魔王の毒
キラキラになったレンのことが気に入った金色は彼女とともに行くことを決めた。
断ってもどうせ付いてくるだろうし、こいつにトウニの教育を押し付けようと考えたレンは同行を認める。
もちろん彼女は他にも打算していた。
金色がいるととても目立つのだが、ここまで目立ちしかも有名な人間と一緒にいれば自分が魔王軍に属しているとは誰も思うまい、と考えてのことだった。
しかしトウニはそれを知らない。
彼にとっては謎のキラキラでしかなかったのだ。
「ところでなんでこの人いるんです?」
「色々と使い道があるし断ってもついてくるからだな」
「キラキラで繋がった友情よ」
「意味不明なこと言ってますね。この人ってたしか最前線にいた人でしょ?この間も薪割りさんに会ったしこれはもしや」
「そういえばそうだな。薪割りに続き金色にまで会うのは流石に出来すぎた偶然に感じるが」
「偶然なんだけど。特に示し合わせたわけじゃないし」
「そんな事があるか?」
「ふふふ。これは自分のせいっすね」
「そうか、こうなったのはお前のせいか。やはり斬り捨てておくべきだったか」
「ちょ、キラキラになったくらいでそんな。理由聞いてくださいよ」
「面倒くさい奴だな。トウニさんなんでですかー」
「レンって意外とノリいいわよね」
「ふふふ。これは主人公補正というやつですよ」
「主人公?お前が?だとしたらバッドエンド確定なんだろうな」
「やめてくださいよそんなフラグ立てるようなこと。自分ハッピーなエンド希望っす」
「例えばどんな」
「毎日ゴロゴロして串焼き食べ放題な暮らしで終わりっす」
「叶うとしたら天国でだな」
「もー!どうしてそうなるんすか!」
「働けバカモノ、ということだ」
「バケモノとバカモノって似てるわね」
「雲泥の差だがな」
「うきー!」
3人は仲良くモーフトンを目指し旅を続けた。
その間トウニの訓練はまだ続けられてたのだが、レンと金色からすると彼には才能がないと判断。
だがやればそれなりに動けるようにはなり、少なくとも旅を続ける上での基礎体力は培われていた。
「レンさん、見てください」
「なんだ。お前の腕がどうかしたのか」
「自分ムキムキになりました」
「ムキムキ?おい金色。こいつがムキムキになったら力比べをしたいんだそうだ」
「いいわよー」
「いや無理でしょ!こんな怪力相手に」
「怪力だなんて女性に言うものじゃないわよ」
「そうだな。最低だ」
「どう転んでも落とされる。これが理不尽」
「おお、理不尽なんて言えるようになったか。前は言えなかったのにな。賢くなったものだ」
「褒められているようでけなされているっす」
「いいじゃない。あなたにしては上出来ってことよ」
「フォロー下手すぎ。もはや流れる涙なし」
「それは素晴らしい。強い戦士への道が半歩位は進んだな」
「苦労したわたし達の教育のおかげねぇー」
「おのれ。いつかこの四天王の力で跪かせてくれる」
「そういえば四天王だったか。そんな設定あったな」
「魔王軍ってそういうの好きよね」
「かっこよくないか?」
「レン...あなた魔王に毒されすぎよ」
しばらく進み見渡すと草原ばかり、遠くには山が見えるのどかな街道をのんびり歩きながら金色はトウニについてレンと話し合っていた。
「あれがそんなに有用には私には感じないけど」
「本人自体はな。だがあれの能力はおそらく相当危険なものだ」
「重力を操るっていう?」
「そうだ」
「ふーん」
金色は呑気に歩いてどこで買ったのか串焼きを食べているトウニを見た。
確かに身体能力に目立ったところはない。
皆無といっていい。
いかに能力が良くても活かせるとは思えないと金色は思った。
「だとしてもあれが脅威になるとは想像できないわねぇ」
「まぁ私もそうなのだが」
「ああ、可能性があって、弱体の一途を辿る魔王軍にとって一縷の希望となるかも、なんて考えたわけか」
「さあな」
レンは内心完全に見抜かれていることにうんざりしながら何食わぬ顔で答えた。
「ちょっと試してみようかしら」
「殺すなよ」
「ねぇトウニくん」
「なんすかキラキラさん」
「特訓よ」
「いきなりすね」
金色は近くに落ちていた長剣程の枝を見つけ構えた。
トウニは訓練の結果小回りがきく方が良いということでレンのナイフを譲り受けていた。
金色の気迫に押されそのナイフを握りしめる。
「あの、本気じゃないですよね?」
「あなた次第よ。せいぜい頑張りなさい」
剣を突きつけるように金色が直進して襲い来る。
トウニはとりあえず進路から外れるように横にそれる。
トウニの出方をみていた金色は枝を彼に振り下ろした。
もちろん本気ではないのでトウニにもかろうじて避けることが出来たが、金色は容赦なく振り続けトウニは次第に追い詰められていく。
「トウニくん。あなたの能力使ってみせなさい。でないと、頭かち割るからね」
「自分の頭はスイカじゃないんで!」
宣言通りにするためか金色がそれまでより素早く枝を振り下ろす。
後ろへよろめくように避けたトウニだがもう後がない。
もつれる足で避けきることも出来ず、再度繰り出される金色の攻撃がトウニの頭をとらえた。
「おい!やめろ!」
レンの言葉は届かなかった。
言い終わる頃にはすでに結果は見えた。
金色のもつ枝はトウニの頭に触れる少し前で止まっていたのだ。
「なにこれ、上に引っ張られる。なるほどねー」
「トウニ、お前、触れなくてもいいのか」
「えーと、どうなってるんすかね、これ」
金色が手を離すと枝は空高く登っていった。
空を見上げる金色にレンは近づく。
「おい金色。満足か?その辺でやめておいてほしいのだが」
「ええいいわよ。確かに面白いわね」
「自分は全然面白くないっす」
不機嫌にするトウニにレンは声をかけた。
気を使ってばかり、結局自分が苦労するんだなと思いながら。
「いいじゃないか。四天王の力を存分に示したんだ。格上の相手が興味を持つ程のことをしたのだから」
「そう、すね。ふふふ...この四天王最強のトウニ様の力存分に味わうがいい」
「あなたが最強なの?四天王って相当弱い集まりなのね」
「そんなわけないだろ。真に受けるな。このアホは魔王軍最弱四天王のトップだ」
「そんなものいつ作ったんすか。ていうか他の3名は」
「募集中だ」
「いつか、いつかちゃんと四天王の1人として思い知らせてやるっす!」
「おお、いい心がけだ。お前にしてはかなり高い志じゃないか」
「そうなったら戦い甲斐があるわね」
「どこまでもバカにしおってー」
「日頃の行いが悪いからだろーが。普段からちゃんとしろ」
「自分、適当さがアイデンティティなんで。それなかったらただ始まる異世界転移になっちゃうじゃないっすか」
「わけのわからんことを...」




