魔王四天王参上
広い部屋に1人の男がいた。
彼の足元には大きな魔法陣。
その魔法陣が呼吸するかのように光を放つ。
そして次第に強まる光。
光に呼応する男が放つ魔力も強烈に渦巻きだす。
ついに魔法陣が最後の悲鳴を上げる。
その悲鳴を黙らせるように男が叫ぶ。
「いでよ!魔王四天王!」
魔王の呼び声に応えた魔法陣から部屋を壊しかねないほどの凄まじい雷光が迸る。
力尽きた魔法陣の上には4つの影がいた。
静かに佇む巨体、周囲を油断無く見回す有翼人、四足の獣。
そしてもう1人。
「ここ、どこですか?」
人間の青年がいた。
「我が呼び声に応え集った勇士達よ。主である我が命に従い人間を滅ぼすのだ!」
「いきなりすね」
「なんだと。ん?お前、弱そうだな」
「強くはないと思います...えーと、この状況がよくわからず、説明していただけるとありがたく」
青年の問いかけに答えたのは魔王ではなく有翼人だった。
「君は何を言っているんです。ここは魔王城。私達は魔王様に召喚された魔王四天王」
「四天王?」
「まさか、わからないのですか?」
その場にいた全員が青年に目を向ける。
明らかに普通ではない格好の者達から視線を一斉にあびた青年は萎縮してしまった。
「いや、だって、いきなりだったし。足元がピカーって光ってなんじゃこりゃーって言ってる間にここに来てしまって。むしろ皆はなんでわかってんの?ていうかここどこ、魔王城ってどこのテーマパークですか」
眉間にシワを寄せた魔王は青年をじっくり観察していた。
「お前、本当に四天王か?」
「違うと思います」
「ではなぜ来た」
「いや、それはむしろこっちが言いたいことなんだけど」
「キサマ!魔王様に舐めた口きいてんじゃねえぞ!」
突然の咆哮。
まるで人間の身体が砕けそうな大声を出したのは四天王の1人の巨体から放たれたものだった。
驚いた青年は取り繕うように喋りだす。
「す、すみません、ほんとに状況がわからなくて、そういえばさっき人間滅ぼせっておっしゃってましたけど、自分、人間なんすけど...?というわけでいっそやり直しません?自分一旦帰るんで、もう一度四天王を呼んでいただくのがよろしいかと」
「ダメだ」
「魔王様、それはなぜでしょう」
「疲れた」
「さようでござりますか」
「君、何か出来ること無いの?」
「出来ることって、例えば?」
「私は強力な魔法と空を自在に飛び縦横無尽に魔法を放ち相手を追い詰める狩人です」
「おお、それはすごいですね」
負けじと巨体も響きだす。
「オレは見ての通りの怪力だ。この声で動きを止め無防備になった相手を殴りつける」
「そー、そうなんですねー。自分はもー死にそうです」
そして見計らったかのように獣が踏み出す。
「ハッハッハッハッ」
「この子は、犬ですかね。何を伝えたいのでしょうか、魔王様」
「知らん」
「ですよねー。とりあえず、お手。なんちって」
青年の出した手に食いちぎりそうな勢いで襲いかかる獣。
間一髪手を引っ込め事なきをえた青年は有翼人の後ろに隠れることにした。
「ははは、いや、すみません。皆さんなんてお呼びすればいいのでしょう」
「私はチャティ」
「オレはクゥエ」
「この子は...パトラにしておきますか。有名な犬の名前から」
「いいだろう」
「ども、自分トウニっていいます」
「トウニ」
「はい」
「お前が弱いことはよくわかった」
「お役に立てずすみません」
「いや。役に立ってもらおう」
「へ?」
「人間の街へ行け。そして奴らの情報を持ち帰るのだ」
「つまり、スパイってことですか?」
「スパイ?よくわからんが心得たのであればそうだ」
「いやー、そんなの無理っすよ」
「いいから行け。死にたいのか?」
「行ってまいります」
「定期的に使者を送る。その者に報告するように」
「承知ですー。ところで、何か生き抜くために力を授けてくれたりは」
「そんなことしたら人間に気づかれるだろう。バカモノ。そのまま行け」
「へへー。仰せのとおりに」
「チャティ。トウニを街の近くまで運んでやれ」
「承知いたしました」
「まさか、飛んでくの?」
「もちろん」
「うへー、落とさないでよー」
チャティに運ばれて空を行くトウニ。
有翼人の気まぐれで命がなくなるのかと思うと落ち着かない様子だった。
「やれやれ、魔王様のお役に立つよう努力するのですよ」
「へえ、頑張ります。ところで」
「なんでしょう」
「スパイって、何すればいいんでしょう?」
「...さあ?」
「...」
「がんばりなさい」
「うす。はぁー、それにしてもまさか異世界転移するとはなぁ。しかも召喚したのが魔王とか、まじかー」
「光栄なことでしょう」
「へいへーい」
暗く穏やかな空を行く四天王の2人であった。