フェアリー
小さい頃から殺し屋だった
私には才能があったらしくそう育てられた。
どこかの組織が私を使っていたらしいがその組織の名前は知らない。
いつも仲介人が依頼をもってきてそれをこなすだけ。
大半の仕事は簡単だ。
気づかれる前に始末するだけ。
すぐ終わる。
だけどある時気づかれてしまった。
相手も相当な手練だったのだ。
そいつの背後に忍び寄る。
そのまま近づいて急所を一撃。
それで済むはずだったのにそいつは気付いてて、振り向きざまに私が頭を狙われる。
剣だ。
なんてこと、ああ眉間から真っ二つだ、なんて思える余裕があったか記憶にないけど、その時全身が熱く張り詰めた感覚が私を覆ったのは覚えている。
せっかく身構えたのにどうしてかその刃は私に届くこともなく停止していた。
剣に力を込めているのにそれ以上進まないらしい。
驚いて相手の目を見ると、相手は私より驚いていた。
戸惑いながらも隙だらけの身体にナイフを通すとそいつは最後の言葉を残していった。
ちくしょう、なんでこんな、ちくしょう。話が、違う。
と、さも悔しそうだった。
残念でした。
しばらく後に知ったことだが、どうやら私は組織から疎まれていたそうで、そいつは私を始末しにきたのだとか。
頑張りすぎたのだ、と聞かされた。
よくわからない。
その組織はもうない。
なぜなら勇者達が壊滅させたからだ。
私1人を残して。
それが自分の能力が初めて発現した時のこと。
無事に帰ったら随分驚いた様子の教官にそいつぁ上等な力だと言われた。
本当にそうだろうか?
小さな範囲を3個所くらい止めるだけの能力だった。
広範囲を焼いたり、凍らせたり、水没させたり。
比べたらどちらが上等なのか言うまでもない。
その力を使いながら依頼をこなす日々が続く。
そして彼女と出会った。
組織からえらく恨まれている少女がいた。
次の標的なのだそうだ。
近づいていつも通り。
そのつもりだったのだが2度失敗する。
幸い追撃はなかった。
流石に3度も近づくと不自然だからどうしようかと様子を見ていたら少女の方から近づいてきた。
私達は仲良くなった。
仲良くなるのは悪いことではない。
相手を油断させるにはいい方法だ。
隙のない相手には有効策としてたまに使っている。
だけど、この子とは本当に仲良くなった。
友達と呼べるほどに。
教官にそのことを見抜かれた。
冷たい視線。
これはとうとう切り捨てられるかもしれないと覚悟した。
まぁ、実際は今更の事でその覚悟は遅すぎたのだが。
教官には隙がないのだと言い訳をした。
言い訳というか本当のことだ。
彼女の隙をみては襲おうとしたのだが出来なかったのだ。
すぐ気づかれる。
えへへ、残念でしたー、と楽し気に。
尋常ではない実力者。
歳は私よりいくらか離れているように見える。
凄まじい。
天才というものを目の当たりにした。
教官にあの子は何なのかと聞いても教えてくれはしなかった。
どちらにせよ任務を遂行出来ないなら失敗だ。
それがただ標的を逃しただけならまだしも仲良しになってしまったのはよろしくない。
さすがにわかる。
今度こそ先はない。
だが私は始末されなかった。
なんと私より先に組織が壊滅したのだ。
しかし組織との繋がりは遠くイマイチ実感はない。
それを聞かれた時も、ふーんそうなんだ、と返した覚えがある。
誰から聞いたのかというと、その時私の前に佇む少女とその師匠だという老人が教えてくれた。
お前は囮だと。
少女はごめんねとだけ口にした。
組織ははめられたのだ。
標的となった少女はエサ。
エサに食いついた者たちの動きを追っていたのだ。
つまり私を中心に動向を探っていたとのこと。
道理で襲っても返り討ちにしなかったわけかと納得した。
友達など、私には過ぎたものだと知った。
組織の中枢には中々辿り着けず困っていたところに私が来た。
とはいえ、それなりに大きな組織だったからそれでも大変だったけど、なんかある程度当たりをつけて張ってたから上手くいったの、と少女は説明していたっけ。
そんなものかと思った。
そして種明かしをするこの2人は何を思っているのだろう。
あの話の最後に老人は君が最後だと私に言った。
かつて何人もの死を見てきた。
足掻くもの。
後悔するもの。
潔く受け入れるもの。
笑うもの。
私は、無様な終わりは嫌だった。
だから身だしなみを整え、落ち着き、心を穏やかにして老人の前に立った。
最後に言い残すことはあるかと聞かれる。
悠長なものだと思いながら私は言葉を返した。
もっとキラキラした人生が良かった。
来世に期待しろ。
男が剣を肩の高さに構える。
剣を見て気がついた。
男の顔は知らないがこの剣は知っている。
私だけではない。
誰もが知っている。
名刀《水の衣擦れ》だ。
民衆に語り継がれる勇者の剣。
眼の前にいたのは勇者だった。
重心の移動、呼吸、向けられる視線。
それらを連ねたリズムが斬り込んでくる気配を感じさせる。
横薙ぎ。
私の首は一息に飛ぶ。
そう思えたのだが、剣は私にあまり近づいていない。
私は力を使っていない。
少女が止めたようだ。
わたしと勇者は目で語る。
どういうこと?
少女の目は涙が滲んでいた。
騙してごめん。
でも師匠、この子は私の友達なの。
だからやめて、お願い。
悪いことしたからって死ななきゃいけない理由にはならないでしょ。
この世界にはもっと悪いやつだっているし、私達だって、殺し合いをしてる。
いつも依頼を受けてるだけで組織の名前さえ知らないんだよ?
遺恨を残すようなことにならないよ。
師匠は勇者でしょ。
私の友達を救って見せてよ。
少女は最後に涙を流して懇願する。
このタイミングで流す涙は、さては計算してやったな?と思ったがその様子からすると純粋な涙のようだ。
今まで見てきたこの子は私ほど嘘がつけるようには見えない。
信じたい。
そう思ったら私もつられてしまった。
嘘ではない涙は初めてだった。
驚いた。
それ以上は流れなかったけど、少女の気持ちが嬉しかったのだろうと自分を見つめる。
さてどうしたものか。
私は死の覚悟を決めた。
勇者も斬る決意をした。
少女だけが抗っている。
勇者とまた目があった。
今度は相談だ。
どうしようか?
お互いにそれを見て取ったら、おかしくて仕方がなくなって、2人して笑いだしていた。
今度は少女が困惑する番だった。
私は成り行きに任せることにした。
でもちょっとだけワガママを言うことにする。
自分の望む世界で生きてみたい。
ねぇ勇者様、一度だけチャンスをいただけませんか?
チャンス?
もしあなたの本気を防ぎきったら見逃してもらえないでしょうか。
ほう、いいだろう。
勇者は全てを両断する名刀を縦に構えた。
少女はもう邪魔をしない。
私は固定した空間を3層重ねた。
勇者の一撃がくる。
魔王をも退けた必殺の一撃が。
急に眼の前にいる老人が恐ろしくてたまらなくなった。
怖くて、怖すぎて目を逸らせない。
死の一撃は私の準備を合図に振り下ろされた。
衣擦れは2枚を裂き、3枚目で止まった。
果たして止めたのか止めてもらったのか。
そうして生き残った私はナイフを捨てた。
代わりに老人から教わった剣で稼ぎながら今までに出来なかったことをして楽しんだ。
もちろんあの少女と。
少女と再会を果たしたのは最近のこと。
薪割りとの戦いで疲れたけれど、レンが心配でモーフトンを見に行った。
力で固定した足場から眺める街はとても静かで、何も無かった。
少し見上げると街を覆うひまわりが近くに感じる。
未だ溶ける気配はない。
周辺を見渡していると街の外れ、西側に野営をしている一団を見つけた。
何か知っているかもしれないと思い近づく。
その一団は、なんとモーフトンの惨劇から生き延びた者達だった。
事件当初、東の方に少しだけ外に抜けられる隙間があったらしく、そこから出てきたのだそうだ。
だがそれもすぐに塞がり多くの人が取り残された。
その後、街から離れて様子を見ていたところにモーフトンに来た行商が助けてくれたのだそうだ。
レンやトウニのことを知らないか聞いて回ってみたが誰も知らなかった。
彼らがなぜここにいるのか聞いてみると、東でも大暴れしている者達がいるから、と西に退避しここに至るとのこと。
誰のことかは言うまでもない。
街の南西には、かつての工業区へ出稼ぎに来ている者の家がちらほらとある。
行商人が来る前のこと、外に出られた人の中にはそこに助けを求めて向かった者もいるらしい。
だがその中にレン達の特徴と一致するものはいなかった。
わずかな生き残り。
その数は決して多くはない。
彼らは互いの顔はともかく、姿はなんとなしに見て覚えていた。
だからレンとトウニを見ていないと言う言葉を鵜呑みにしてしまった。
でもあの2人はしぶとい印象しかない。
きっと生きている。
だけど今はあてがない。
そう考え家に戻ることにした。
北の地にある研究施設。
キラキラ工房。
私のタカラもの。
私はここを拠点としていた。
あまり寄り付くことはないが、そこが自分の家というとことになる。
その道中のことだ。
声をかけられ見やると、あの少女だったのだ。
本当に偶然。
この広い世界の中で偶然出会う確率とはどれほどのものだろうか。
「もっと前に最前線から北に向かったって聞いてたけど」
「うん、ちょっと色々あって。それにほら、モーフトンがあんなふうでしょ?遠目に見てなんか危なそうだから見てこいって師匠に言われて。またいつものだよ。これも修行だってさ」
「修行ねぇ」
「面倒なことは全部修行って言い換えるんだからずるいよね。まったく。もーついて行ってあげないぞって言ったら、ふん、好きにしろ、とかふてくされちゃってさ。ほんと子供なんだもん」
「そうだったの」
「そ。大体さ、最前線を出て本場の北に行くとか言い出したことも勝手だなって思ったけど、なんか常連が出来たからもうちょっとここにいるとか急に予定変えてくるし。それで居残ったら魔王軍が攻めてくるでしょ?それ見てまたいつもの修行。まぁ悪くはなかったけど」
「ふふっ、あの人らしい」
「でしょ。合流したら文句言ってやる」
「今はどこに行く途中なの?」
「家に戻るところよ」
「家って、キラキラ工房?」
「そうよ」
「そっか。私もそこまで一緒に行ってもいい?」
「もちろん、一緒に行きましょ」
「うん。あ、キラキラで思い出した。それって、販売してるの?」
「キラキラ?ええ、売ってるわよ」
「やっぱそうか。実はね、あー、っとその前にモーフトンを見に行く途中でね、その最前線の常連さんに会ったんだよ。すごい偶然だよね」
「へー、私達もそうだけど偶然ってあるものね」
「だね。世間って狭いよね。でね、その人の連れの女性がすごい熱出してて、一緒に看病してあげたんだよ。あんまり助けたくはなかったんだけど、常連さんが凄く心配してたから手伝ってあげた。どうしたらいいかわからんっすって言うんだもん」
「ふーん」
「で、その女の人の髪がちょっとだけキラキラしてた」
「あら、うちのお客さんだったのかしら」
「ところでなんで助けたくなかったの?」
「その女の人、あいつらの匂いが強かった。だからどうすべきか迷って、でも常連さんはそんな感じまったくしないから、まぁいいかって。ん?どうしたの?面白い話ではないと思うけど」
「ふふっ、いいの。気にしないで。話からすると、2人は北に向かったのよね?」
「うん」
「そっか。じゃあ私達も行きましょ」
「そだね」




