」

 俺は逃げるように湯船から飛び出し、おじさんを睨んでやった。

「何すんだよ!し…尻に頬擦りすんなっ!」

 精一杯怒ったんだけど、おじさんはシレッと

「あれ?お前『まだ』童貞?」

 なんて事を言ってくる!ムッキーーーッ!

「ち が い ま す !」

『一回だけだけど』は心で…。おじさんはめっちゃ楽しそうな顔でーそりゃすまなかったーと言いながら笑い、俺はプンスカしながら浴室を出た。なんなんだよなんなんだよ!おじさん二重人格か!


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