表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
適当に始める異世界転移  作者: Tongariboy
バケモノの宴1 セレモニー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/15

主人公補正も楽じゃない

「氷の日輪」

向日葵から放たれる氷の花。

高速回転する円盤が薪割りに襲いかかるが彼はそれを素手で真っ二つにする。

しかしその腕には血が滲んでいる。

血が滴る腕を見て満足気に微笑む向日葵であった。


「うふふ、いかにあなたといえども素手でそれを断つのは危険でしょう」

「トゲトゲしてるからちょっと痛いくらいだ。大したことはないな」

「強がりを。あなたが真っ二つになりなさい!」


日輪が2つ、薪割りに放たれる。

どう対処するか薪割りは考えていた。

切り裂くことは出来る。

しかし手が痛い。

だが避けると周囲のひまわりにぶつかってこれもまた痛い。

「どうしたものか」

そう言いつつとりあえずまた日輪を切り裂く。

斧さえあれば簡単に薙ぎ払い片がつくのだが、まさかこうなるとは思いもよらず相棒を置いてきた事を後悔する薪割りであった。


 氷の花畑。

周辺のいたるところからひまわりが咲いている。

触れるのを躊躇うほどに尖った氷の花は夕日に照らされ青白さの中に朱色のコントラストを放っている。

「まずはこの花を片付けるか」

「出来るかしら。花は次々に咲くものです。私が望む限りこの花畑が枯れることはありませんよ。キレイでしょう」

「そうか?目がチカチカするだけだぞ。この光景はいい加減疲れるなぁ...よし決めた」

「何を」

その意図を掴めない向日葵を無視し、薪割りは拳を握り力任せに地面に叩きつける。

するとかつてトウニ達の前で斧を振り下ろしたように地面が割れ氷もろとも破砕される。

ひまわりで覆われた地面が隆起し氷の世界に大地の彩りを加える。

「おのれ!氷よ、咲き誇れ!」

割れた大地を覆うように花と氷が世界を侵食する。

「おせーよ」

氷に塗り替わるよりも早く大地の色を踏み向日葵に近づく。

距離を取る向日葵。

距離を詰める薪割り。

そして細い首を断つべく血まみれの腕を振るう。


 首が断たれるかと思われたが、薪割りの腕をひまわりの花が凛と咲き止めていた。

「惜しかったですね。斧があれば今ので私の首など跳ねていたでしょうに」

「いいや、そもそもこんなトゲトゲにされる前にお前如き真っ二つにしてるさ」

更に放たれる日輪を避けつつ舌打ちを残して彼は離れた。


「地面を割るとは厄介なことをします。では、これはどうしますか?降り注げ、凍える太陽の涙」

呪文のように言葉を紡いだ彼女から伸びた巨大な柱から空を覆うかのように巨大な花が咲く。

ひまわりの花から氷の種がこぼれ落ち、逃げ場などないほどに降り注ぐ。


「ちっ、ほんとめんどくせーな!これじゃこの区画が全壊するだろ!と俺の言えたことではないか。このあと金色ともやりあうかもしれないことを考えると、だが仕方がないか...オラァ!」

盛り上がっていた地面の一部を持ち上げ種の脅威から身を守ると彼はそのままもう一度向日葵を目指す。

止むことのない涙は空と大地の間にあるもの全てを串刺しにした。

持ち上げた盾は彼女に肉迫する前に粉々になる。

しかしどれほど涙が流れようとも、血が流れようとも彼女へと突き進む彼を止める事はできなかった。

薪割りの動きに応じて間合いを開ける向日葵。

「致命傷だけ避けているのですか、器用なことをする。普通ならとっくに死んでいるのに、まったくもって厄介な人ですね!」

「てめぇ、いつか必ずぶっ殺す。だがな!」

「なっ、速い!」

それまでよりも一層速く踏み込む薪割りを遠ざけられない向日葵は咄嗟にひまわりシールドで首を守る。

左から迫る血まみれの男から身を守るがしかし彼女は薪割りの狙いを読み誤った。

「首は諦めてやる」

盾の端から覗く右目を振り上げた左手で真っ二つに切り裂く。

「ああああぁぁぁ!...きさまぁぁぁ!うう、ぁぁぁ...」

向日葵は激痛に苦しみながらもシールドを投げ飛ばし薪割りをよろめかせる。

その隙に遠ざかった向日葵は周囲を氷の花で満たし相手に近づく隙を与えなかった。

その姿を見て薪割りは快く笑う。

「ははは!ざまーねーぜ。キレイなだけの特徴のない顔にアクセントをつけてやったんだ、感謝しろ。ふはは、はははははっ!」


 全身血だらけの男と顔を裂かれ血で染まった女はついに対峙したまま動きを止めた。

「うぅ、ぐぅ、き、きさま...必ずこの恨み晴らしてやる。世界がどうなろうとお前だけは探しだし必ず殺す!」

氷で顔の右を覆いながら向日葵は薪割りを睨み、そして深く恨んだ。

薪割りは意に返すこともなく見下すように笑いかける。

「来てくれるなら手間が省ける。献身的で嬉しいよ向日葵。だから次は痛い思いなどさせずに一太刀で首を落としてやるから安心しろ」


 内心限界を感じていた薪割りは、ひまわりを周囲に咲かせながらよろめき立ち去る向日葵を追うことが出来なかった。

「いってー...あーあ、ほんとに痛い思いをしちまったな。これじゃ金色とやり合うのは難しいか。はぁ、あれでもバケモノと呼ばれてんだもんな。今後は斧を持ち歩くかなぁ。あー、つっかれたぁー」

向日葵の姿が見えなくなると、彼は背後に何もないことを確認し崩れるように倒れ込んだ。



 バケモノから遠ざかったトウニはレンに教わった方法で連絡員との接触を試みていた。

指定された扉に向かう。

扉を3回ノックしドアノブ2回ひねる。

そして扉を2回ノックしクルッと回って拍手を2回行なった。

「最後の方意味あるのだろうか」

「お疲れ様です。こちらへどうぞ」

「なんか出てきた」

扉を開け招き入れたのは小柄な女性だった。

人間の。

「ここであってます?」

「ええ、会員制の秘密の集いへようこそ」

「なっ...なんか違うような。まあいっか。おじゃましますー」


 トウニは言われるがままについて行く。

そして前を行く女性以外に誰もいないことにようやく気がついた。

「あの、ここって」

「どうぞこちらです」

そう言ってからもしばらく歩く。

ここです、と言われ通されたのは錆が端々に見える重たそうな扉の前。

「どう見ても囚人とか入れてそうなドアっすね」

「そういう趣向なんですよ。どうぞ」

「あ、そう言えば入口に大切な串焼きを置いてきたような」

「いいからさっさと入れ!」

本性を出した女に蹴り飛ばされドアの向こう側へと入るトウニ。


 戸惑う間もなく目の前の厳ついモグラに質問を浴びせられる

「お前、魔王軍か?」

「四天王トウニだ。よろしく頼む」

「おい、拷問の準備だ」

「はい」

「ちょぉっとまったー!自分はレンさんの使いでここに」

「どうやって入り方を知った」

「だからレンさんに」

「レンとは誰だ」

「え」

「連れて行け」

「ああー!こ、これっす、これ渡してほしいって!」

「運び屋か。おい、確認しろ」

「承知しました」


 トウニはレンから託されたレポートに希望を託しモグラの隣りにいたネコっぽい女性に渡した。

彼女は表紙で目を止めトウニと見比べる。

そうしてレポートを読み始めながらチラチラとトウニを見る。

「なんすか?」

「いえ」


「おい、まだか?」

しばらく読みふけっていた女性は我に返り報告する。

「すみません、これは恐らく連絡員No.198と思われます」

「イチキュッパとはいい数字っすね」

「黙っていろ。内容は」

「はい。最前線からここに来るまでの経緯が記載されています。日記風に」

「なるほど。寄越せ」

モグラはレポートを受取るとネコっぽい女性と同様にトウニとレポートを見比べ内容を吟味し始めた。

途中唖然としながら少しずつ読み進める間、もしここに時計があればその秒針さえ聞こえてきそうな沈黙が流れていた。


 モグラは読み終えると少し考え、咳払いをしてからトウニに質問を始めた。

「まず、あー、お前がトウニという人間なんだな」

「そす」

「この表紙に書かれているのはお前のこと、なんだな?」

「おっしゃる通り」

「で...この、いや、まずは内容はわかった。ここまでの経緯も大体わかった。で、この絵は何だ?」

「レンさんすね」

「No.198のことだな。ふむ、なるほど。それでこのコメントはなんだ、暗号か何かか?」

「コメント?」

「これだ」


モグラはレポートをトウニの前に放り投げる。

拾い上げたトウニはその絵とコメントを見て合点がいく。

「あー、これキンイロさんが書いたやつっすね」

「キンイロ?」

「恐らく金色の妖精のことかと。街の外にいるのを確認しています」

「そうだったな。いや待て、貴様!まさかあのバケモノと行動をともにしているとでも言うのか」

「はい、そうっすよ?」

「そうっすよって、一体どういう状況なんだ」

とうとうモグラの困惑は限界に達した。

いかに諜報部門の長といえど、トウニを相手にまともな会話が成り立つことはなかった。


 お茶を飲んで一息付いたモグラ長官は改めてトウニに質問を始めた。

「どういう状況なんだ。ちゃんと説明しろ」

「レンさんがキラキラに興味を持って意気投合したキンイロさんが付いてきたんですよ」

「キ、キラキラ?えーい、もうよくわからん。No.198 はどこにいる」

「外でキンイロさんと一緒にいると思いますよ」

「金色と一緒、だと。おい、連絡員No.198を連れて来い!もうさっぱりわからん!」

「キンイロさんがいるから来れないって言ってました」

「いいから連れて来い!」

「ういっす」



 来た時の道よりも早く地上へ放り出されたトウニ。

外は暗く身震いするほどの寒気が漂っていた。

金色がいるからレンが入れず困っていたのにそれをどうにかしろとはなんと理不尽な要望か。

彼はそう思いながらもレンの元へと帰ることにした。

途中串焼き屋に寄りながら。

「おっちゃーん、串焼きくーださい」

「おうよ」

「なんかくらい顔してるけど、どうしたんすか?」

「ああ、さっき冬の向日葵と薪割りが争ったとかで一部の区画が閉鎖されたんだと聞いてな」

「やばいっすね」

「まったくだ。一体何があったんだかな。原因作った野郎をとっちめてやりたいぜ」

「そすね」

「にーさん、気をつけろよ」

「な、何をっすか」

「ああいう連中に関わるとろくなことにならん」

「まったくもっておっしゃる通りですな」

「ほらよ。ちょっとサービスしといたぜ」

「おお」

「今日は客足が遠のいちまったからな」

「あざっす。じゃ」

「おう。気をつけて帰れよ」

「はいー」


 区画が半壊した原因が自分にあるとは当然言えないトウニ。

少なからず気まずい思いをしながら、どこからか漂う冷気に見を震わせながら熱々の串焼きを頬張った。

辺りは暗く街を出るにはピッタリの時間だったが、彼は外には行かずに街の高いところへ向かった。

やや明るい夜空に照らされた街並み。

眼下に見据えたものは2つ。

ささやかな明かりを反射する艷やかな氷で覆われた区画。

そしてレンのいるであろう方向。

「自分の周りってどうしてこう面倒事ばかり起きるんだろうか。主人公補正ってたまに厄介っすね」

勝手な解釈をつぶやき残りの串を頬張ると、トウニは手頃な場所に寝転がってそのまま眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ