00. プロローグ 〜魔王四天王参上〜
───広い部屋に1人の男がいた。
彼の足元に大きな魔法陣。
男が手を挙げると、魔法陣が呼吸するかのように光を放つ。
次第に強まる光。
光の呼応に、男の強烈な魔力が渦巻き始める。
そしてついに魔法陣が最後の悲鳴を上げ、その悲鳴を黙らせるかのように男が叫ぶ。
「いでよ! 魔王四天王!」
魔王の呼び声に応える魔法陣。
陣から部屋を壊しかねないほどの凄まじい雷光が迸った。
力尽きた魔法陣の上には4つの影がいた。
静かに佇む巨体、周囲を油断無く見回す有翼人、四足の獣。
そして。
「ここ、どこですか?」
場違いな人間の青年が1人いた。
偉そうに座る魔王。
「我が呼び声に応え集った勇士達よ。主である我が命に従い人間を滅ぼすのだ」
「いきなりすね」
「なんだと。ん? お前、弱そうだな」
「強くはないと思います……えーと、この状況がよくわからず、説明があるとありがたく」
青年の問いかけに答えたのは魔王ではなく有翼人だった。
「君は何を言っているのです。ここは魔王城。私達は魔王様に召喚された魔王四天王でしょう」
「四天王?」
「なっ……まさか、わからないのですか?」
その場にいた全員が青年に目を向ける。
どう見ても普通とはいえない姿の者達。
その視線を一斉にあびた青年は萎縮してしまった。
「いや、だって、いきなりだったし。足元がピカーって光って、なんじゃこりゃーって言ってる間にここに来て。むしろ皆はなんでわかってんの? ていうかここどこ、魔王城ってどこのテーマパークですか」
眉間にシワを寄せた魔王は青年をじっくり観察していた。
「お前、本当に四天王か?」
「違うと思います」
「ではなぜ来た」
「いや、それはむしろこっちが言いたいことなんだけど」
「キサマ! 魔王様に舐めた口きいてんじゃねえぞっ!」
突然の咆哮。
反射的に耳をふさぐ青年。
彼の身体を吹き飛ばしそうな大声は、巨体の四天王から放たれたものだった。
びっくりした青年は取り繕うように喋りだす。
「す、すみません、ほんとに状況わからなくて、そういえばさっき人間滅ぼせっておっしゃってましたけど、自分、人間なんすけど……? あー、というわけで、いっそやり直しません? 自分一旦帰るんで、もう一度四天王を呼んでいただくのがよろしいかと」
「ダメだ」
「魔王様、それはなぜでしょう」
「疲れた」
「さようでござりますか」
有翼人は頼りない彼を品定めするように覗き込んできた。
「君、何か出来ること無いの?」
「出来ることって……例えば?」
「ふっ、例えば私。強力な魔法、そして縦横無尽に空を舞う、つ・ば・さ。制空権を手に魔法で追い詰める狩人なのです」
「おお、それはなんかすごい」
負けじと巨体も響きだす。
「オレは見ての通りの怪力だ。この声で動きを止めて無防備になった相手を殴りつけるっ!」
「そー、そうなんですねー。自分はもー、動きどころか心臓が止まりそうですー」
そして見計らったかのように大型犬よりも一回り大きな獣が踏み出した。
「ハッハッハッハッハッ」
「この子は、犬ですかね。何を伝えたいのでしょうか、魔王様」
「知らん」
「ですよねー。とりあえず、お手。なんちって」
青年の出した手を食いちぎりそうな勢いで噛みつく獣。
間一髪手を引っ込め事なきを得た青年は、有翼人の後ろに隠れることにした。
「ははは、いや、すみません……あ、皆さんなんてお呼びすればいいのでしょう」
「私はチャティ」
「オレはクゥエ」
「じゃあこの犬は……パトラとかにしておきます? 有名な犬の名前から」
「いいだろう」
「どもー。自分トウニっていいます」
「トウニ」
「はい」
「お前が弱いことはよくわかった」
「お役に立てずすみません」
魔王は少し考えてからこう言った。
「いや。役に立ってもらおう」
「へ?」
「人間の街へ行け。そして奴らの情報を持ち帰るのだ」
「つまり、スパイってことですか?」
「スパイ? よくわからんが心得たのであればそうだ」
「いやー、そんなの無理っすよ」
「いいから行け。死にたいのか?」
「ラジャー、いってまいりますー」
げんなりした顔の魔王。
さっさといけと言わんばかりに手を振り払う。
「定期的に使者を送る。その者に報告するように」
「承知ですー。ところで、何か生き抜くために力を授けてくれたりは……」
「そんなことをしたら人間に気づかれるだろう。バカモノ。そのまま行け」
「へへー。仰せのままに」
選択肢のないトウニは深々と頭を下げて従った。
「チャティ。こいつを街の近くまで運んでやれ」
「承知いたしました」
最後にそう指示して魔王はどこかへ行ってしまった。
チャティと外へ向うトウニ。
「まさか、飛んでくの?」
「もちろんです。私のこの」
「つ・ば・さ、を使うんすね。うへー、落とさないでよー」
チャティに運ばれて空を行く。
景色の良さなど感じる余裕はない。
有翼人の気まぐれで命がなくなるのかと思うと落ち着かない。
「やれやれ、魔王様のお役に立つよう努力するのですよ」
「へえ、頑張ります。ところで」
「なんでしょう」
「スパイって、何すればいいんでしょう?」
「……さあ?」
「……」
沈黙。
空にいるわりに風は弱い。
穏やかな風は、ちょっと重たい空気を吹き払ってはくれそうになかった。
少し気まずそうにチャティが口を開いた。
「と、とにかくがんばりなさい」
「うっす。はぁー、それにしてもまさか異世界転移するとはなぁ。しかも召喚したのが魔王とか、まじかー」
「光栄なことでしょう」
「へいへーい」
暗く穏やかな空をのんびり飛んで行く四天王の2人であった───




