串焼きを頬張りながら出来ること
仕事をもらってから数日。
トウニは無職になっていた。
雑な仕事ぶりに加え立ち寄った客と長話しの末、雇い主に散々怒られ少しばかりの駄賃をもらいトウニは住処を後にした。
今はゴミ捨て場を漁る毎日。
彼は浮浪者としての道を歩み始めていた。
「はー、はらへったー。まさか数日でクビになるなんてなぁ。さてさて今日はどんなものがあるかな。へへ、なんかトレジャーハントみたいだな。あら?」
ゴミの中に何か光るものを見つけたトウニ。
取り出してみるとそれはかなり汚れてはいるものの丹念に彫り込まれた装飾が目を引く短剣だった。
「これは、なんか凄そうだな。これがあれば。よーし、いっちょやるか」
並々ならぬ存在感を放つ短刀を手に、彼は浮浪者の道を脱却すべく歩みだした。
「はー、腹いっぱい。今日もごちそうさん」
「あいよ」
短剣を高値で売り払ったトウニ。
当分生活に困らない程度の金額を手にし特に働かなくてよくなった彼は、本来の目的も忘れ自堕落な生活を楽しいんでいた。
街の喧騒にも慣れ、お気に入りの串焼きを手にのんびり歩いていると見知らぬ女性とぶつかりそうになった。
「ああ、ごめんなさいよ」
「随分上手くいっているようだな」
「えっと、どこかでお会いしましたっけ?」
「お前のことを知っている存在など大体察しが付くだろう?」
目の前にいる女性が魔王の手の者であることに気づいたトウニは咄嗟に打算を始めた。
ここで魔王の手下がいることを言えば皆きっと戦い出すだろうことは住み慣れた者なら誰でもわかる。
素早く周囲に目を走らせたトウニはニヤリと笑いながら脅しをかけようとした。
「口を開くな。その顔、どうせ周りを焚きつけようってところだろ?バカだな。その前にお前の首を落とすだけだ。ぶつかってきたといえば誰も気にはしない」
トウニは何も言わずただただ頷き続けた。
「ふん。誤魔化そうと口を開かなかったのは懸命だ。その程度には頭が回るようだな。外に行くぞ」
検問を通り町外れに着くと魔王の連絡員は振り向き言った。
「報告しろ」
「え、えっと、何から話したもんですかねぇ」
「何か軍部に動きはあったか?」
「いや、特に何も。ああ、そういえばチャティさん大丈夫でした?」
「四天王か。お前を送った後に丸焼けになったらしいな」
「自分何もしてないっすよ」
「お前にそんなこと出来ると誰も思っていなし目撃者もいた。状況は大体把握している。他には?」
「あー、この串焼き」
「ああ」
「めっちゃ美味しいっすよ」
「で?」
「一本どうすか?」
「いらん。なんだ?それは何かの暗号のつもりか?周囲に誰もいないから気にするな」
「ですね、えーと」
トウニはどうにかして誤魔化せないかと苦心していた。
情報などなにもない。
それを知られたら命がないかもしれない。
彼は必死に考え抜いた。
「以前、兵士達の宿舎に身を寄せてたことがあったんす」
「ほう。上出来だな」
「人間にとって、魔王軍はこの街の産業を維持させるために生かしてあるそうですよ」
「やはりか。優勢の割に攻めてこないことを我が軍でも懸念していた」
「とりあえずそんなとこっす」
「お前、この戦況を覆すためにはどんな方法があると思う」
「え、そんな難しいことさすがに答えられないっすよ」
「言え」
「あー、そうすね。そうだなぁー。うーん、魔王軍がいると戦争続けられるけど、いなくなっちゃうと人間同士で争うことになるらしいからー、ああそうだ。魔王軍みんなで雲隠れしちゃえば良いんじゃないすか?」
「雲隠れ?」
「そす。人間の前から姿を消すんですよ。そうして彼らが争う矛先を人間に向けるように仕向けるんっす」
「情報戦か。有効かもしれんな。でかした」
「いえいえー。お役に立ててうれしいですー、ははは」
連絡員は考え込んでいた。
トウニはまさか適当に言ったことが功をなすとは思いもよらず、窮地を抜けられたことを内心喜んだ。
顔に出ないように気をつけつつ待っていたが、沈黙に耐えられず話しかけてしまった。
「そういえば他の四天王さんは元気っすか?四天王じゃなくなったけど」
「クゥエ殿は人間に畏怖されている。かなり戦果をあげていらっしゃる。お前と違ってな」
「見習いますー」
「お前、何が出来るんだ?」
「何が出来たら良いんでしょうねぇ」
「役に立たん奴め」
「あと、あの犬は?」
「パトラ殿か。あの方は凄いぞ。神出鬼没な魔犬としてすでに指名手配されている。お前と違ってな」
「スパイ中の自分が手配されたらそれこそ役に立ってないじゃないすか」
「そうなればさっさと首を落とすまで。こんなとこか。じゃあな」
そういいながら突然街とは逆側方向へ歩きだした彼女の背を見つつ帰路についたトウニであった。
自分に何が出来るのか。
この世界で何が出来たらいいのか。
目標もないまま気ままに生きていたかったのだが、この街にいる限りそれはできそうにない。
今後の方針を決める時が近いことを頭の隅に置きつつ、トウニは串焼きの残りを食べながら街へと帰っていった。